第四話:予兆と冒険の始まり
翔太は、あの日以来、リュートが見せた力に心を奪われていた。あの時、リュートが魔法で男たちを静めた瞬間、翔太は魔法の存在を完全に信じるようになった。それは単なる幻想ではなく、この世界にとって当然の力であり、これから自分もその世界で生きていくことを意味しているのだと実感させられた。
「翔太くん、今日は忙しくなるかもしれないわ。」
エリスが微笑みながら言った。
「忙しくなるって、何かあったんですか?」
翔太は、エリスが何を意味しているのか分からずに尋ねると、エリスは少し考え込んだ後、答えた。
「最近、近くの村でモンスターが暴れているって噂を聞いたの。だから、もしかしたら冒険者たちがここに集まってくるかもしれないわ。」
その言葉に翔太は驚いた。モンスターが暴れているというのは、異世界の住人たちにとっては決して珍しい話ではないだろう。しかし、翔太にとっては、それがどれほど危険なことか全く分からない。
「冒険者たちって、どんな人たちですか?」
翔太が尋ねると、エリスは答えた。
「冒険者は、この世界ではとても大切な存在よ。村や街を守るために、モンスターを倒したり、危険な場所に踏み込んだりする。もちろん、報酬ももらえるけれど、命をかけた仕事だから、リスクも高いわ。」
「それって、普通の人ができる仕事じゃないんですね。」
翔太は、少ししんみりとした気持ちになりながら言った。すると、エリスは明るく笑って答えた。
「まあ、普通の人にはできないわね。でも、君だってこの世界に来た以上、何かしらの力を持っているんじゃない? その力が何かに役立つかもしれないわよ。」
その言葉に、翔太はまた少し不安になる。自分にそんな力があるとは思えなかったが、エリスの優しい言葉に励まされて、何とかその気持ちを押し殺すようにした。
「それなら、僕も少しはお手伝いできるかもしれませんね。」
そう言って、翔太はエリスの微笑みに答えた。
その日の午後、エリスの予想通り、カフェ「エルディア」に数人の冒険者たちがやって来た。彼らは筋肉質で、武器を携えており、どこか荒々しい雰囲気を持っていた。その中のひとり、太った男性が最初に声をかけてきた。
「おい、エリス。俺たちに酒をくれ。あの村での仕事が終わったところだ。」
「お疲れ様、ゴーランさん。少し待っててね、すぐに用意するわ。」
エリスはすぐに対応し、翔太もその様子を見守った。ゴーランという男性は、豪快に笑いながら他の冒険者たちに話しかけていた。翔太はその会話を耳にして、少しだけ興味を持ち始める。
「どうだった? モンスターの方は片付いたのか?」
「おう、何とか。だが、あの村の近くにはまだ危険な奴がうろついてるって話だ。少しは気をつけた方がいいぞ。」
ゴーランの言葉に、他の冒険者たちも真剣な顔をして頷いた。その中のひとり、短髪の青年が翔太に目を留めた。
「お前、最近見ない顔だな。」
「ええ、最近こちらに来たばかりなんです。」
翔太は、少し戸惑いながらも答える。
「そうか。まあ、カフェで働くのも悪くないけど、気をつけろよ。異世界に来たからって、甘く見てると命がいくつあっても足りなくなるぜ。」
その言葉に、翔太は緊張が走った。異世界で生きるためには、もっと強くならなければならないということを、改めて感じた。
その夜、翔太はリュートと再び顔を合わせることとなった。リュートは、冒険者たちの話を聞いていたようだ。
「どうやら、村の近くで本格的なモンスターの群れが現れたらしいな。」
リュートが静かに言った。
「それは危険な状況ですね… でも、僕にできることは何もありません。」
翔太は自分が無力だということを痛感していた。しかし、リュートは軽く笑うと、翔太に向かって言った。
「君が無力だなんてことはない。まだその力に気づいていないだけだよ。」
「力…?」
「君が異世界に来たのには、必ず意味がある。その力を引き出すことができれば、君にも十分に戦えるだけの力が備わっているはずだ。」
翔太はその言葉に、少し驚いた。自分にそんな力があるのだろうか。しかし、リュートの真剣な眼差しに、彼の言葉を信じてみるべきだと感じた。
「じゃあ、僕も少しずつでも強くなれるように、頑張ります。」
リュートは頷き、にっこりと笑った。
「それでこそ、君だ。」
その夜、翔太は寝る前にふと、これからどんな冒険が待っているのかを考えた。異世界での生活は予想以上に過酷で、危険も多い。しかし、それでも彼には新しい仲間ができ、少しずつ自分の力に気づき始めている。これからも、何かが変わっていく予感がした。