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第一章 ギャノンズ① 上野小百合②

「ありがとうございました!」

「小百合。お父さん、ちょっと両替行ってくるから留守を頼むよ」

「うん。任せといて!」

「もうじき巡回のお巡りさんも来るから大丈夫だとは思うけど」

「へーきだって。私もう高校生だよ? ごちゃごちゃ言ってないで両替にさっさと行った行った!」

「あはは。そうかい。それじゃ頼むよ」

「はーい。いってらっしゃーい!」

 6月上旬、横浜市某所コンビニエンスストア。

 ここの店長は毎日決まった時間、夕方4時になると両替に出る。これより先の時間になると客単価は低くとも買い物客の数そのものが増えるので何かとお釣りが不足しがちになるからだ。この習慣を知っているのは従業員くらいなもので、この日バイトとして入っていた店長の娘、上野小百合もその一人。普段なら何気ない日常の一コマだ。

 しかし。

「いらっしゃいませー」

 開いた自動ドアの向こうから男が一人。白いスウェットの上下に黒い帽子(キャップ)。口元のマスクは昨今の防疫習慣からして珍しくないが、まもなく夕刻の薄暗くなる時間帯だというのに真っ黒に染まったレンズのサングラスを掛けている。

 男は他に客の無い店内を見回すと、商品を見ることもなく真っ直ぐにレジへ。

「お客さま?」

 声を掛けた小百合の前に立つと大きめのショルダーバッグから黒い物を取り出し、小百合にその先端を向けた。

「金を出せ」

 その黒い物とは銃。しかも拳銃ではない、短機関銃だ。小百合は一瞬驚きはしたが、オモチャだろうなと思いつつも、父親から聞いていたこうした緊急時の対応マニュアル通り

「こ、これを」

 震えながら用意してあった10万円入った封筒を差し出した。

 その封筒を見て、男は

「ナメてんのかァッ?」


パパパン


 叫ぶと同時に引き金を引くや、レジ後ろのタバコの棚へ銃弾を撃ち込む。

「ッヒィ?」

 強烈な発砲音と共に破壊されるタバコの棚。それを見た小百合は初めて自分の置かれた状況を理解した。

 男はダンっとレジカウンターを踏み越え

「チンケなモン出してんじゃネェッ! もっとあんだろうが、もっとよォッ!」

 小百合の胸ぐらを掴み叫ぶ。恐怖のあまり声が出ない小百合はフルフルと首を横に振るだけだ。

 運が良いのか悪いのか、このタイミングで。


ピポピポピポン…


「こんにちはー。お変わりありませんか?」

 制服の警官が2名、いつもの定時の巡回より早い時間でやって来た。当然レジカウンターの状況を目の当たりにする。

「な、何をやっているっ?」

 二人とも咄嗟にホルスターへ手を伸ばすが

「チィッ!」


パパパン パパパン

 パン パン ドシャァァァァ


 すでにトリガーに指が掛かっている強盗犯の方が先だった。放たれた弾は店舗のガラスを破り、粉々に砕けたガラスは土砂降りの雨のごとく地に降り落ちる。のみならず

「ガアッ?」

 うち一発は警官一人の肩を捉えた。

「内田! 退くぞ!」

「は、はい…」

 警官二人は銃を抜き、男を牽制しながら店外、ドア脇へ退避した。

「緊急要請! コンビニ強盗発生! 大至急応援求む! 相手は銃を所持! 場所は」

「こっちへ来いッ!」

「キャァァッ!? 痛い! 痛い!」

 男は小百合の髪の毛を掴み、バックヤードへ引き込んだ。

「テメェ! サツ呼びやがったなッ?」

 小百合はフルフルと首を横に振り

「定時の! 巡回!」

 と声を振り絞る。

「クッソ、いつもよっか早ぇじゃねぇかよ… 金はッ? 金を出せッ!」

「お金はあれしか…」

「クッソがァァァ!」


…フォンフォンフォン…


 無数のサイレン音。それらは次々と店前に近付いては止まる。

「クソッ!」

「キャァ!」

 強盗犯は小百合を床に振り投げバックヤード出入り口から外の様子を窺うと、すでに駐車場にパトカーがズラリと並んでいるのが見えた。

〈コンビニ内の者に告げる! 君はすでに完全に包囲されている! 武器を捨て大人しく出てきなさい!〉

「誰が行くかよッ!」


パパパン


 拡声器の呼びかけに銃弾で答えた。

「囲まれてやがる…県警にしちゃぁ手際いいじゃねぇか、普段は何もしねぇクセによォッ! チッ…テメェがグズグズすっからッ!」

「キャァ!」

 男は小百合の胸ぐらを掴み締め上げる。

「ヒヒヒ…イイぜぇ…どうせ逃げらんねぇなら楽しんどこうじゃねぇか…」


グイッ ビリィ…


「キャァァ!」

 胸ぐらを押し引くと小百合は背後へ飛ばされ、掴まれたユニホームのボタンが弾け飛び、胸元の白い下着が露わになった。

「捕まる前にオメェで楽しんだってバチは当たんねぇだろ。何しろ金が無かったんだからなぁ。恨むンなら金を置かねぇケチ店長を恨むんだなァッ!」

 そう言ってスウェットのズボンと下着を脱ぎ捨てた。こんな状況なのにバックヤードの薄明かりの中で股間の怒張は自己主張をしている。そして小さな袋に入った白い粉をブラブラと見せつけると

「さぁ、コイツを使って楽しもうぜェ!」

「イヤァァァァァ!」

 小百合の上に馬乗りに跨った。小百合が金切り声を上げた、その時。

「取り込み中のとこ、悪いな」

「な ゴワァッ?」


ドオッ ガダァン


「ガハァッ?! な、なんだぁ?! コイツ?!」

 バックヤードの薄暗がりから現れた者に強盗犯は蹴り剥がされ、ペットボトルが積まれた棚に飛ばされた。

「テメェ! どこから!?」


パパパン パラパラパラ…


 いとも軽く引かれたトリガー。強盗犯の撃った銃弾は確かに全て命中したのだが、全てが体表で止まり、パラパラと地に落ちた。

「その程度じゃオレを倒せない」

 その声の主。ラテックススーツのようなものに覆われた全身は緑色の金属的光沢を放ち、筋肉に沿うように濃い緑色の線が身体中に走る。頭部はヘルメット状、そして濃いグレーのバイザーの奥に白く光る目。

 緑色の者はゆっくり強盗犯に近づき、胸ぐら掴んで持ち上げる。

「グァっ!? 何しやがる!?」


パパパン パラパラパラ…


 強盗犯は至近距離から発砲するものの頭部に当たったところで結果は同じだった。

「散らかすんじゃない」

「グァァ」

 銃を握る強盗犯の右腕を握ると、かすかにミシッと音を立て短機関銃は床にゴトッと落ちた。

「その白い粉、どこで手に入れた?」

「ガハァ、し、知らねぇよ!」

「言えよ」

「ガァアァアァ…」

 緑色の男が掴んだ左腕を軽く揺すると強盗犯はブラリブラリと左右に大きく揺すられる。

「ビブ横…タダでくれるってぇから貰ったんだよ…」

「それが何かは知ってるんだろうな」

「エンプティ…ヘブン…」

「ご名答だ。アンタ、デギールか?」

「デ、デギール? 何だそりゃ…」

「ふーむ…それなら『ヘカテイアの鍵』も知らなさそうだな」

「知らねぇよ! 用はそれだけか! そんなら放せってんだよ!」

「分かった。望み通りに」

 緑色の男は強盗犯をブンッと振り投げ捨てた。投げた先は商品棚。激しくドカンとぶつかると棚がへし曲り倒れ、積まれていた缶コーヒーやペットボトル飲料が段ボール箱ごとドカドカと強盗犯の上に降り注ぎ、埋め尽くした。

「あ、いけね! やっちまった!」

 緑色の男は投げた方を見ながら頭を掻くが、「ま、いいか」と振り直り小百合へ歩み寄り跪き、右手を差し伸べた。

「大丈夫? 立てる?」

「あの、大丈夫です」

「ごめん。商品台無しにしちゃったよ…」

「それはあの、大丈夫、だと思います。それよりあのっ! あの、危ないところを助けていただいて、あの、ありがとうございます!」

「あ、いや、その、うん、無事で何より。うん」

 胸元が(はだ)けた小百合を直視できず、緑色の男は顔を背けながらボソボソと言う。

「ああ、ここを出ればお巡りさんが保護してくれるから、急いで」

「はい! あの…お名前は…」

「あー…名乗るほどの名前は無いんだけど…」



「武器を捨て大人しく出てきなさい!」

「誰が行くかよッ!」


パパパン


「うわっ?! クッソォ…林さん!」

 県警の林と曽我は、パトカーで警邏中に呼び出され、この現場へやって来た。最初に当たった警官からの通報で向こうが銃器を持っていることは分かっていたので林は県警本部へ機動隊の出動要請を出したのだが。

「分かってる! ちょっと待て! 何ぃ? 出せないィ? な…チッ、分かったッ!」

「林さん、どうしました?」

「本部は機動隊出せない、手持ちのニューナンブ(もん)でやれってよ!」

「正気っすか? 今のアレ、チラッと見た限りおそらくMP7、フロントグリップからしてA2、県警(うち)のボディアーマーくらいじゃ余裕で貫通ですよ!?」

「さすが武器オタの曽我、詳しいな」

「それ、褒めてますか?」

「褒めてるよ! さてどうするか…」

「林警部! 人質と見られる女性が中から!」

「何ィ?」

 ガラス無き自動ドアの扉が開くと中から少女が一人、飛び出してきた。

「毛布とブルーシート用意! 救護班! 搬送準備にかかれ! おおっと?!」

 少女は真っ直ぐ林の元へ駆けてきて、そのまま抱きついた。

「小百合ーッ!」

「お父さんっ!」

 規制線のテープの向こうからコンビニの店長が駆け寄り、娘を抱きしめた。

「その格好…ケガはっ? ケガはないかっ?」

「うん。大丈夫」

「小百合ぃ…」

「あの、すみません、県警の林と申します。緊急時なので取り急ぎ娘さんに伺いたいことが」

「あぁ、はい…」

「大丈夫かい?」

「はい。私は大丈夫です」

「中は? 人質は君一人だけ? 解放されたのか? それとも犯人から要求でも」

「私だけです。それに中はもう終わっています」

「…終わってる?」

「緑色でキラキラと輝く方が、私を助けてくれました」

「緑? キラキラ? うーん、要領を得ないが…それは何者なんだ?」

「あの方はこう名乗りました」

 小百合は淀みなく、こう言った。

「 ギャノン 」



 警察立ち会いのもと現場に入ってみたが、命の恩人である「ギャノン」とやらの姿は無く、それがそこにいた確たる証拠も見つからなかった。ただ一つ、鑑識の調査では犯人でも店員でもない、全く別の誰かの足跡の痕跡はあったのだが、現在地球上で確認できるすべての靴底の形に合致しなかった。それでも小百合が無事であった事実と犯人の証言から、それはそこに存在していたらしいにもかかわらず、単なる謎の足跡扱いとなってしまっている。


『大丈夫? 立てる?』


 優しく気遣ってくれた声と、引き起こしてくれた力強い手。その2つの記憶だけを頼りに、小百合はあの時のお礼が言いたくて探し続けていたのだ。偶然に次ぐ偶然が小百合を正解の元へ導いた。



なぜ?なに?ギャノン!


Q35 なんでMP7なん?


A35

 そもそもの初期稿で


「あれは…MP5…HK33…AKもあるのか。ごちゃ混ぜだな。よくもまぁ節操もなく…弾薬の補給とかどうするつもりだ? まぁ余計なお世話か」


 というタケシのセリフがあり、島津は方々の国から中古ないし新古でコンディションのいい銃を仕入れていた、という設定でした。

 ところが…クレムリンのハゲが余計なことをしたばかりにウクライナへの武器の調達が必要となって、おそらくはアサルトライフルは引っ張りだこで入手困難なのでは?と、フィクションが現実に引っ張られる状態になってしまい、それで


「大変さァ、何しろドンパチやっちまってっからな。長ェヤツはみんな戦場行き、短ェのしか手に入んねェ」


 という島津のセリフが生まれました。しかも最近はMP5よりもMP7の方が主流のようで、じゃぁMP7かな、と。

 拳銃じゃダメかのか、というとそんなことはないのですが、島津が密輸しているブツのヤバさの強調のためにあえて拳銃ではない方へ。

 ところで銃の名称とか細かく書く必要なくね?と試読してもらった友人に言われたんですが、世の中、知ってると「なるほど!」と深く理解できることってあって、ニュースでやれ戦争だ紛争だと映像が流れたとき、そこに映る銃器類から背後にどんな国や組織があるのか分かったりするのですよ。なので銃の名称を書き込むことでディテールがより細かく深く刻まれるのです。拙作『異世界じゃ想いの強さが武器になる』でミキミキパイセンが所持するエアガン(ガスガン)の名称をずらずら書き込みましたが、アレはただ単にミキが銃オタというディテールの追加だけでなく、クライマックスの伏線になってたりするのです(もっともエタるのでラストまで書けなさそうですが)。

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