シュン
ときにコメディ、ときにブラックコメディそして風刺、お笑いバカ話などのごちゃ混ぜの、一話読み切りの短編連載集です。
元となった「カルフ」のシリアスなストーリーと、登場人物や彼らの関係は似ていますが、内容的には関係はありません。
シュン
「シュン、お前にはワープ能力があるのか?」
やっとシュンに追いついて、カルフは言った。
「ワープ能力って何?」とシュン。
「テレポーテーション。一瞬にして空間移動する超能力だ。それともお前の素早さは忍者か?声をかける間もなかった。散々追いかけて、息が切れてしまった」
「カルフは、息なんてするの?」
「そう言われると返事に詰まる。アタシは息などしない。体全体から必要な酸素を取り入れるのだ。息が切れるという表現は、会話をスムーズにするために、人間の表現に合わせているだけである」
ふ~ん、とシュン。
「何か僕に用があるの?」
「いつも真っ先にクラスにいるお前が、授業に出てこなかったから、心配して探していたのだ」
「一晩中、宿題の準備をして寝過ごしたから、授業に出られなかったんだ」
「一晩中?なんの準備をしたんだ?」
「僕を囮に吸血鬼を捕まえて、カルフに見せようってゴローが言ったんだ」
「お前が囮?」
「ゴローは、僕だってバージンだとも言ったよ」
あいつめ~、とカルフ。
「ゴローは、宿題を忘れたとかぬかしておった。お前のような小さな子供を囮にして、宿題をしようとしたのか? アテが外れての、逃げ口上であったか。とんでもないやつだ」
「僕、テンマの作ったHALでゴローを宙吊りにしたから、その穴埋めしないとならないんだ。それに僕、小さくて、みんなみたいに色々なことできないから、できることしないと仲間はずれにされちゃう」
と言って、シュンはうつむいた。
「チョコレートのタコになって、自分の手足を食いながら海の底でのんびり暮らすとか、吸血鬼になって骨董品店を開くより、もう少し現実的な夢を、お前は持っていないのか?」
シュンは、暫く考えてから言った。
「カルフはスパイ業もするんだよね。楽しい?」
「カッコイイと思ったのだ。アタシは自由意志を持った。それをセリカ様に知っていただきたかった。
だが、セリカ様に心配をかけるのは、心苦しいともわかった。スパイをしているときの興奮が、吹き飛んでしまうほど後ろめたいのだ」
「自由だということは、逆に沢山の責任を自分で背負うことになるんだよね」
「シュン!! お前は、なんと奥深いのだろうか?大抵の人間は、大人も子供も、自由を無責任の言い訳にしているというのに、お前のように小さな者がそこまで考えるとは関心なことだ」
シュンは、恥ずかしそうに微笑んだ。
「スパイって、カッコイイと僕も思う。カルフは、僕が忍者のように素早いとも言ったね。ね、キャラバン隊長さんに取り次いでよ。僕も小さいから、どこにいても目立たないよ」
「ふ~む。ライリは、アンダーカバー エージェントになれる人材が欲しいと言っておった」
「アンダーカバーって何?」
「身分を隠して敵地に侵入し、そこで情報を集めたり破壊工作を行う仕事のことを言うのだ」
「カッコイイ!」
シュンは勢いよく顔を上げた。
「だが、危険もかなりある。確固たる信念を持ってないと、逆に寝返って二重スパイになる可能性もある」
「二重スパイ?それもカッコイイかも」
「そういうものは普通、裏切り者というのじゃ」
「裏切り者はカッコよくないよね。大抵、バカにされた挙げ句、殺されちゃう」
シュンは、うつむいた。
「全てに白黒つけて考えるな。灰色というものもあるのだ。カッコイイ、カッコよくないの他に、なんでもないものもあるのだ」
「僕、すでになんでもないものだよ」
ポツリと、シュンは言った。
「シュン、お前は悲観的世界にスッポリ、ハマっておるな。なんでもないものは、何にでももなれる可能性を秘めていると思え」
そうか、とシュン。
「敵地に侵入すると言っても、なにか特技がないと難しいよね。僕、考えてみる」
そう言ってスックリ立ち上がったシュンを、また一歩、大人に近づいたと思い、満足げに見つめるカルフであった。




