序章
準備は?
は。着々と進んでおります。
…その割には表情が硬いな?
... 理解しかねるのです。殿は何故このような大掛かりな催しを···?
ふむ。聞けば様々な理由を語ってくださるだろうが、まぁ本心は決まっておろうな。
…それは?
己の手で大きな何かを成したかったのだろう。
…その為だけに?
そうとも。その為だけに巨額の富、人脈、物資を使ったのだ。
…
…愚かと思うか?
はい。
そう思うことは仕方あるまい。止めはせん。
だがな?ここまで真面目に生きてきた殿の事を思うと、一度くらいの我儘は聞いても良い。 そう思うのだよ。
…それに、な。
まだなにか?
刀を振るう事でしか生きられない者共にも、 救いは必要であろう?
…理解はしました。 賛同は致しかねますが。
この馬鹿正直者め。 よくここまで生きてこられたものだな?
心内を零す相手は選んでおります。
...では、そろそろ。
うむ。手は抜くなよ。
日乃本が統一されて100余年。 天下泰平になって久しい。
地域にもよるだろうが、戦や乱などは人々の記憶から遠ざかった。 侍とて今や首級よりも実務による手柄で食う時代。
剣術指南の仕事や道場で指南する者もいるが、その数は多くはない。
しかし、その腕でもって 「時代遅れ」 とほざく馬鹿者を黙らせる。
そんな猛者がこの泰平の世にまだ存在する。
時の将軍である尾津府乃 茂名はある催しを開催することとした。
この世で最も強い侍を決める。 そんな催しを。
どのような思惑でもよい。 どのような身分でもよい。ただ強さのみがあれば。
各地の衆の者は沸いた。ある者は力を誇示せんと。ある者は家の復興がため。ある者は一攫千金のため。
これから始まるは、そんな予選に降って湧いた、ある6人の話である。