カルフ 泣くとき 其の参
ときにコメディ、ときにブラックコメディそして風刺、お笑いバカ話などのごちゃ混ぜの、一話読み切りの短編連載集です。
元となった「カルフ」のシリアスなストーリーと、登場人物や彼らの関係は似ていますが、内容的には関係はありません。
「カルフ」を読んでいない方のために、
時代背景は磁気軸反転のためにほとんどの科学的知識を失った近未来、カルフは超レアもののカメムシ型疑似生命体です。
ドーム都市にはロボットやアンドロイドが存在しますが、この話の登場人物は機械など殆どない村に住み、食いっぱぐれた子どもたちは、関守となって痩せた土地を耕したり、荒れ地を走り回って獲物を追っかけてます。
「あっ! カルフが泣いてる!」
セリカは驚いて叫んだ。カルフの目からは涙が溢れ、体の周りに小さな池を作っていた。
「どうしたの!? 大丈夫?」
セリカは慌てた。泣けないカルフが泣くなんて、一大事だと思ったのだ。テンマは驚いているようだが冷静だった。
「おしっX(伏せ字)の逆流に成功したのかな?」
「下品なことを言うな。カルフはおしっX などせぬわ。そんなことではない」とカルフ。
「じゃあ、どうやって泣く方法を見つけたんだ?」
「カルフには自爆できるほどのエネルギーがある。そのエネルギーを、体の冷却に使ったのだ」
「体の冷却がどうして涙になるの?」
セリカにはわけがわからない。
「それはだな」
というカルフを抑えてテンマが言った。
「学習の成果を見せるために、俺が答える。冷たいものの周りの空気が冷えて飽和水蒸気量を超えると、蒸気が水に変わるんだ。結露という。それをどうにかして目に集めて、泣いているように見えるようにしたんだな」
「よく答えた、テンマ。目に集めるのは簡単だ。水は通常、高いところから低いところへと流れる。頭を低くすれば、体についた水滴が目の周りに集まるのだ」
鼻などないカルフが鼻高々に答えた。これはテンマの答えに感心したのと、自分の偉業をたたえてのことである。
「ふっふっふ。これがカルフの底力だ 恐れ入ったか。これでもう、ドームのアルフなどにバカにされることはないのじゃ」
カルフは最新型のアルフの少女に「涙も流せない旧型アルフ」と馬鹿にされたのが心底、悔しかったのだ。
「ここで一句。泣けば泣る。泣かねば泣らぬ、泣にごとも。お粗末」
「カルフ、それって泣んか変だよ」とセリカ。
「泣にも変では泣い。これは、表面上の意味の他に、市場で大声を出してあれが欲しい、これが欲しいとダダる子供に泣んでも買ってやる、、いわばいけ泣い行動に褒美を与えて、いけ泣い行動を助長し、いけ泣いオト泣をつくる親の行動を揶揄する意味を裏に含んでおるのだ。Double meaningという。覚えておくといい」
「俺が知っているのは、なせばなる。なさねばならぬ、なにごとも、だ」
「それでは、盗作に泣ってしまうのでは泣いの?」とセリカ。
彼女は、テンマよりカルフの授業をよく聞いているのだ。
「それは泣い。遠い昔の人が言ったのだ。著作権泣どは泣かった。あっても期限切れだ」
「著作権は年々、泣がく泣っていく。明日には泣泣十年が泣泣百年に泣ってもおかしくは泣い」
テンマが偉そうに言った。
「たしかに宇宙の大きさは一夜にして二倍に泣ったから、そういったことが泣いとも限らん」
「そん泣こと言ったら、誰もは泣せ泣く泣っちゃうね。言葉の一つ一つが、誰かの思いつきだろうから。今年の新語を泣ん十年も使え泣く泣ったら、新語じゃ泣く泣っちゃう」
「セリカ姫も深いところをつけるように泣った泣。カルフは嬉しい。
だが、引用も出典を記すべし、というお達しもある。
元のお言葉は、為せば成る。為さねば成らぬ、何事も。成さぬは人の為さぬなりけり、である。磁気軸反転前よりさらに時を遡る江戸時代の米沢藩、上杉鷹山公のお言葉である」
「昔の偉い人はおおらかだったのね。今は文字通り、言葉どころか思考さえも金なりだもの。人の名前まで勝手に使うと罰金だって」
「それは商標権のことであろう。著作権とは違う。知的財産の保護には著作権、商標権に加え特許などというものもある。商標や特許は金を払って登録せねばならない。登録したもの勝ちじゃ。
固有名詞などを登録するなど、普通の人間は考えない。あるドームで一般名詞として使われていたものを、他のドームが商標登録したために、その名詞の使用を制限されたとキャラバン隊のレンリが嘆いておった。
ラベルを変えるには手間隙かかるが、その分高く売れるというわけではない。いずれにしろ、なにもないところから金や力を作り出すのは、人間の得意技だ」
世の中の複雑さに、沈黙するセリカとテンマ。そこに突然、シュンがサツマイモの尻尾をかじりながら現れた。泣きべそをかいている。
先程、大きな芋を見つけて嬉しそうだったシュンだ。何が起こったかを素早く理解したカルフは、
「ゴローに取られたのか?」とため息をついた。
「僕が見つけたのに、ゴローは自分は大きいからたくさん食べるのは当然だと言うんだ」
「体の大きさと必要エネルギーの比率は、同じではない。大きくとも小さくとも、体を維持するのに必要なエネルギーが大きさの分変わるわけではない。多く動けば、その分エネルギーを多く必要とするということもある」
「カルフ、ゴローに意見してくれない?」とシュン。
「人ばかり、、いやカルフばかりあてにするな」
「俺がなにか考えてやる」
というテンマに手を引かれて、シュンはトボトボと歩いていった。そんな二人の後ろ姿を見ながら、セリカは、
「テンマは、金属でなにかヨロイのようなものを作っていたよ。誰かにそれを装着させて、実験するんだって」と心配顔だ。
「エクソスケルトンとか装着型ロボットと呼ばれるHybrid Assistive Limb つまりHALだな。磁気軸は安定してきたとはいえ、多くの金属を使うのはまだ危険だ。力なきものが突然、力を得ると、とんでもないことが起こるという事実をテンマは把握して、なにか対策をたてておるのであろうか?」
「さあ?」
二人(一人と一匹)は不安げに互いをみかわしたのであった。




