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第1話:失われた思い出の謎


 静かな住宅街の一角、まるで時が止まったかのような蔦の絡まる古い洋館。その二階にある広々とした書斎が、上條蛍かみじょうほたるの世界のすべてだった。窓の外では、季節が色を変え、風が木々を揺らす音だけが、室内の静寂に微かな変化をもたらす。壁一面を埋め尽くす膨大な書物と、使い込まれた革張りの肘掛け椅子。事故で足を悪くして以来、彼女の行動範囲はこの書斎に限られていたが、その思考は誰よりも自由に、広く、深く、遠くまで飛翔する。人々は敬意と少しの畏怖を込めて、彼女を「安楽椅子探偵」と呼んだ。


 その日の午前、蛍はいつものように窓辺に近い肘掛け椅子で、淹れたての紅茶の香りに包まれていた。窓の外では、馴染みの庭師が久しぶりに剪定作業に訪れていた。伸びすぎた蔦を剪定し、窓にかかりそうな大きな樫の木の枝にも手を入れ始めたようだ。蛍は、その手慣れた動きをぼんやりと眺めていた。ふと、窓辺で丸くなっていた飼い猫のムサシが、庭師が脚立を立てる金属音に耳をぴくりとさせたのに気づく。


 昼過ぎ、呼び鈴が鳴り、配達員が大きな書籍小包を届けに来た。蛍は受け取りのサインをするため、テーブルに置かれた万年筆を手に取った。しかし、少しインクの出が悪かったのか、軽く振った拍子に、するりと手から滑り落ち、硬い床にカシャン、とやや甲高い金属音を立てて転がった。その瞬間、先ほどまで微睡んでいたムサシが、驚いたように飛び起き、低い姿勢で辺りを警戒するように見回した。

「あらあら、ごめんなさいね、ムサシ。ただペンを落としただけだなのよ」

 蛍は苦笑しながらペンを拾い上げた。猫は意外なほど、特定の音に敏感なものだ。


 届いた小包は、探し求めていた稀覯本だった。丁寧に包装を解き、古びた表紙を開く。すると、見返し部分に、前の持ち主のものらしい、細いペン字で書かれたメモが残されているのを見つけた。『忘れな草の咲く丘、三番目の白樺の根元に眠る』……。それは、まるで宝の隠し場所を示す地図のようだった。

「人の思いは、時に奇妙な形で物に宿るものね……。忘れられた記憶を、誰かに見つけてほしいのかしら……」

 蛍は独りごち、指先でそっとその文字をなぞった。このささやかな発見が、間もなく訪れる不可解な事件の影を、ほんのりと予感させていることには、まだ気づいていなかった。


 午後の穏やかな時間が、慌ただしい足音によって破られたのは、それから間もなくのことだった。

「蛍さん! 大変なんです!」

 息を切らし、ドアを勢いよく開けて飛び込んできたのは、所轄の若手刑事、佐々木誠だ。彼は蛍にとって、数少ない「外の世界」との接点であり、複雑な事件に行き詰まるたびに、この書斎の主の知恵を借りに来る。

「まあ、佐々木刑事。そんなに慌ててどうしたの? まずは深呼吸して。紅茶でも淹れましょう。いつものアールグレイでいいかしら?」

 蛍は、読んでいた古書……先ほど届いたばかりのそれに栞を挟みながら、あくまで穏やかに言った。彼女の変わらない落ち着きに、佐々木は少しだけ呼吸を整えることができた。

「は、はい……お願いします。でも、本当に妙な事件でして……」


 佐々木が語り始めたのは、市内の旧家・篠宮邸で起こった奇妙な盗難事件だった。

「篠宮邸……地元でも有名な資産家ですね。何が盗まれたのです? やはり、高価な宝石か何か……?」

「それが違うんです。盗まれたのは、書斎にあった古いオルゴールが一つと、市場価値があるとは思えない、何の変哲もない風景画が一枚。たったそれだけなんです」

「それだけ……?」蛍の声に、わずかに訝しむ色が混じった。「金庫は? 他に高価な美術品などもあったでしょう?」

「ええ、金庫は手つかずでした。他の絵画や調度品も、指一本触れられていません。それに……これが一番不可解なのですが、侵入された形跡が全くないんです。窓もドアも、すべて内側からきちんと施錠されていました。無理にこじ開けたような痕跡もありません」


 佐々木は、現場の写真数枚と、簡単な見取り図、関係者の簡単な証言をまとめたメモを、ローテーブルの上に広げた。蛍は肘掛け椅子から身を乗り出すようにして、それらに視線を落とす。特に、書斎の窓とその周辺、そして庭の写真を、指先でそっと撫でるようにして、時間をかけて観察した。窓の外の樫の木は、まだ剪定されたばかりで、枝葉が刈り込まれていた。

「現場の状況で、何か特に気になったことはありましたか?」

「ええっと……いくつか。まず、書斎の窓の外、ちょうど真下にあたる庭の一部が、少し不自然に踏み荒らされていました。それから、これは家政婦さんの話ですが、篠宮家で飼っている猫が、事件があったと思われる前夜から妙に怯えてしまって、特に書斎には頑なに近づこうとしないそうなんです」

「猫……ね。その猫は、普段はどんな様子なのかしら? 人懐っこい子?」

「ええ、家族にはもちろん、訪問客にもよく懐く、おとなしい猫だと聞いています。だから余計に奇妙だと……」


 蛍はゆっくりと肘掛け椅子に背を預け、指を組んで目を閉じた。書斎には、時計の秒針が刻む音と、紅茶の冷めていく微かな気配だけが漂う。沈黙は、思考の深まりを示す合時計のようだった。やがて、彼女は薄く目を開けた。その瞳には、まだ確信とは言えないまでも、ある種の方向性を見出したかのような光が宿っていた。

「ふむ……少し、気になることがあるわね……。密室からの盗難、価値のない品々、怯える猫……まるで、ピースの足りないパズルのようだわ」

 蛍はわざとらしく溜息をつき、佐々木の方を見ずに言った。「もう少し情報が必要かしら……。そうでなければ、ただの不可解な出来事で終わってしまうかもしれないわね……」


 じらされていると感じながらも、佐々木は蛍の言葉を待った。彼女がこう言う時は、必ず何か引っかかる点を見つけている証拠なのだ。

「佐々木刑事、いくつか確認してきてほしいことがあるわ。急ぎはしないけれど、できるだけ正確にお願いできるかしら?」

 蛍の指示は、いつもながら細かく、そして一見、事件の本筋から外れているように思えるものばかりだった。


1. 盗まれたオルゴールの詳細。どこのメーカーのものか、曲名は何か。そして、いつ頃、どのような経緯で篠宮家に来たものか。特に、何か目立つ傷や汚れ、特徴的な部分がなかったかどうか。


2. 盗まれた風景画について。作者は判明しているか、いつ頃描かれたものか。額装はされていたか。そして最も重要なのは、絵の裏側……キャンバスの裏や、裏板などに何か書き込みや印がなかったか。


3. 書斎の窓の鍵の種類。一般的なクレセント錠か、それとも特殊なものか。また、事件が起きたのはいつ頃と推定されているか。庭師が樫の木を剪定したのは、その前か後か。


4. 踏み荒らされていた庭の花の種類。具体的に何が植えられていた場所か。


5. 怯えているという猫について。普段から特に嫌うものや、苦手な音はあるか。例えば、雷や掃除機のような大きな音だけでなく、もっと些細な音に対して過敏に反応するようなことはなかったか。


6. 篠宮家の現在の家族構成と、最近の人間関係。特に、最近になって頻繁に家に出入りするようになった人物はいないか。お金に困っているような人物、あるいは篠宮家の誰かと感情的な対立があった人物など。


「オルゴールや絵画のことは分かりますが……窓の鍵の種類や庭の花、猫が苦手な音まで……?」佐々木はやはり戸惑いを隠せない。


「ええ、とても大事なことよ」蛍は微笑んだ。「犯罪は人間が行うもの。そして人間は、思いがけないところに痕跡を残すものなの。それは足跡や指紋だけではないわ。一見無関係に見える小さな情報が、複雑に絡み合った糸を解きほぐす鍵になることは、少なくないのよ。さあ、お願いできるかしら?」


 その静かながら有無を言わせぬ口調に、佐々木は力強く頷き、再び慌ただしく書斎を後にした。残された蛍は、もう一度、窓の外の樫の木に目をやった。庭師がきれいに整えた枝が、午後の日差しを受けて静かに揺れていた。


 翌日の午後、佐々木は少し興奮した面持ちで、再び蛍の書斎を訪れた。


「蛍さん! 分かりました! ご指示いただいた点、調べてきました!」


1. オルゴールは、百年近く前のスイス製アンティークで、曲名は『思い出』という、やや感傷的なメロディのもの。篠宮氏の亡くなった奥様が生前、特に大切にしていた形見の品で、オルゴールの側面には、落としたか何かでできたらしい、小さなハート型の傷があったそうです。


2. 風景画は、作者不詳の油絵で、美術的な価値はほとんどないとのこと。額装はされておらず、キャンバスが木枠に張られた状態でした。そして……裏です! キャンバスの裏に、インクで走り書きのような文字がありました。『北窓の下へ』と……!


3. 書斎の窓は、ごく一般的な引き違い窓で、鍵は回転式のクレセント錠でした。事件が起きたのは、おとといの夜と推定されています。それで、庭師に確認したところ、彼が樫の木を剪定したのは昨日の午前中が初めてで、少なくとも三ヶ月以上は手入れされていなかったとのこと。事件前は、枝が窓枠のすぐ近くまで伸びていたそうです。


4. 庭で踏み荒らされていた場所に植えられていたのは、スズランでした。ちょうど花が終わった時期だったようです。


5. 猫ですが、家政婦さんによれば、普段は物怖じしないのに、鍵をガチャガチャさせる音や、金属製の定規を弾くような、特定の高い金属音を聞くと、ひどく嫌がって隠れてしまう癖があったそうです。オルゴールの音色は平気だったのに、不思議だと。


6. そして、人物関係ですが……最近、篠宮家には遠縁にあたる宮下透という青年が頻繁に出入りしていました。彼は数年前に事業に失敗し、多額の借金を抱えていたようで、篠宮氏に何度も金の無心をしていたそうですが、きっぱりと断られていたということです。亡くなった奥様は、生前、この宮下青年を可愛がっていたという話もあります。


「ところで、その宮下青年と奥様の関係について、もう少し詳しく知りたいわ」蛍は窓辺の光に照らされた紅茶を見つめながら言った。「単に『可愛がっていた』だけでは、不自然な点がいくつかあるように思えるの」


佐々木は少し戸惑いの表情を浮かべた。「そうですね…確かに、もう少し込み入った話があったようです。家政婦さんによれば、奥様は宮下さんが訪れる日は特に身なりに気を使っていたとか。そして二人きりで長時間、書斎で過ごすことも珍しくなかったそうです」


「なるほど」蛍は静かに頷いた。「オルゴールの曲名が『思い出』で、しかもそこにハート型の傷がある。単なる偶然にしては出来すぎているわね」


「あの…蛍さん、まさか二人は…」


「断定はできないわ。でも、篠宮家は名家で、厳格な家風だったのでしょう?奥様は家柄や立場にとらわれない、情熱的な方だったのかもしれないわね」蛍は言葉を選びながら続けた。「宮下青年は事業に失敗する前は、どんな人物だったの?」


「それが…意外にも、かなりの秀才だったようです。大学でも優秀で、篠宮家とも縁もゆかりもない、いわゆる平民出身なのに、自力で事業を立ち上げたほどです。奥様はその才能と情熱を見込んで、最初は経済的な援助をしていたようですが…」


「でも、篠宮氏はそれを知って、良く思っていなかった」


「はい。特に宮下さんが事業に失敗してからは、奥様の『甘やかし』が原因だとして、一切の援助を禁じたそうです。その頃から、奥様の健康状態も悪化し始めたと…」


蛍は静かに目を閉じた。「恋愛感情があったかどうかは別としても、少なくとも奥様にとって、宮下青年は特別な存在だったことは間違いなさそうね。そして、その気持ちは彼も同じだった…だからこそ、彼女の形見を取り戻したかったのでしょう」


佐々木は言葉を詰まらせたが、やがて小さな声で言った。「実は…書斎で見つかった奥様の日記には、『T』というイニシャルの人物について書かれた箇所がいくつかあったそうです。宮下さんの名前は『透』…とおるさんです」


「そう……」蛍の唇に、かすかな微笑みが浮かんだ。「まるで小説のようなお話ね。けれど、現実の人間関係は、小説よりも複雑で、そして儚いものなのかもしれないわ」


 報告を聞き終えた蛍は、ゆっくりと紅茶を一口含み、カップをソーサーに静かに置いた。その仕草には、もはや迷いはなく、確信に近いものが感じられた。


 蛍はゆっくりと長い溜息をついた。


「なるほど……そういうことでしたか。点と点が繋がって、線が見えてきたわ。ええ、おそらく……間違いないでしょう」

 彼女は肘掛け椅子に深く身を預け、天井を仰ぐようにして目を閉じた。佐々木は固唾を飲んで、その次の言葉を待つ。

「佐々木刑事……犯人は、やはりと言うべきか……宮下透、その人で間違いないでしょうね」

「え!? や、やはりそうでしたか! 借金苦からの犯行で……!?」

「いいえ」蛍は静かに首を振った。「動機は、おそらく金銭ではないわ。もっと個人的で……そして、ある意味では切実な理由……失われた『思い出』を取り戻すため、だったのではないでしょうか」


 佐々木が息を飲むのが分かった。蛍はゆっくりと目を開け、推理を語り始めた。

「まず、盗まれた品々。故人である奥様の形見のオルゴール……側面にはハート型の傷。そして、価値のない風景画の裏にあった『北窓の下へ』というメモ。これは単なる風景画ではなく、その裏のメッセージこそが重要だった。おそらく、オルゴールと共に、何かを示し、あるいは隠すための目印として使われたのでしょう」

「隠すための……?」

「ええ。そして、庭のスズラン。スズランの花言葉を知っていますか?」

「いえ、花には疎くて……」

「代表的なのは『再び幸せが訪れる』『純粋』。まあ、毒性から『危険な快楽』なんて意味もあるけれど、この状況では前者でしょうね。オルゴールと風景画……もしかしたら、この二つは、かつて奥様が宮下青年に贈ったもの、あるいは、彼と奥様の間の大切な、幸せな記憶に関わる品だったのかもしれない。彼はそれを篠宮家から取り戻し、『北窓の下』……つまり、書斎の北側の窓のすぐ下の地面に埋めて隠した。スズランの咲く場所にね。花言葉に託して、『再び幸せが訪れる』ことを願った……そう考えるのが自然ではないかしら」


「で、では、侵入方法は……!? 密室だったはずですが……」

「それは、時系列と猫が教えてくれたわ。猫が嫌う、高い金属音。そして、事件当時はまだ剪定されていなかった樫の木の枝。犯人は、鍵を使って玄関や他の場所から侵入したのではない。だから痕跡が残らなかったのよ」

 蛍は、先ほどまで庭師が作業していた窓の外を指した。

「犯人……宮下青年は、夜陰に乗じて庭に忍び込み、まだ剪定されていなかった樫の木を伝って二階の書斎の窓に近づいた。そして、おそらく、細い針金か、あるいは特殊な工具を使って、窓ガラスの隙間から直接クレセント錠を操作して開けたのでしょう。これは古い泥棒の手口の一つで、針金や特殊な道具を使って、外からクレセント錠のレバーを回転させるというもの。慣れれば、それほど大きな音を立てずに開けることは可能なはずよ。ただ、完全に無音ではありません。あの猫が聞きつけたのは、その時のかすかな、しかし猫にとっては不快な金属音だったに違いないわ。侵入後は、目的のオルゴールと絵画だけを手に取り、再び窓から出て、同じように木を伝って地上へ降りた。庭のスズランを踏み荒らしたのは、その際に足元がおぼつかなかったか、あるいは埋める場所を探したからでしょう」

「な、なるほど……! 木を伝って窓から……そしてクレセント錠を外から……! 猫が怯えたのは、その音を聞いたから……!」佐々木の顔に驚きと納得の色が広がった。

「ええ。彼が盗んだのは、金銭的な価値があるものではなく、彼にとって掛け替えのない『価値』を持つ、思い出の品だけ。だから、金庫や他の高価な美術品には目もくれなかった。事業に失敗し、頼りにしていた篠宮氏にも突き放された彼にとって、亡き奥様との幸せだった過去の記憶だけが、唯一の心の拠り所だったのかもしれないわ。そして、風景画の裏に書かれた『北窓の下へ』というメッセージは、奥様が彼に宛てた最後のメッセージだったのでしょう。その指示に従って、彼はオルゴールと絵を、書斎の北窓の下、スズランの花壇に埋めることで、ささやかな『幸せの再生』の儀式を行った……。悲しいけれど、人間らしい行動とも言えるかもしれないわね。宮下青年を優しく問い詰めてごらんなさい。おそらく、『北窓の下』のスズランの根元から、ビニールか何かに包まれたオルゴールと風景画が見つかるはずよ。オルゴールの側面には、きっとハート型の傷があるでしょう」


 蛍の推理は、驚くほど正確だった。佐々木が署に戻り、上司に報告した後、宮下透に任意で事情を聴いたところ、彼は最初こそ戸惑っていたものの、やがて堰を切ったようにすべてを自供した。動機も、侵入方法も、そして品物を隠した場所も、すべて蛍の語った通りだった。篠宮邸の書斎の北窓の下、スズランが植えられていた場所を掘り返すと、果たして、丁寧にビニール袋に包まれたオルゴールと風景画が発見された。オルゴールの側面には、紛れもなく、小さなハート型の傷が刻まれていた。


 事件解決の報告を受けた蛍は、書斎で静かに紅茶を一口飲んだ。窓の外では、夕日が蔦の葉を美しく茜色に染め上げている。

「人の心は、時に金銭よりも、ずっと儚く、そして強い……形のない『思い出』という名の宝を求めるものなのね……」

 彼女の低く、どこか物悲しさを帯びた呟きは、古書の匂いが満ちる書斎の静寂の中に、ゆっくりと溶けていった。


 佐々木は、改めて肘掛け椅子に深く身を沈める小柄な探偵の背中を見つめた。現場に赴くことなく、もたらされた断片的な情報と言葉だけを頼りに、事件の深層心理までも見事に解き明かしてしまうその洞察力。彼女の肘掛け椅子は、単なる家具ではない。そこは、世界で最も鋭敏な観察と思考が行われる、特別な場所なのだ。


 今日もまた、安楽椅子探偵・上條蛍は、書斎から一歩も外に出ることなく、一つの事件を静かに解決へと導いたのだった。ムサシが、主人の足元で満足げに喉を鳴らしていた。


(了)



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