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第五話:試練の道

翔太が異世界で過ごしている日々は、少しずつではあるが確実に充実してきていた。カフェ「エルディア」での仕事も、もはや彼にとっては日常の一部となり、エリスやリュートとの会話が心の支えになっていた。しかし、その日常の中で、翔太は次第にある違和感を覚えていた。それは、モンスターや冒険者の話題が増える中で、何かが自分の中で変わろうとしているという予感だった。


「翔太くん、今日はちょっと面白い話をしようか?」


その日も翔太がカフェで働いていると、リュートが店に訪れた。いつものように魔法使いとしての落ち着いた雰囲気を持ちながら、リュートは軽く微笑んで話しかけてきた。


「面白い話ですか?」


翔太は不安そうな顔をしながら尋ねると、リュートは少し考え込むようにしてから言った。


「最近、君に試練を与えてみようかと思っているんだ。」


「試練?」

翔太は驚いた。リュートの言葉に、心の中で不安が膨らむ。


「試練と言っても、大したことじゃない。ただ、君が異世界での力を引き出すための小さなステップだ。」


リュートは冷静に話を続ける。


「君が今、何かしらの力を持っていることは感じているはずだ。それを確かめるために、少し危険な場所に行ってみる必要がある。もちろん、君が無理なら戻ってくることもできる。」


翔太はリュートの真剣な眼差しを見て、少し考え込む。試練という言葉に対する恐怖が胸を締め付けるが、どこかで自分の中にある力を試してみたいという好奇心もあった。


「どこに行けばいいんですか?」


その問いに、リュートは微笑みながら答えた。


「近くの「デスアークの森」に行くんだ。そこには少し強めのモンスターが住んでいる。君がそのモンスターと対峙できるか、確かめるために。」


「デスアークの森… それは、かなり危険な場所ですよね?」


「その通りだ。でも、君がどこまで強くなれるのかを知るには、避けて通れない場所だ。」


翔太は自分の胸の鼓動が早くなるのを感じた。心の中で、怖さと期待が入り混じっていた。


「分かりました。行きます。」


リュートの言葉に心を決めた翔太は、翌日、エリスから少しだけ旅支度を整えてもらい、デスアークの森へと向かうこととなった。


翔太が一歩一歩、森へと足を踏み入れると、周囲の雰囲気が急に重くなったように感じた。木々は鬱蒼と茂り、空気は湿っぽく、薄暗い。デスアークの森には、名前に恥じぬほどの陰鬱な雰囲気が漂っていた。


「これ、本当に大丈夫かな…」


翔太は不安を感じながらも、足を進める。だが、森の中は静まり返り、足音が響くたびにその静寂が不安を募らせる。翔太は歩きながら、リュートが言っていたことを思い返した。


「君が自分の力を試すためには、この程度の場所は乗り越える必要がある。君がまだ何の力も持っていないのなら、ただの危険な場所で終わるだろう。」


翔太はそれを心の中で繰り返しながらも、恐怖に引き寄せられそうになる自分を必死で抑え込んだ。


「でも、僕はここで立ち止まるわけにはいかない…」


その時、突然、森の奥から不穏な音が聞こえた。ゴソゴソと何かが動く音。そして、目の前に現れたのは、巨大な狼のようなモンスターだった。その体は黒く、目は赤く光っている。唸り声を上げながら、ゆっくりと翔太に近づいてくる。


「これが…!」


翔太はその瞬間、全身に冷たい汗をかいた。恐怖で体が震える。しかし、彼は深呼吸をし、心を落ち着けようとする。


「リュートの言っていたことは、ただの試練だ。僕はこれを乗り越えなければいけないんだ。」


その時、翔太の中で何かが弾けるような感覚が走った。まるで、長い間封印されていた力が目を覚ましたような感じだ。心の中で何かが引き寄せられるような感覚があり、その力を感じ取った。


「僕の力…?」


その瞬間、翔太は目の前のモンスターを凝視し、その姿を見つめながら力を集中させる。すると、突然、周囲の空気が変わった。風が吹き、地面が微かに震え、目の前の黒狼がその場で動きを止めた。


「これが…僕の力?」


翔太は自分の手を見つめ、確信を持った。彼の中で何かが変わった。無意識のうちに、魔力のようなものを感じ取っていた。それは、まるで彼の身体と心が異世界に溶け込んでいくような感覚だった。


黒狼が再び唸り声を上げ、翔太に向かって突進してきた。その瞬間、翔太は一歩前に踏み出し、力を込めて手をかざした。すると、空気がひときわ震え、黒狼の進行が一瞬で止まった。その場で、黒狼は驚いたように後ろに跳ね返される。


翔太は目の前の出来事に驚きながらも、今自分が感じている力に確信を持った。


「これが…僕の力だ。」


その瞬間、黒狼は地面に倒れ、二度と動くことはなかった。翔太はその場に立ち尽くし、息を呑んだ。自分の中にあった未知の力が目覚めた瞬間だった。

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