第六話:未知なる力の覚醒
翔太は黒狼を倒した後、その場で立ち尽くしていた。心臓が早鐘のように打ち、手のひらはまだ震えている。今まで自分が持っていた感覚とはまったく異なる力が、自分の中で目を覚ましたのを感じていた。その力はまるで、異世界そのものと繋がっているかのような感覚だった。
「本当に、これが…僕の力?」
翔太は呟き、手のひらをじっと見つめた。掌に残る、まだ熱を帯びた魔力。先ほどの黒狼の攻撃を、ただ手をかざすだけで止めた自分に驚きを隠せなかった。しかし、あの力は自然に出てきたものではない。まるで、彼の意識が力を引き寄せるように動いたような感覚だった。
「翔太、よくやった。」
その時、背後からリュートの声が聞こえた。振り返ると、いつの間にかリュートが森の入り口に立っていた。彼は微笑みながら、翔太を見守っていた。
「…リュートさん、見ていたんですか?」
翔太は少し恥ずかしそうに尋ねた。リュートは軽く頷き、近づいてきた。
「もちろんだ。君がどんな力を持っているのか、確認していたからね。」
「でも、僕は…どうしてあんな力を?」
翔太の疑問に、リュートは静かに答えた。
「君の力は、覚醒したばかりだ。しかし、君が持っている力は他の誰とも違う。もっと深く掘り下げていくと、君自身がまだ知らない能力が眠っているかもしれない。」
「僕が持っている力…?」
翔太はもう一度、自分の手を見つめた。確かに、あの黒狼を倒す力を引き出した感覚は一度きりのものではないはずだ。何かが、彼の中で芽生えたような感覚が残っている。
「でも、どうして僕が…」
「君が異世界に来たのは偶然ではない。君はこの世界にとって、重要な存在だ。君の力がどれほど強いかは、これから少しずつ明らかになるだろう。」
リュートは翔太の目を見つめながら言った。その瞳には、どこか不思議な光が宿っている。
「君が持つその力は、この世界にとっても大きな意味を持っている。だが、まだそれがどのようなものかは私もわからない。君が成長することで、答えが見えてくるだろう。」
リュートの言葉に、翔太は無言で頷いた。だが、心の中ではさまざまな疑問が渦巻いている。自分がなぜこの世界に来たのか、そしてなぜこのような力を持っているのか。その答えを知りたいという思いが、ますます強くなった。
「じゃあ、これからはその力をどう使えばいいんですか?」
翔太が尋ねると、リュートは軽く微笑んだ。
「まずは、君自身がその力をコントロールできるようにしないとね。力を使いこなすためには、訓練が必要だ。しかし、無理に急ぐことはない。君のペースで、少しずつ試していけばいい。」
「訓練…」
翔太はその言葉に少し安心した。急いで力を使いこなす必要がないのは、彼にとって心強いことだった。
「それに、力を使うためには心の状態も重要だ。君が心を落ち着け、冷静にその力を引き出せるようになることが、最も大事だよ。」
リュートの言葉は、翔太にとって新たなヒントとなった。力を使うために心を落ち着けること。それは、どこか自分に足りなかった部分を補うような気がした。
「分かりました。まずは、自分をしっかりと持てるようにします。」
翔太はそう答え、リュートを見つめた。
その後、リュートは翔太に少しずつ訓練を始めるように言った。最初は力を無理に使わず、心を落ち着けて自分の内面と向き合わせることから始めた。翔太は訓練を重ねるたびに、自分の力が次第に強くなる感覚を覚えた。手のひらから感じる魔力の温かさが、徐々に安定してきていた。
数日後、翔太は再びデスアークの森に足を運び、リュートとともに新たなモンスターと対峙することとなった。今回は、先程の黒狼よりもさらに強力なモンスターが現れるという。
「今日は君の力をさらに試す日だ。」
リュートが言った。
翔太は少し緊張しながらも、覚悟を決めた。前回の黒狼との戦いで感じた力を、今度は完全にコントロールできるようになっていた。
「行きます!」
リュートの合図とともに、翔太は深呼吸を一つし、目の前に現れた巨大なドラゴンのようなモンスターを見据えた。モンスターは目を赤く光らせ、威圧的な唸り声を上げた。その姿に圧倒されそうになるが、翔太は一歩も引かず、心を落ち着ける。
「来い!」
翔太は力を込めて手をかざすと、空気が震え、魔力が彼の手から溢れ出した。前回のように無意識に力を引き出すのではなく、今度は完全に意識的に魔力をコントロールすることができた。
モンスターが突進してくるその瞬間、翔太は魔力を一点に集中させ、空気を震わせながら一気に放った。
「来い!」
巨大な魔力の波が、モンスターに向かって放たれる。その瞬間、モンスターは大きく後退し、足元が崩れるように倒れ込んだ。
翔太は、その場で力を使い果たしたように膝をついたが、心の中では確信が芽生えていた。
「これが、僕の力だ。」