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プロローグ~第一章 ギャノンズ① 上野小百合①

挿絵はAIにて作成

挿絵(By みてみん)


「ただいま。 …ルミさん、まだ帰ってないのか」

 深夜0:00過ぎ。家主が帰るも門灯すら点いていない真っ暗な屋内。

「ちょうど良かった…のかな…」

 田上の誘いに乗った今夜、ルミに断りは入れなかった。それゆえ、こんなクタクタで帰れば質問攻めに遭っていたかもしれないと思うとこの真っ暗な空間が返ってタケシの気を楽にしてくれた。

 自室のベッドへ疲労困憊の身体を横たえ、先ほどまでのことを思い起こしてみた。

「…あのじいさん、何がしたかったんだ?」

 田上との戦闘には勝った。にも関わらず悔しいような悲しいような、自分の中に湧き起こる感情が理解できない。田上は、アンジェラスは壊滅したと言っていた。デギールの下部組織をつぶしたのだ、タケシにとっては本望なはずなのだが。

 アンナの、悲痛とも言える叫び声。


『彼らは子供たちの楽園を創る、と言っていたッ!』


「オレは一体誰と…何と戦ってんだ…?」


『ここにはそんな楽園ができつつあったッ!』


 それはタケシの耳にこびり付き、何度も何度もリピート再生されている。

「この世界に必要な悪なんてモンがあんのか…?」

 それは考えても無駄なことで…実際、考えを巡らし続けるより先に睡魔がやって来た。タケシは着の身着のまま、泥のような眠りについた――――



チュンチュン  チュン チュンチュン …


 窓から差し込む陽の光とスズメのさえずり声で、タケシは目を覚ました。

「あれ…朝か…何時… …エエエエッ?」

 携帯の画面は7:51を知らせている。昨夜の疲れ様からしてよくも目覚めたとも言えるのだが…今日のタケシは1限目から授業があるのだ。

「いっけねェッ!」

 飛び起きた。いや、跳ね起きた。ともかくTシャツだけは着替えて歯を磨き顔を洗い、いつものライダースジャケットを羽織ると玄関へ。

「アレ? カギは? 付けっぱなしだったかな…」

 いつものところにあるはずのものが無い。ドアを開け、タケシは愕然とする。

「バイクが…無い…」

 さらに愕然とすることには

「そうだ! 車検に出してたんだッ!」

 これまでもバイクには乗っていたものの車検不要の排気量だった。しかし今乗っているものは1000ccクラスの大型。よってタケシは車検は初体験。経験のないことゆえそれを失念していたのだった。

 ちなみに愛車は昨日、田上の待つ明星倉庫へ行く前に預けてきた。つまりタケシは現場へ徒歩で向かったのである。文字通り『現場へ駆け付ける』ヒーロー。

「特ダネは足で稼げって言うけど…」

 そう言う意味では無いだろう。

 ポケットから携帯を取り出し、見れば刻は8:00をとっくに過ぎている。

「電車で行くのかぁ…」

 1限目には間に合うまい。



 8:34。地下鉄の駅構内。

「うはっ!? 電車来てるじゃんか!」

 間に合わないにしても目の前に到着したての電車があれば誰しも慌てるものだ。タケシが急ぎ階段を降り、開いたドアから乗り込もうとした時。


ドンっ


「キャァ!?」

「あっ?! ごめんっ! 大丈夫っ?」

 出てきたところの女子高生と正面衝突。相手を弾き飛ばしてしまった。タケシは慌てて駆け寄り、手を差し延べ、引き起こす。

 一方の女子高生、お尻を叩いていた手が止まり、固まる。

(…あれっ…? この感じ…)

「ごめん! オレ、急いでて! 大丈夫? 立てる? ケガはない?」

「いえ、あの、大丈夫です。私、ぼーっとしてて、あの…」

(今の声って…)

〈ピポパポピポー ドアが 閉まります 閉まるドアに ご注意ください〉

「ごめん! オレ急いでて! それじゃ!」

(この声って…もしかしてっ!?)

 少女が意を決して顔を上げた、その時。

「あのっ!」


プシュー ゴォン ゴォン ゴォン…


 タケシを乗せた列車は無情にもドアを閉め出発。少女は結果的に誰もいない虚空へ向けて話しかけた格好になってしまった。

「あ、あれれぇぇぇっ!?」


挿絵(By みてみん)


「小百合ぃ? 何やってんの?」

「え? あ、まどちゃん…おはよう…」

「どったのー? ぼーっとしてぇ。顔赤いよ? 王子様でも見つけた?」

「う、うん、そうかも…」

「へぇ、そうなんだ、って、エーッ? マジで? マジで?」

「そうかも知れないし、そうでないかも知れないし…」

「あー、ごめん、その話、長い? 急がないと私たち遅刻よ?」

「え…? アーッ?」

 上野小百合。県立浜沼高校に通う一年生の16歳。

 彼女は命の恩人を探していた――――



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