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豪華絢爛御前試合  作者: カニマル
義虎編
2/9

義虎編 壱

踏み込めば、二度と戻れない

されど私は、ここに立つ。








いつものように刀を振る。 道場に伝わる幾つもの型や技を、いつものように本気で。

全身全霊の力で、 想いを込めて。


それを行うのに、特別なことはない。最早日常になって久しい。そうして、いつの間にか全ての型を構い終える。

そして閑散とした道場に拍手が響いた。


「お目汚し、失礼いたしました。」


「いえいえ、こちらこそ無理を言って申し訳ない。 いやぁ相変わらず良いものを見せていただいた」


そう言って近寄ってくるのは幕府の役人、照田である。


「•••いえ、喜んでいただけたなら幸いです」


「洗練された動作に派手な動きは不要なのですなぁ…美しさすら感じましたぞ」


照田は満足げに頷きながら巻物を取り出すと、慎重にそれを義虎へ差し出した。


「さて、本題はこちらでしてな。義虎殿、『絢爛御前試合』 予選への出場、是非にお願いしたい」


義虎は驚いたように目を開き、照田を見つめる。


「早速ですが、規則についてお話させていただきたい」



御前試合 試合規定


第一条:

御前試合は、実力者がその腕前をもって技芸を競うものであり、武門の誉れを立証することを主旨とする。ただし勝敗はあくまで結果とし、戦中に生じるいかなる損害(生命・身体・名誉)についても、主催は一切の責を負わぬ。


第二条:勝敗

勝敗は以下のいずれかによって決するものとする。

- 一、相手が戦闘不能に陥った場合

- 二、相手が明確に降参の意思を示した場合


※戦闘不能とは、致命的負傷に限らず、自立・応答・反撃の不能と見なされる状態を含む。


第三条:武器の破損

試合中、使用武具が破損した際は、

- 審判の判断により一時中断

- 別途用意された代替武器への交換

- その後、仕切り直しとして再開


※再開の際は両者の立ち位置を初期に戻し、審判の合図をもって続行される。


第四条:戦意放棄

降参の意思表示は、

- 明確な言葉による表明

- 審判への意思伝達


いずれかをもって成立する。

降参後に不意打ちを図る行為は、即座に無効とし失格とする。


第五条:外的介入

本戦場内において、試合者以外の人物が戦闘行為に関与した場合、当該試合は即時停止となる。

ただし、事前の承認または公的な許可に基づく交代劇については、特例として継続が認められることがある(※裁定は奉行または審判に委ねられる)。


第六条:その他

- 命のやり取りが含まれるため、試合前に誓約書へ署名を行うこと

- 試合場における毒、術具、隠し武器の持ち込みは原則禁止



「以上が、御前試合の規則になります」


「…真に、私でよろしいので?」


「むしろ義虎殿こそ相応しいと思っております。 道場主としての声望もさることながら、あなたの剣は皆も認めております。故に、是非」



義虎の眉間が寄る。

巻物を静かに受け取りながら、その封に視線を落とす


比句斗はその表情にほんの少しの緊張を読み取った――だが、 それを言葉にはしなかった。


「あなたの剣は素晴らしい。経験を積めば更なる高みに上り詰めるでしょう。この御前試合を、利用なさっては如何でしょうか?」





その日の夜。義虎は道場にいた。

道場の中央に静かに腰を下ろし、巻物を取り出して指でなぞる。

触れた指先に感じるのは、かすかな緊張。いや、違う。

これは恐れだと、自覚していた。

「時が来た、のかもしれぬ」

呟きは、誰にも届かぬ独り言。だが、その一言一句が胸の奥に深く沈んでいく。

「これまでは、型を極め、技を磨く。それだけ故に、自分のみが敵であった。

道場の静けさが、巻物の重さを増していく

「果たして俺に、命を懸ける者の覚悟と向き合う資格があるのか」


今までは、勝てずとも称賛があった。 相手と友誼を結んだこともあれば、役人に目を掛けてもらったこともある。 つまり、負けがそのまま不名誉とはならなかった。

過去の戦いは、あくまで試合。勝負であり、命を奪うものではなかった。

しかし、此度の試合は、 死合となる。 無論、喜んで殺そうとする者ばかりではないであろうが、やむを得ずということもあろう。


改めて自問する。御前試合への参加を。 人に斬られること。斬ること。人を殺すこと。


「それでも、進むと決めたのは俺だ」

義虎は目を閉じ、深く息を吸った。


「斬らずに勝てるなら、それに越したことはない。だが必要とあらば、躊躇いなく振るえる心でなければ――」

言い切らず、封を破る。

御前試合、本戦の前哨戦。自分自身を試す戦い。その幕が、今、静かに上がる



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