HAL
前書き
ときにコメディ、ときにブラックコメディそして風刺、お笑いバカ話などのごちゃ混ぜの、一話読み切りの短編連載集です。
元となった「カルフ」のシリアスなストーリーと、登場人物や彼らの関係は似ていますが、内容的には関係はありません。
「Daisy, Daisy,,,」
とカルフが、鼻歌を歌っている。
セリカは、カルフが見ている先に目をやった。
大きな機械が見えた。そのそばにいるのは、テンマである。
「あの機械は、テンマが作っていたヨロイ?」とセリカ。「HALっていうんだっけ?」
「セリカ姫は物覚えが良いのう。装着型ロボット、Hybrid Assistive Limb の略だということも覚えておられるか?」
流石にそれは、セリカも覚えていなかった。
「装着型?、、、もしかして中にいるのはシュン?」
「いやはや、興味深い。テンマは天才かもしれない。ちゃんと動くのだ。先程は、ラジオ体操をしていた」
「すごい!」
「There is a flower within my heart、、、」
と、またカルフは歌を歌う。
「その歌は何?」
「最初の人工頭脳が歌った歌で、HALX000(伏せ字)が最期に歌った歌でもある」
「HALX000 ?なんで伏せ字なの?」
「伏せ字を使うのは、禁句や人に不快感を与える言葉を活字にしないためである。HALX000(伏せ字)の場合は、本に出てくる固有名詞であり著作権の保護のためだ。知る人ぞ知る、知らぬ人は知らなくても良い程度の知識であることから伏せ字を使っておるのじゃ。
ところで歌の方は著作権切れだから使っても構わないのだが、この程度の使用でも引用は引用であろうか?念の為に、作者はHarry Dacre、歌のタイトルはDaisy Bellである」
「なんで、そんな歌を歌うの?」
「HALX000の最期は悲惨であった。機械は人間にとって危険となることもあるのだ。嫌な予感がする。注釈だが、HALX000のHALはHeuristically Programmed Algorithmic Computerの略で、Hybrid
Assistive Limbとは違うのだ、つまり二つのHALの紐付けは文字による単なる連想である」
「HALはHeuristicALlyの略?それともHeuristically Programmed ALgorithmic Computer?」
「わからん」
「ともかく、なんか今回は、横文字が多いし、注釈も多いね」とセリカ。
「注釈を省略すると、単に知らないと思われることもある。できるだけ注釈をつけることにした」
「でも注釈ばかりつけると、話が先に進まないよ。知らないと考えるヒトは、そう思ってもいいくらいに考えたら?」
「カルフにも誇りが、、、」
カルフは顔をしかめた。
カメムシ型擬似生命体に顔の表現があるかどうかは、この際、無視するべき言葉の綾である。
「誇りが高すぎるのはモンダイだよ。誇りのために切腹、領地をお上に取り上げられてお取り潰しになった藩がある。その藩に仕えていた武士たちは浪人となり、家族は散り散りバラバラ。浪人たちは復讐のために命を捨てる羽目になった、という昔話があるよ」
「カルフもその話は知っておる。皆が知っている話だから、これに注釈を付ける必要はないだろう」
「皆、無駄死にしたんだ」
「彼らの行為は無駄とは言えぬ。人は必ず死ぬが、彼らは後々の世代に語り継がれる英雄となったのじゃ。強きをくじき弱きを助ける。正義は勝つ、いや、正義に勝って欲しいという、庶民の心情を掴んだのだ」
「強い人が全て悪者というわけではないよ。負けたほうが善人というわけでもないでしょう?」
「一つの話にも、登場人物の数だけ違う解釈の仕方があるのだ。それどころか解釈は、その話を聞いた人々の数ほどあると言ってもいい。
その話を脚色して広め、人々の心を掴んだのは作者の力。ペンは剣より強し。そしてその時代の抑圧された人々の心が選んだ英雄を、今の基準で考えることは賢いことではない。時代のサイキはその時代に生きたものでなければわからん」
「今の正義は、未来には正義ではなくなるの?」
セリカは、不安げにカルフを見た。
「その可能性は無視できん」
その時、ゴローの悲鳴が聞こえて、白狐隊の皆がカルフたちの方へ走ってきた。
「シュンのHALがゴローを掴んで持ち上げた!」
僕たちも踏み潰されるかと思った、と皆、恐怖に真っ青だ。
ただし、テンマは、笑いをかみ殺しているような奇妙な顔をしていた。そのテンマに、セリカは、
「まさか、シュン、ゴローを頭から食べようっていうんじゃないよね?」と、聞く。
「頭蓋骨は硬いから、それはないだろう」
と理屈っぽいテンマは答えた。
「カルフ、なんとかしてよ!」
セリカは、カルフに言った。テンマには、HALを止めることはできないのではないかと思ったのだ。
「この小さいカルフに、何をしろと言うのじゃ?」
「カルフには、屁という武器があるじゃない!」
「やれやれ。姫様のお頼みとあれば、聞かないわけにはいかないのである」
カルフはそう言って、HALの方へ飛んでいった。
暫くしてカルフは戻ってきたが、HALは相変わらずゴローを宙吊りにしたまま歩いていく。
「シュンは気絶してしまった。HALは勝手に動いておるのだ」
とカルフ言ってテンマを睨みつけた。
「Kill switchをつけなかったのか?」
「切るスイッチってなんだ?」
「ボタン一つで、すべての機能を停止することのできるスイッチだ。つまりは安全装置。強力な機械類には必ずつけるべきものだ」
ふ~ん、知らなかったとテンマ。
「バカと天才は紙一重とは、よく言ったものだ。エネルギーが切れるまで放って置くしかない。ゴローにはいい薬であろう」
夕日の中に消えていくHALの姿を、皆はそれぞれの思いで見送るのであった。




