第七話:影の狭間
翔太はリュートとともに、再びデスアークの森を歩いていた。前回の戦いで、自分の力を完全にコントロールできるようになったと感じたが、その力をどう使うべきかはまだはっきりしていなかった。リュートの指導を受けていくうちに、彼の中で浮かび上がってきたのは、「この力がどこから来たのか」という疑問だった。
「リュートさん、あのドラゴンのようなモンスターを倒したことで、何か変わった気がします。力の使い方が少しずつ分かってきたけど、それでも不安なんです。僕は何をするためにこの力を持っているのか、まだわからないんです。」
翔太は歩きながら、ふとリュートに問いかけた。リュートはその言葉にしばらく黙って答えず、ただ足を止めて空を見上げた。
「君の力の正体…それを解き明かすには、まだ時間がかかるかもしれない。しかし、君がその力をどう使うかが重要だ。」
リュートは静かに言った。
「この世界において、力を持つ者はそれをどう使うかで運命が大きく変わる。君には、まだ知らない使命がある。その使命を果たすためには、力を覚醒させ、制御することが第一歩だ。」
「使命…」
翔太はその言葉を反芻した。リュートが言うように、彼にはこの力を持つ理由があるはずだ。それが何であるかはまだ分からないが、この世界で生きていくためには、その理由を見つける必要がある。
しばらく歩いていると、急に森の雰囲気が変わった。周囲の木々が妙に静まり、風の音さえも感じられない。翔太は心の中で警戒心が高まるのを感じ取った。
「リュートさん、なんだか変ですね。空気が…重い気がします。」
翔太がそう言うと、リュートも立ち止まり、周囲を見回した。
「おかしいな。これは…」
リュートは視線を鋭くして言った。「君が持つ力が、今、何かを呼び寄せている。」
その言葉に、翔太は一瞬理解が追いつかなかったが、すぐに身の回りに異常を感じ取った。森の奥深くから、何かが近づいてくる音が聞こえてきた。それは重い足音、そして低く唸るような音が響いてくる。
「来たか…」
リュートは静かに言ったが、その表情には一切の余裕はなかった。
突然、森の中から巨大な影が現れた。それは黒い霧のように動き、地面を這うようにして近づいてくる。翔太はその影の正体を見た瞬間、背筋が凍るような感覚に襲われた。それは、ただのモンスターではなかった。何か人間に似た姿を持つ、異質な存在がそこに立っていた。
「…こいつは、何だ?」
翔太は思わず声を漏らした。影の中から姿を現したのは、人間の姿に似た形をしていたが、目が異常に赤く光り、肌は青白く死んだような色をしていた。その体から放たれる邪悪なオーラに、翔太は身震いした。
「それは、"影の使徒"だ。」
リュートが冷静に言った。「死者の魂が集まり、闇の力を纏った存在だ。通常のモンスターとは訳が違う。非常に危険だ。」
「影の使徒…」
翔太はその言葉を呟き、無意識に後ろに下がろうとしたが、足が動かない。まるで、彼の動きを封じ込めるかのような重い圧力が周囲に漂っていた。
「翔太、冷静に。」
リュートの声が響いた。彼はすでに魔法の準備をしている様子だったが、その表情には焦りが見え隠れしている。
「影の使徒は、闇の力を操る。君の力を試すには、これ以上の相手はいないだろう。」
リュートが言いながら、手を広げて魔法陣を展開した。しかし、影の使徒は一歩踏み出すと、魔法陣を簡単にかき消すような力を放った。リュートの魔法は、まるで風に吹かれる砂のように散っていく。
「これでは…まずい…!」
リュートが短く呟いた。その時、翔太は急に自分の胸の奥で何かが引き寄せられるような感覚を覚えた。まるで、自分の中の力が何かを察知したかのように、暴走しそうな気配を感じた。
「どうする、翔太?君の力を試す時だ。」
リュートがその背中を押すように言った。
翔太はしばらく黙っていたが、やがて深呼吸をしてから、ゆっくりと立ち上がった。
「僕の力…?」
その言葉と共に、翔太は目を閉じて心を集中させた。リュートの言葉が頭の中で響く。自分の力を制御することができれば、この危機を乗り越えられるはずだ。翔太は、深い闇の中でその力を引き出そうと心を込めた。
そして、突然、彼の周りに強烈な光が溢れ出した。闇の中で光が反射し、影の使徒の圧倒的な力に対抗するかのように、翔太の手から輝く魔力が広がった。目の前の使徒が、それに反応して一歩後退する。
「これが…僕の力…!」
翔太は手を高くかざし、魔力を一点に集中させる。すると、光の柱が使徒に向かって放たれ、森の中に轟音が響き渡った。