第八話:新たな試練、心の壁
翔太はリュートと共にデスアークの森を離れ、しばらくの間、見慣れた草原を歩いていた。影の使徒との戦いから数日が経ち、翔太は自分の力をよりコントロールできるようになったと感じていた。しかし、あの日から心の中に一つの疑問が残っていた。
「本当に、これでいいんだろうか…?」
翔太は時折、そんな思いに囚われることがあった。自分の中で暴れ回るような力を、少しずつ使いこなせるようにはなった。しかし、その力の正体が分からず、何のために持っているのかが不明なままであったからだ。
「翔太、どうした?」
リュートの声に、翔太は我に返る。リュートは心配そうに彼を見つめていた。
「うーん…なんとなく、まだ不安なんです。」
翔太は苦笑いしながら言った。
「僕が持っている力、なんでこんなものを持っているんでしょう。力を使うたびに、何かが目覚めるような気がするんだけど、その正体がまだ分からない。」
リュートは少しの間、沈黙した後、穏やかな声で答えた。
「それは君だけじゃなく、私にも分からないことだ。君の力には、何かしらの意味があるはずだ。しかし、それを急いで知ろうとするのは、少し危険だ。」
「危険?」
「そうだ。」
リュートは頷きながら言った。「力が目覚めるとき、それに引き寄せられるものもまた、強大なものになる。君の力が本格的に覚醒する前に、それを無理に理解しようとすると、その力に飲み込まれてしまうかもしれない。」
「飲み込まれる…」
翔太はその言葉に冷や汗をかきながらも、リュートを真剣に見つめた。リュートは続けて言った。
「だからこそ、君は心をしっかりと持ち続けなければならない。力は、心を試すものだ。君がその力に振り回されないよう、しっかりと自分を見失わないように。」
翔太はその言葉に深く頷いた。自分が持つ力に対して、まだ完全に理解していないことがある。それはリュートの言う通り、自分の心と向き合わない限り、その力の本当の意味を知ることはできないだろう。
その時、翔太の足元がふっと軽くなった。彼は何気なく足を踏みしめたその瞬間、突然、足元にひび割れが走り、地面が裂けていくのを感じた。
「えっ…?」
翔太が驚いて足を引いた瞬間、裂け目から黒い煙のようなものが立ち上り、森の中に充満していった。
「まずい!翔太、離れろ!」
リュートの叫び声に、翔太は急いで後ろに下がった。だが、その煙はすぐに彼の足元を囲み、逃げ場を奪っていく。黒い霧が翔太の周囲に渦を巻き、空気が圧迫される感覚がしてきた。
「これ、何ですか?」
翔太は恐怖を感じながらも、何とか冷静に問いかけた。リュートは眉をひそめ、鋭い視線を霧の中に向けた。
「これは…『闇の試練』だ。」
リュートはすぐに魔法陣を展開し、周囲を照らし始めた。だが、霧はそれに反応するように広がり、どんどん強くなっていく。「君の力が呼び寄せたものだ。」
「試練?」
「そうだ。君の中にある力には、闇を引き寄せる性質がある。それが今、君の試練として現れたのだ。」
翔太はその言葉を聞いて、冷や汗が流れ落ちた。どうして自分が、そんなものを引き寄せてしまったのか…。だが、リュートの言葉に従い、冷静さを保つことを心がけた。
「翔太、君が今、力に飲み込まれるか、支配するかの岐路に立たされている。君の心の中の闇と向き合わせなければならない。」
「心の中の闇…?」
リュートは短く頷いた。
「君の力は、君の心に深く結びついている。その力に飲み込まれずに、しっかりとコントロールし続けなければ、この試練を乗り越えられない。」
その言葉に、翔太は胸を高鳴らせながらも、どこか不安な気持ちが湧いてきた。この試練を乗り越えた先に、何が待っているのかは分からないが、今はただ、心を落ち着けてその力を支配することが最優先だ。
「分かりました。僕は…僕の力を、支配します。」
翔太は力強く宣言した。自分の心に誓うように、その決意を口にした。すると、黒い霧が一瞬、ひときわ濃くなり、翔太を飲み込もうとした。
だが、翔太は深く呼吸をし、その中で感じる力を感じ取った。心の中にある闇と、向き合いながら、その力を引き寄せる。少しずつ、霧が収束し始め、彼の周囲の空気が澄んでいった。
「僕は…負けない。」
翔太はその言葉と共に、霧の中に放った。力が、心が、ぴたりと一致した瞬間、霧は完全に消え去った。
その瞬間、翔太の体を包んでいた闇は、何もかもを消し去ったように消え去り、青空が広がった。
「やった…」
翔太は肩で息をしながら、安堵の表情を浮かべた。だが、リュートの顔には微かな不安が浮かんでいた。
「翔太…君は、少しずつだが、力を使いこなせるようになっている。しかし、これからも試練は続く。心をしっかりと持って、力を使うことを忘れてはならない。」
翔太はその言葉を噛み締め、再び心を引き締めた。
「僕、もっと強くなりたい。」
翔太の心の中で、何かが確実に変わり始めていた。