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くノ一 カルフ 

 ときにコメディ、ときにブラックコメディそして風刺、お笑いバカ話などのごちゃ混ぜの、一話読み切りの連載短編集です。

 元となった「カルフ」のシリアスなストーリーと、登場人物や彼らの関係は似ていますが、内容的には関係はありません。



「カルフ」を読んでいない方のために、

 時代背景は磁気軸反転のためにほとんどの科学的知識を失った近未来、カルフは超レアもののカメムシ型疑似生命体です。

 ドーム都市にはロボットやアンドロイドが存在しますが、この話の登場人物は機械など殆どない村に住み、食いっぱぐれた子どもたちは、関守となって痩せたは土地を耕したり、荒れ地を走り回って獲物を追っかけてます。


 第五話、くノ一 カルフ 

「姫様、カルフにしばしのいとまをいただけぬものであろうか?」

 セリカの髪を離れてカルフは聞いた。

「そりゃあ、カルフは自由だから、どこに行くのも止めるつもりはないけど。なあに?ホリデーにでも行きたいの?」

「それは言えない。極秘任務なのである」

「極秘任務をヘラヘラ口にするな」とテンマ。

「だから言ってないではないか。言えぬといったのじゃ」

「極秘任務だと言うこと自体が、言っているのと同じだ」

「そうであろうか?ライリは任務の内容は極秘だと言ったが、任務を引き受けるのが極秘とは言わなかったぞ」

「カルフの理屈は屁理屈だ」

「アタシはヘコキムシと呼ばれることもある。ともかく、姫様の許可を頂いたから出発する。それではゴメン」

「ヘリクツコキムシ!」とテンマ。

「カルフ~!カム バッ~ク!」

 セリカは不安げにカルフを見送った。


                 *


「カルフがただいま戻って参りました」

 と嬉しそうに飛んできたものがあった。

「あ、カルフ。とっても心配したよ」

 とセリカが見ると、いつものカルフではない。体が水色で五弁の白い花の模様が入っている。

「姫様、ライリが新しいおべべをくれたのじゃ。あの男は約束を守る。どうじゃ、美しいであろう?」

「美しいというよりはとても可愛い。でも、目立ち過ぎじゃないの?」

「任務中は緑色のままであった。だいたい一週間で、塗料は落ちるそうだ」

「そんなもののためだけに任務を引き受けたのか?」とテンマ。

「難しいものではなかった。本番前のお試しで、ライリの服にくっついて見るもの聞くものを正しく記憶しただけじゃ。

あの男のアフターシェイブは柑橘系のフレッシュな香りがスパイシーに変わるといったなかなか凝ったもので、お肌に良いセラミド入りじゃ。身だしなみにはかなり気を使っておるな。モテる男は違うのだ。

 アフターシェイブとは無縁のテンマのためにはデオドラントを、姫様のためにはマニキュアセットとネイルアートセットをおまけに貰った」

「貰った?どこにあるんだ?」

 テンマは好奇心でいっぱいだ。デオドラントなどつけたことはなかった。

「玉次郎、お利口、役に立つ」

 と言って、玉次郎が箱を抱えてやって来た。

「ネイルアートセット!!」

 どこで聞いていたのか、ミオが嬉しそうな声を上げて顔を出した。

「ねぇ、セリカぁ」

 と甘えた声を出す。

「みんなで使おう。ありがとう、カルフ。皆が喜ぶよ」

「アタシは姫様に喜んでいただくことが喜びだ。るん るん るん」


 シオンとミオが早速、白狐隊の仲間を集めて爪のお手入れ講習会を開いた。皆、ワクワクしながら聞いていたが、なんたって楽しいのは実習だ。

 自分の利き手で、反対の爪を使って試してみることになった。

しかし、ミオがするようにきれいにはできない。

早く色が塗りたくて、皆、基本のお手入れを飛ばしてしまったのだ。

 セリカの場合は、耳元でカルフがステップ バイ ステップの指示を出すのが無視できず、はやる心を抑えて言いつけに従った。

おかげで綺麗に、色下地まで塗ることができた。

彼女の他には、自分の右手で試していたシュンが一番上手にできた。彼は爪を緑色に塗っただけで満足していた。

 だが、それすらできない者もたくさんいた。はみ出したりムラができたり、ともかく美しくない。その上にストライプを入れたり、花を入れたり出来る訳が無い。皆、野心が大きすぎたのだ。

 セットに付いていたデコパーツや付け爪は、上級編と言ってシオンが隠してしまっていた。

 セリカはカルフとおそろいにしようと思って、白い花模様を入れようとしたが、それは大失敗だった。花が歪んで、ただの白い塊だ。

「青空に雲だと思えばいい」とテンマ。

「虹を入れてあげる」

 とミオが言って、セリカの失敗を直してくれた。とても華やかできれいになった。

蛍光カラーを見つけたので、右手の爪には月と星を入れてもらった。

「アタシにも虹を入れておくれ」とカルフがねだる。

 皆も、シオンたちに失敗を修正してもらい、きれいになった爪を見せあった。

 月や星は大人気だった。皆、暗くなるのが待ちきれない。

テンマやゴローは、黒地にドクロやお化けを入れてもらって喜んでいた。

シュンは緑地のまま、親指にだけお化けを入れて貰った。


「ありがとう、カルフ」

 岩山のてっぺん、自分の爪の三日月と本物の月を比べながらセリカは言った。良い日だった。みんなで楽しんだ。

「セリカが嬉しいとアタシも嬉しい。うふ うふ うふ」

 カルフはセリカの爪にとまって言った。

「コードネームは何にしてもらったの?」

 という問いに、かげろう、とカルフは小さな声で答えた。

か弱く消え入りそうな名前だ、と思った。まあ、くノ一なのだから、ゆらゆらと形が定まらない感じでいいかもしれない。

 名のしれたスパイなど、スパイではないのだ。


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