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カフェでのひととき

翔太はカフェ「エルディア」での仕事を始めてから数日が経った。最初は戸惑いもあったが、カフェの常連客たちと触れ合ううちに少しずつ慣れてきた。店主のエリスは相変わらず優しく、時には不思議な魔法を使って店を整えていたが、翔太にとってはそれが「普通」と感じられるようになってきた。


ある日、いつものように仕事をしていると、店の扉が開き、ひとりの少女が入ってきた。彼女は華奢で、少し背が低く、金色の髪が肩に軽やかに揺れていた。小さな翼が背中から生えており、まるで妖精のような姿だ。彼女の存在が店内にふわりとした空気をもたらし、思わず翔太はその姿に見とれてしまった。


「いらっしゃいませ。」


エリスがにっこりと微笑んで迎えると、少女は少し照れくさそうにしてから、カウンターに近づいてきた。


「こんにちは、エリスさん。今日もよろしくお願いします。」


「今日もお疲れ様、カナリア。いつもの紅茶でいいかな?」


「うん、お願いします。」


カナリアという名前のその少女は、エリスに頼んだ飲み物が出されるのを待ちながら、翔太の方をちらりと見た。翔太は少し照れくさい気持ちになりながら、彼女に微笑み返した。


「君、新顔だね。カフェで働いているの?」


「え、あ、はい。高橋翔太です。よろしく。」


カナリアは嬉しそうに目を細めた。


「翔太くんか。私はカナリア。ここでよくお世話になっているんだ。」


翔太はカナリアと軽く会話を交わしながら、少しずつ彼女のことを知り始めた。カナリアは普段はあまり大きな声で話すことはなく、どこかおっとりした雰囲気を持っていた。そのためか、店内でもよく他の客たちに気を使っているようで、まるで「みんなの妹」のような存在だと感じた。


「翔太くん、ここで働くのは初めてだよね?」


「はい、まだ慣れないことが多くて……」


「でも、大丈夫だよ。最初は誰でもそうだから。」


カナリアは小さく笑いながら、紅茶を一口飲んだ。その時、店内の扉が再び開き、他の客たちが入ってきた。


「お、今日も忙しそうだな。」


カウンターに座ったのは、先日も見かけた冒険者風の男、アグスだ。彼はいつものように軽く頷きながら、注文を始める。


「エリス、俺にもアルカナティーを頼むよ。」


「わかりました。」


エリスが素早く注文を受けると、翔太はその合間にカナリアと話を続けた。


「カナリアさん、あなたもここで働いているんですか?」


「ううん、私はただの常連だよ。でも、時々、みんなの役に立つために手伝っているの。」


「役に立つ?」


「うん。実は私、ちょっと特別な力を持っていて……」


カナリアは少し顔を赤らめながらも、翔太に話し始めた。


「私は未来を見ることができるんだ。」


翔太はその言葉に驚いた。未来を見る? そんなことができる人がこの世界にいるなんて、まるで魔法のようだ。


「未来を見る、って……本当に?」


「うん。たとえば、ここで誰が次に来るかとか、どんな出来事が起きるか、少しだけ分かるんだ。でも、私はそれを無理に伝えたりはしないよ。あくまで自分が見たことを知っているだけだから。」


翔太はその話をじっと聞いていた。カナリアがそんな力を持っていることに驚く一方で、彼女がそれを控えめに使っていることに、少し感心した。


「じゃあ、翔太くんも未来のことを知りたい?」


「え?」


カナリアはにっこりと笑い、翅を少しだけ動かしてから、言った。


「あなたがどんな選択をするのか、未来の道はきっと開けるはずだよ。でも、何を選ぶかはあなた次第だってことを忘れないでね。」


その言葉に、翔太は少しだけ胸が熱くなるのを感じた。未来を予知することができる力を持ったカナリアが伝えるその言葉には、何か不思議な説得力があった。


その時、店内の雰囲気が少し変わった。扉が開く音とともに、店に入ってきたのは、また別の人物だった。彼は魔法使いのような装束を身にまとい、重たい本を抱えている。


「おや、今日は賑やかだね。」


その男性――リュートと呼ばれる魔法使いの常連が、店内に足を踏み入れると、エリスは微笑んで迎えた。


「いらっしゃい、リュートさん。今日はどうしたんですか?」


「いや、ちょっとした調査で、魔法の知識を探しにきたんだ。翔太くんも、この店に来て何日か経つだろう? 何か気になることがあれば、気軽に聞いてくれ。」


リュートの言葉に、翔太は驚きながらも、少し前向きに考えるようになった。ここに来て、いろんな人と出会い、少しずつこの異世界のことがわかってきたような気がする。それと同時に、翔太は自分がここで何をするべきか、もっと真剣に考えるようになっていた。


「未来のことを知りたければ、リュートさんに聞いてみてもいいかもね。」


カナリアがそう言って微笑むと、翔太はその言葉を胸に、リュートに向かって少しだけ身を乗り出した。

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