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カルフの日

 ときにコメディ、ときにブラックコメディそして風刺、お笑いバカ話などのごちゃ混ぜの、一話読み切りの連載短編集です。

 元となった「カルフ」のシリアスなストーリーと、登場人物や彼らの関係は似ていますが、内容的には関係はありません。


「カルフ」を読んでいない方のために、

 時代背景は磁気軸反転のためにほとんどの科学的知識を失った近未来、カルフは超レアもののカメムシ型疑似生命体です。

 ドーム都市にはロボットやアンドロイドが存在しますが、この話の登場人物は機械など殆どない村に住み、食いっぱぐれた子どもたちは、関守となって痩せたは土地を耕したり、荒れ地を走り回って獲物を追っかけてます。


「何してるんだ?」とテンマはセリカに聞いた。

 セリカは彼女の宝物の一つ、色鮮やかな小さなホタテ貝(ヒオウギ貝)の殻に合わせた薄紫色の絹のカバーにワタを詰めていた。絹のカバーはミライにもらったスカーフの端を、ちょっとだけ切って染めたものだ。ピンクにしようと思ったのだが、もとが水色だったので紫色っぽくなった。

「カルフのベッドを作っているの」

「ベッド?」

 うん、とセリカ。

 カルフは、いつもはセリカのベッド脇の棚に飾ってある、キャンディーの包で作った動物たちに紛れて眠っている、、というか夜間はエネルギー節約のために休止状態だ。

「この間、からかいすぎてカルフ怒らせちゃったでしょ。それでもカルフは、私の誕生日のために腕輪を作ってくれた。ミオに刺繍糸を分けてもらってそれを織ったんだって」

 と言って、セリカは左手につけた腕輪を指した。

「FRIENDって、友だちっていう意味なんだって」

 文字の他にもキレイな色が縞になっていて、小さなカルフが作るのには時間も手間も随分かかっただろうとテンマにもわかった。

 カルフはセリカを喜ばせようと色々するだけでなく、他の子供たちの教育もしようと一生懸命だ。それに対して子供たちは、ありがた迷惑と言った態度である。隊長のシオンに言われて、カルフの寺子屋に参加しているだけで、言ってみれば、任務か義務だ。

寺子屋を開くだけでなく、健全な体がなければ健全な心も育たない、と食料の確保にも奔走してくれているのに素っ気なさすぎるかもしれない、とテンマも反省した。

「カルフには皆、世話になっている。俺も感謝知らずと言われたくない。でも、俺たちにできることってなんだろう?」

「勉強することだと思うよ」

 げっ、とテンマ。

「せめて、カルフの授業に耳を傾けるように心がけたら?」とセリカは言った。

「、、、」

 言葉もないテンマであった。


 セリカはカルフに貝殻のベッドを見せて、包み紙の動物たちの真ん中に置いた。カルフは、

「ありがたいことじゃ。セリカ姫は、アタシが望むような強く、優しく、実行力のある娘に育ちつつあるのだな。感動である。うる うる うるるん」

 と言って、とても嬉しそうだ。それを見ているセリカも嬉しそうに微笑んでいる。そんなふたり{一人と一匹}を、玉次郎がじっと見ていた。


 授業が始まっても、カルフはゴキゲンであった。

今がチャンス、と思いテンマは立ち上がった。

「セリカだけでなく、俺たちもカルフの教育にかける情熱や、食料集めに奔走する姿に感動している。感謝の意を表すために、今日をカルフの日とすることにした。今日の授業は、皆、一生懸命聞く覚悟だ」

 彼の言葉に全員が大げさに拍手した。テンマは、白狐隊の皆に根回しをしておいたのだ。

 授業を受けるのに覚悟が必要なのか?とカルフは愕然とした。「今日は」という言葉も引っかかる。他の日はどうだというのだろう?しかし感謝していると言われるのは、嬉しかった。

「それでは、アタシも覚悟を決めて授業を始める!しっかり学べ!」


「僕たち、今日、何を習ったの?」

 夕食を食べながらシュンは言った。シュンはメモを取っていたのだが、自分で書いたにもかかわらず、メモの意味すらわからなくなっていた。

いろいろなことを習ったのは覚えているが、色々すぎて何を聞いたか覚えてないのだ。

 皆、互いを見交わした。

「いろいろだった」

「誰か何か覚えてる?」

「文句言わずに授業を中断せず、聞いていたことに意義があるのだ」とゴロー。

だが、いくら考えても、誰も何を習ったかは思い出せなかった。


 夕食が終わっても、雑談は「今日の授業は何だったか?」であった。

テンマの頭もぐるぐる回ってきた。 

 何一つ覚えてないって問題かもしれない、とテンマは立ち上がって外に出た。夜風に吹かれてぶらぶら歩いた。

そして彼は、白狐隊のアジトのある岩のてっぺんで空を見ている玉次郎を見つけた。

「玉次郎、探したぞ」テンマは岩の麓から叫んだ。

「あ、ご主人様。玉次郎にご用であるか?」

「うん、ちょっと来てくれ」

 玉次郎が下りてくると、テンマは先に立って歩き始めた。

そして皆の大部屋のある岩穴に入って、自分のコーナーで立ち止まった。フジのつるで作った目隠しが、彼の部屋の入口を塞いでいる。

「ご主人様は部屋の大掃除でもしたいのか?確かに掃除は必要だと玉次郎も思うけど、もう夜だぞ」と玉次郎。

 テンマは目隠しを動かして、ベッドのそばに置いた二メートルばかりの木の枝を指していった。

「今夜から、あそこで寝ろ。今日はカルフに感謝する日だ。玉次郎もカルフだから、なにかプレゼントしようと思ったけど、何も思いつかなかった。セリカの貝殻のベッドにヒントを得たから、彼女には言うなよ。真似っ子とか言われたくない」

「ご主人様!」

 玉次郎はテンマに抱きついた。

それから踊るように部屋の中に入って、すぐ枝につかまった。触り心地を試しているようだ。テンマは草のツルをわざわざ巻き付けて、見た目にも気を配った。なかなかの傑作だと思う。玉次郎の嬉しそうな姿を見てテンマも満足した。

 俺は玉次郎のご主人様なんだから、たまにはご主人様らしいこともしなくちゃ、と思った。そして、思い出した。

今日のカルフの授業の一部は「幸福について」だった、と。それは抽象的なことを考える力を養うというのが目的だったらしいが、あまりにも抽象的で、誰も覚えていなかったのだ。

 テンマは抽象的な思考が苦手である。第一、答えがはっきり出ないものは嫌いだ。

彼が機械類を好きな理由は、機械には作動する、作動しない、そして誤作動するという三つの可能性しかないからだ。いつか人の欲しがる機械を作って金儲けする、と決めている。

 なのにカルフは、金などなくとも幸せになれるという。

だがそんなものを必要としないカルフに何がわかるのか、とバカバカしく感じた。力や金が自分をを幸せにしないかどうかは、それを手に入れてみなければわからないとテンマは思うのだ。

とは言うものの玉次郎の嬉しそうな姿を見ていると、テンマも幸せな気分になった。


 セリカの考える幸せは、甘いものに囲まれて暮らすということだとテンマは知っている。

彼女は飴やラクガンの形や色をいつも考えている。上手にできると嬉しそうだ。いつかキャンディー屋さんを開くのだ、と言う。

 セリカの誕生日のプレゼントなどは考えていなかったが、彼女のためにラクガン用の木型を作ってやろうか、とテンマは思った。

その理由はわからなかったし考えもしなかった。




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