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第一章 ギャノンズ② 緑川麗美

 13:00過ぎ、妙瑛(みょうえい)ビル5階。

 週刊マンスリーの編集部が入るこのフロアへ今日もタケシはやって来た。無論入稿のためである。

 エレベーターを降り、廊下を歩くタケシの背後から


…ドドドドドドドドド


 と足音。

「タ〜ケ〜シ〜くぅ〜ん♡」

 ヤバい!と思った時にはすでに遅かった。

「むグぉ⁈」

「いゃあ〜んもぉ〜、か〜わ〜い〜い〜♡ ねぇねぇ、婿に来ないっ? ウチの会社継いで社長やらないっ? 子供はぁ…いっぱい欲しいけど権力争いとか相続とか実家(ウチ)の都合であんまり作れないのよぉ。ざぁ〜んねぇ〜ん。でもでも、3人くらいは」

 緑川麗美(れみ)。マンスリーと同じ出版社のファッション誌『ミスティ』編集部員。

 電子パーツメーカー(株)緑川電子の一人娘で、社内で就職し婿を取るよう親に言われたが「私の人生は私が決めますから」と反発、出版業界へ。とはいえ実家のことは常に脳裏にあり、いずれは戻らねばならない、その契機は結婚かな?と思い続け、気が付けばアラサー。そんな折、マンスリー編集部に出入りするようになったタケシを見て一目惚れ、ご覧の有様だ。


挿絵(By みてみん)


 ご覧の、というのは、タケシを見つけるや否や189cmの惠体が信じられぬ速さで猛ダッシュ、タケシを『捕獲』すると煩悩の数を僅かに上回る全周109cmの二つの巨大な肉塊の狭間にタケシの頭を飲み込んだ。さながら高速移動する食虫植物。

 タケシに相手が女性だからという遠慮はあるものの、しかしながら毎日のジム通いの賜物であろう想定を遥かに上回る筋力で頭部をロックされてはさすがのタケシも身動きは取れない。麗美を狙う逆玉狙いの男性社員(オオカミ)どもは多く、彼らからの羨望の眼差しが矢の如くザクザクと突き刺さっているのだが当のタケシはそれどころではない。二つの巨大な脂肪塊の柔らかさとそれらを支えるワイヤーの硬さを頬に感じつつ、遠のく意識の中で「ああ…午後ともなるとちょっと汗くさいなぁ…」と思うのだった。

「むごっ むごっ ぷはぁ!」

 ハイブランドのブラウスの肌触りの良さを感じる余裕もなく脂肪塊の海からやっと顔を出して呼吸を確保したタケシ。

「そんな無茶な。大体ミスティ編集部はどうするんですか?」

「即辞めるわよぉ。なんならココごと買い取っちゃってもいいくらいよぉ?」

「そんな…ムチャな…」

「ちょっと! 緑川さん!」

「ん~? あ~らルミちゃ~ん。こんにちは~」

 声の主は廊下に仁王立ちのルミ。

「いつまで経っても入稿に来ないと思ったら…緑川さん。彼はこれから仕事があるので放してもらえませんか?」

「あ~ら~、おっかなーい。まいだぁりんとの逢瀬のヒトトキに妬いちゃってるのかしら~?」

「まい…だぁりん…?」

「別にそんなんじゃありません! さあっ! 行くわよ!」

 とルミは語気も荒くタケシの手を引き麗美から引き剥がす。

「ああ~ん、まいだぁりんが拉致られたぁ〜」

「拉致も何も! 仕事ですから!」

「あの! 麗美さん! おつかれさまです!」

 タケシはお辞儀しながら右腕を引かれてドナドナ状態。かなりの勢いで引っ張られているので歩調が合わずヨタヨタの足取り。

「だぁりぃ~ん! が~んば~ってねぇ~」

 ひらひらと手を振りながら麗美はタケシを送り出す。

「…緑川さんのこと、名前で呼ぶんだ…」

「そう呼べって言われてますから」

「ふーん…」

「何か?」

「なんでもないっ! とっとと入稿済ませて!」

「ハイハイ」

「ハイは一回で」

「ハイっ!」



 同日20:15、横浜駅周辺某繁華街。

「大丈夫? 歩けるなら今すぐここを離れて」

「は、はい! ありがとうございます!」

 女の子が着衣の乱れを直して走り去った。

 絹を裂くような声にタケシが駆けつけてみれば強姦(レイプ)現場。ともかく女の子から不貞の輩を蹴り剥がしブン殴り、彼女()()を解放するのだが…先週から毎晩のように遭遇するものだからデギール探しどころではなく、ルミと二人で手分けをして未遂で終わらせていた。今夜に至ってはこれで2件目だ。

(ホント増えたな、ここんとこ。アンジェラスを倒して以来かもしれん。 …彼らがこういうの防いでいたってことなのかな…?)



「まったく! 女を力で捩じ伏せようって魂胆からして腐ってんのよ!」

 ルミもまたタケシ同様にパトロール中。無論この状況にルミは怒り心頭だ。

「女の子だって優しく紳士的(ジェントル)に口説かれちゃったら、そりゃあ少しくらいは考えてあげ ッ⁈」

 街の喧騒に紛れ悲鳴が聞こえた。ルミは声の主の居場所を探し周囲を見回し

「あっち!」

 それと思しき方向へ向けて駆け出した。

 狭い路地を入りビルとビルの間、人が数人入れるも外からは気付かれないような場所に、男の影三つとその足元に横たわる大柄な女性の姿を認めた。

 ルミは走る勢いそのままに

「ゥオリャアッ!」

 陰のひとつにショルダータックル、対象は吹っ飛びついでに壁へ顔面から衝突。まずは一人。

「なんだコイツァッ⁈」

 残りのうち一人が相手の正体も見ずに殴りかかる。ルミはその手首を取るや否やしゃがんで腕を引き込み

「うぁ ガァっ⁈」

 暴漢は顔から着地する。

 残り一人。これは冷静なのか次に備え構えるルミを、頭のてっぺんから爪先まで見渡し

「…女? まぁいい」

 指笛を鳴らす。

 その所作に警戒するルミだったが…


ジリッジリッ…


 背後に気配。振り返ればニヤニヤ下卑た顔で詰め寄る輩たちが5人追加。今来た道を塞がれた。

「メス1匹増えてんじゃん」

「俺たちにもヤリ番あんのか?」

(こりゃ…さすがにマズイ…な…)

 相手がド素人だとしてもこの戦力差は如何ともしがたい。狭い場所が幸いして全員一度に襲い掛かられる恐れは無いにしてもだ。ともかくルミは攻撃に備え両手を顔の前に構える。

「デケェ声出せねぇようにしとくか!」

 先頭の一人が殴り掛かってきた。その拳の延びを見切ってルミは後ろへ退く。が。

「しまっ

 両手を構えたがためにガラ空きとなった胴を背後にいた一人に抱えられた。

「ウォオリヤァァァ!」

 ルミは咄嗟に投げられぬよう腰を落としたがために暴漢は思うように投げられず、サイトースープレックスのやり損ないのごとく後ろへ放り投げられた。

「キャッ⁉︎」

 上手く受け身が取れず、ルミは無様に地に転がされた。

「キャッ! だってよ」

「メスゴリラかと思ったらカワイイ声出すじゃねぇかよ」

「こりゃ股にブチ込んでやりゃイイ声で鳴くぜェ?」

(アイタタタ…え…)

 転がされたところには先に被害に遭っていた女性が横たわっていた…見覚えのある、上品な光沢のあるブラウスが目に入る。

(これ…緑川さんッ⁈)

 ルミの身体を悪寒が走る。つい数時間前に顔を合わせた身近な人物が犯罪被害に…しかし、それでもルミは星間警察機構(ワステロフィ)の一員だった。恐怖という名の悪寒は間も無く怒りに変わり、立ち上がった。

「アナタたちィィィ!」

 ギャノンスーツを相着すれば良いのでは?と思われるだろうが、三下にも届かないこの程度の連中、しかし人数があれば仕留め損なうかもしれない。身バレでのちのち不意打ちを喰らうのは避けたい。それにできれば正体は明かしたくない立場のルミゆえにスーツは自重しているのだった。

「ほぉ? やるってのかい?」

「ほら来いよ。どっからでも掛かって来いよ。かわいがってやっからよ」

 数の利を心得ている輩たちはニヤニヤとルミを煽り、躙り寄る。

「コレもあっからよ」

 輩がポケットから取り出したのは、小さなチャック付き袋に入った、白い粉。

(エンプティ…ヘブン…やっぱり持ってたか)

 殴る蹴るはともかくとして、アレを撒かれた日にはどうなることか。撒けば自分たちも巻き添えになるくらいの知性は持っていて欲しいとルミは願う。

(彼女を担いで走って逃げるって…ちょっと無理よねぇ…)

 ルミは日本人女性として見るならば大柄な方とも言えるが、それを上回る体格の麗美だ、担いで歩くことすら困難だ。まして走るなど。

 ふと

「なーにやってんの?」

 輩の群れの向こうから声がした。

「何やってんのって聞いてんだろがァッ!」

 もう一つ別な声で、今度は怒声。何が起こったのか…それはルミの視界からは見えなかったのだが、少なくとも不貞の輩の一人がその群れから消えた。

「俺ら城山組の縄張り(シマ)で好き勝手やってんじゃねェッってェンだよッ!」

 鈍い音とともにもう一人が消えたところでことの次第が分かった。群れの向こう、素肌に赤地のアロハシャツ、白いズボン、金色のアクセサリーをジャラジャラと付けた、一目でチンピラと分かる出たちの若者が二人。うち一人はすでに輩の一人の胸ぐらを掴んでいた。

「アナタたち…!」

「この声…ルミの姐御?」

 目が合った。確かに、以前マンスリー編集部に乗り込んできたところをルミがブン投げたチンピラたち。

「ルミサンッ⁈ だ、大丈夫っすかッ⁈」

「おいゴラァッ! 仮にも城山組の縄張り(シマ)で姐御に手ェ出したってありャ、タダじゃおかねェッ!」

 と、とりあえず胸ぐらを掴んでいた輩に一発。そこへ先ほど殴り飛ばされた一人がチンピラの脚にまとわりついた。

「ナニ掴んどんじゃ、ゴルァッ!」

 いわゆるヤクザキックが輩の顔へ。見事踵が口へ決まり、おそらく歯の数本は折れただろう。この一発を皮切りに二人のチンピラと輩たちとの大乱闘が始まる。輩勢は殴り飛ばされては立ち上がるのでチンピラ二人は一体何人と戦っているんだか分かってないだろう。

 それにしても。

「あら」

 二人のパンチは正確に敵顔面へ入っていることにルミは気付いた。前は(ルミにしてみれば)目を瞑っていても避けられる程度だったのに。

 乱闘となった隙に通路の奥へに逃げ(おお)せようとした者が一人。

「クソッ、そこを退けェ!」

 奥にいたルミ目掛けて邪魔とばかりに殴りかかってきた。ルミとしては拳を躱せば済む話なのだが…しかし今宵のルミは少々…どころではなく気が立っていた。殴りかかってきた腕を取って捻り、引き下げる。それで暴漢は地面へ向けて倒れていくのだが、引き下ろした腕、真っ直ぐに極まって動かせない肘関節へ向けて


バキィ


 蹴りを入れる。無論…折れた。

(いけない! やり過ぎた⁉︎)

 と思っても後の祭りなのだが、その様子を見ていたチンピラ二人。

「折った…」

「何の迷いもなく…折った…」

「…俺たちには手加減したってのかよ…」

 輩を殴りながらも震え上がる。

「ふぉっふぉっふぉ」

 チンピラ二人が道を作るように輩を殴ったその合間から老人が一人。

「相変わらずじゃの、守人殿」

「城山のおじいちゃん⁉︎」

 まるで水戸黄門の如く現れたのは、城山組組長の城山権三。

「どうしてこんなところに…あの二人も」

「ふぉっふぉっふぉ。最近この界隈で娘さんたちを手篭めにする不貞の輩が多いと聞いての。そんなくだらんことで縄張り(シマ)を荒らされては城山組の沽券に関わるからのう。そこのヤスとテツの二人と見回りをしておったところじゃが、守人殿、危なかったようじゃの」

「ええ。正直この人数では。あの二人に助けられました。あ…彼ら、強くなってませんか?」

「ほう、分かるかの」

「ええ。前よりずっと」

「お前さんにブン投げられてから、あや

つら、ボクシングだ空手だと通っていた

からの。守人殿に認められるのなら、あ

やつらも喜ぶじゃろうて」

 この妙な改行のタイミング…ルミと話すのに気を取られてスキを見せたと思い込んだ輩たちが城山を背後から襲おうとしたのだが、城山はそれを杖で突き倒していた。ノールックで。

 もちろんルミはそれを目の当たりにしているので

「さすがですね」

 と声を掛けるが

「なぁに、このくらいできんようじゃ裏の世界なぞ生きていけんよ」

 と豪快に笑う。

「ああ、それで守人殿。あとはワシらに任せて、その娘さんを担いでここを去るといい」

「でも…私も一人、やっちゃってることだし…」

 と、足元に転がっている、腕を折られて気絶している輩を見下ろす。

「ソイツはワシらが預かろう」

「でも」

「なぁに、ワシらは裏の世界の人間じゃ。この程度の小僧をノばしたところで、一人も100人も変わらん、ワシらに任せなさい。何より、ヤスとテツの目を覚させてくれた守人殿のためじゃ、二人も本望じゃろうて」

「そうですか。それでは、お言葉に甘えて。このお礼は」

「ワシらのようなヤクザ者相手に礼など良い。お前さんは、真っ直ぐ光の中を歩くが良いぞ。警察(やっかいもの)が来る前に去りなさい」

「はい。ありがとうございます」

 と会釈し、ルミは麗美を背負い未だ続く乱闘会場を後にした。

(重っ…)



 とはいえ背負ったまま表通りなど歩けば職質の餌食になるだけ、数本先の路地まで出ると何か店舗裏口のステップへ麗美を座らせ、フウっと一息。しかし安堵はできなかった。

「緑川さん、ごめんなさい!」

 未だ目覚めない麗美に謝罪し、彼女のスカートを捲り上げた。

「履いてる…良かったぁ…」

 はぁぁぁ…と長い溜息。麗美が下着を着けているのを確認して今度こそ安堵した。

「外傷も無いみたいだけど一応ね。バイタルチェック! …とアレも一応…心拍、血圧正常。これなら安心……え…?」



なぜ?なに?ギャノン!


Q37 緑川麗美(みどりかわれみ)について


A37

身長186

B109

W63

H98

ボンキュボンのマジカルボディ

ルミよりデカい、何もかも

ジムでギチギチに鍛えているため見た目よりも体力筋力ある


好きな食べ物:一人焼肉

嫌いな食べ物:昆布と大豆の煮物


電子パーツメーカー(株)緑川電子の一人娘

社内で就職し婿を取るよう親に言われたが反発、出版社へ

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