カルフ、泣くとき 其の二
ときにコメディ、ときにブラックコメディそして風刺、お笑いバカ話などのごちゃ混ぜの、一話読み切りの連載短編集です。
元となった「カルフ」のシリアスなストーリーと、登場人物や彼らの関係は似ていますが、内容的には関係はありません。
「カルフ」を読んでいない方のために、
時代背景は磁気軸反転のためにほとんどの科学的知識を失った近未来、カルフは超レアもののカメムシ型疑似生命体です。
ドーム都市にはロボットやアンドロイドが存在しますが、この話の登場人物は機械など殆どない村に住み、食いっぱぐれた子どもたちは、関守となって痩せたは土地を耕したり、荒れ地を走り回って獲物を追っかけてます。
「どうしたの?カルフ。この間みたいな臭いのは嫌だよ」
うぅ~、うぅ~ うぅ~と丸太の上でカルフがまたうなっているので、セリカは聞いた。
「この間のような失敗はせぬわ。カルフは同じ失敗を、二度繰り返すことはないのだ」
「無駄な努力って言葉、知っているか?」とテンマ。
「無駄なはずがない!アタシには自爆できるエネルギーがあるのだ。涙くらい流してみせるぞよ」
うぅ~、うぅ~とカルフがいつまでもうなっているので、
なんか、こっちのほうが気張ってしまうね、とセリカはテンマにささやいた。
「カルフ、他の方法で泣いていることを示したほうがいいんじゃないか?」とテンマ。
「他の方法とはなんぞや?」
「目が赤くなったら怒っているとか、水色のときは泣いてるとか、さ」
「アタシはオXX(伏せ字)じゃない」
「オXXって何?」とセリカは問う。
聞いたことのない名前だ。
「オXXは有名な話に登場する巨大な虫である。著作権保護法を侵害すると祟りがあるので、その名は言えぬ」
「あ、知ってる。有名な魔法使い!その名を口にしてはいけないって!」
「魔法使いではない。巨大な虫だと言っただろうが!」
「魔法使いなら虫にもなるんじゃないの?」
「なるか!」
「じゃあ、知らない。どこにいるの?その虫」
「ここではない、別のディストピアに生存する巨大ダンゴムシである」
巨大ダンゴムシ?セリカとテンマは顔を見合わせた。
「ダンゴムシって便所虫のことだよね?やっぱり臭そうだね」
「お前らはオXXの怒りが怖くないのか!?」
だって知らないもん、と二人は頷きあった。
「お前らなどむしゃ むしゃ頭からかじられてしまうぞ!」
「そ、そんなに大きいの?」
「このディストピアには、大きな虫はいないよな」
テンマは不安そうにあたりを見回した。
「大きな虫が存在できるだけの酸素がない。古代、巨大虫が存在できたのは、空気中の酸素濃度が濃かったからであろう。木もまばらなこの世界には、存在できないと考えるのが妥当である」
「どうしてなの?」
「虫には肺がないからである」
その時、あっとテンマは声を上げた。
「カルフ、目が赤くなった!でも、赤はたいてい警告の色だ。泣くのは青い方がいいと思う」
「気張りすぎて充血したんじゃないの?それとも疲れ目?高血圧かも」
とセリカ。
「虫が高血圧になどなるか!お前らの馬鹿げた質問に答えるのが嫌になっただけじゃ」
「カルフは虫じゃないんじゃないの?」
ぷん ぷん ぷん、とわざと音を立てて去って行くカルフを見ながら、セリカとテンマは、
「カルフ、怒っちゃった」
「頭から湯気たってなかったか?」
と肩をすくめた。
「テンマがあんまりからかうからだよ、カルフの目、赤くなんてなかったのに」
「お前だって悪ノリして、高血圧だ、とか言ったじゃないか」
「あの調子ならお湯が沸かせるかもしれない。バスタブいっぱいの」
セリカは温かなお風呂につかっている自分を想像した。それだけでもう、くつろいだ気がした。
「エネルギー放出しすぎて、爆発しちゃうかも」
などとテンマも勝手なことをほざく。
子供とは残酷なものなのであった。