第九話:目覚める本能
翔太は、闇の試練を乗り越えた後も、心に深い余韻を残していた。あの試練が示唆していたものが何なのか、それがまだ完全には理解できていない。だが、少なくとも今は、以前よりも自分の力をコントロールできる自信を持つことができた。
「ふぅ…やっぱり、まだ完全に受け入れられていない気がするな…」
翔太はリュートと共に、再び歩き始めた。疲れた顔をしながらも、何度も呼吸を整えようとする。その背後で、リュートが心配そうに彼を見ていた。
「翔太、君の力を理解するのは簡単ではないだろう。だが、無理にそれを急ぐ必要はない。今は君が出来ることを一つ一つこなしていくべきだ。」
リュートの言葉に、翔太は少し頷きながら答える。
「でも、心のどこかで、何かが足りない気がするんです。力を手に入れたはずなのに、何かが…」
翔太はその言葉を途中で止め、しばらく黙ったままだった。
「それは『心の壁』だ。」
リュートが言った。「君がまだ完全に自分の力を受け入れていないから、どこかで不安や疑念が生まれる。試練を乗り越えたからと言って、それがすべてではない。今度は君自身が、その力に対してどれだけ真摯に向き合うかが重要だ。」
その言葉が、翔太の心に深く響いた。確かに、自分の力を完全に受け入れることができていない。あの日、闇の試練で見たもの、そして感じたものは、ただの力ではなかった。それは、何かしらの「目的」や「使命」に絡んでいるような気がしてならない。
「じゃあ、これからどうすれば…?」
翔太が口を開くと、リュートはしばらく黙って考え込んでから答えた。
「今君にできることは、力の使い方をもう一度確認することだ。君の力は単に攻撃的なものではない。心と一体化した力だからこそ、より深く理解する必要がある。」
「心と一体化…」
翔太はその言葉を繰り返し、再び歩きながら考える。心と一体化した力。自分の力が何かしらの感情や意識と連動していることは、すでに試練を通じて感じていた。しかし、その力が自分にどう作用するのか、まだ完全に理解できていない。
その時、急に空気が重くなった。翔太は足を止め、辺りを見回した。
「何か、感じませんか?」
リュートも同じように空気を感じ取っていたのか、真剣な顔つきになった。
「おかしい…この先、何かが待ち構えている。」
翔太がその言葉を聞いた瞬間、突如として大地が揺れ始めた。草原が波打ち、空気が渦を巻く。何か巨大な力が動き出したような、重圧感を感じる。
「これは…」
翔太は思わず後ろに下がった。しかし、その力はさらに強くなり、周囲の風が激しく吹き荒れる。
「リュート、何が起こっているんだ!?」
リュートは一歩前に出て、目を閉じて空気を感じ取るようにしていた。そして、しばらくしてから静かに言った。
「翔太、君の力が反応している。この力は、君が乗り越えるべき『次の試練』だ。」
その言葉と同時に、大地から黒い霧のようなものが現れ、翔太の周囲を包み込んでいく。それは先ほどの「闇の試練」のように、目に見えない力で彼を試そうとしているかのようだった。
翔太は再び、力を感じ取ろうとする。心を静め、自分の内面と向き合いながら、力を呼び起こす。
「僕は…まだ足りない。まだ足りないんだ…」
その瞬間、翔太の中で何かが爆発した。まるで心の中に眠っていた本能が目覚め、全身を駆け巡る感覚がした。闇の力と一体化したその瞬間、翔太は自分の中に何かしらの意志が生まれるのを感じ取った。
「これが…僕の力。」
彼の周囲の霧が少しずつ消えていき、空気が澄み渡った。その瞬間、翔太は自分の力の一部を初めて完全に受け入れたような感覚を覚えた。それは力の暴走ではなく、彼自身がその力と一体化した証であった。
「やっと…分かった。」
翔太は目を開け、その力をコントロールする方法を感じ取った。これまで自分の中にあった不安や疑念が、まるで霧が晴れるように消え去り、力を使うための確信が生まれたのだ。
「翔太、すごい!」
リュートが驚いた声を上げ、翔太は彼に向かって微笑んだ。
「ありがとう、リュート。これで、少しは自信が持てそうだ。」
翔太はその力を完全に支配したことで、新たな自信を手に入れた。そして、次の試練がどこで待っているのか、はっきりとは分からなかったが、今の翔太にはその試練を乗り越える力が備わったと感じていた。