放課後の広場
ときにコメディ、ときにブラックコメディそして風刺、お笑いバカ話などのごちゃ混ぜの、一話読み切りの連載短編集です。
元となった「カルフ」のシリアスなストーリーと、登場人物や彼らの関係は似ていますが、内容的には関係はありません。
「カルフ」を読んでいない方のために、
時代背景は磁気軸反転のためにほとんどの科学的知識を失った近未来、カルフは超レアもののカメムシ型疑似生命体です。
ドーム都市にはロボットやアンドロイドが存在しますが、この話の登場人物は機械など殆どない村に住み、食いっぱぐれた子どもたちは、関守となって痩せたは土地を耕したり、荒れ地を走り回って獲物を追っかけてます。
「なぜシュンはウX コ(伏せ字)などを描いていたのであろうか?」
寺子屋授業の終わった広場。シュンの座っていた丸太のそばの地面を見ながら、カルフは不思議そうに言った。
「それはウXコじゃないと思うよ。サツマイモだ」とテンマ。
「カリントウ!エクレアかもしれない」
甘い物好きのセリカが口を挟んだ。
「いずれにしても食べ物だということだな。夕食はまだ先なのに、もう腹減らしておるのか?」
「朝も昼もおかゆとらっきょう漬けだけだった。お腹空いても無理ないよ」 とセリカ。そういうセリカもお腹が空きっぱなしだ。
長雨で、保存食を貯蔵していたほら穴が湿っぽくなって、干し魚や干し肉にカビが生えた。沼も泥沼化してザリガニ取りにもいけない。タマゴなどのタンパク質のおかずは、夕食だけの贅沢となっていた。
「シュンがチョコレートのタコになりたいと言っていたね。その気持ちがよく分かるよ」
「タコは奇妙な生き物だ。普通、口のそばに目鼻があり、食べ物のカスを出す排泄口はそれらから離れたところにある。これは目鼻で食べ物を確認してから食べ、消化して不必要なものを排出する、という動物性生命体の生体デザインの必要性からくるものだ。目鼻が脳のそばにあるのも、デザインの便宜上のことだ。
だが、タコはまず胴があり、その次に頭があり、そして手足の真ん中に口がある。そして目の反対側に排泄口があるのだ」
「目が肛門の近くににあるのは、さすがに嫌なんだね」
セリカは、想像するだけで食欲がなくなった。
「タコは犬ほどの脳細胞があるというが、脊椎動物と違って脳細胞は体のあちこちにあり、心臓も一つではない。信じられないような隙間を出入りする水のような生き物なのに、形がちゃんとあるのだ。そんなこんなでタコは神秘的な生物とされ、予言能力などの超能力もあるというのだ」
「超能力!カッコいい!」
「超能力といえば、今、ドーム都市では脳を直接ネットにつなぎ、機械を動かしたりアルフと交信する実験をしている。いってみれば心で機械を動かすのだ。これはテレパシーやテレキネシスに近い」
「テレパシー?テレキネシス?」
「超能力の一種である心話や念動力。心で話したりモノを動かす力だ」
「すっげ~」とテンマ。
「心でものを動かせるなら、手足なんていらないね」
「テレパシーで会話できれば口もいらない」
「でも、ご飯食べられなくなっちゃうよ」
食べる楽しみがなくなる、とセリカは思うのだ。
「肺がなくても虫は呼吸できる。それと同じように口がなくても栄養を取り入れることは可能である」
「え?どうやって?」
「水に住むスポンジは体全体から水ごと栄養素を取り込み、同じように、余分なものを排出する」
「スポンジって生き物だったのか?」テンマは驚いた。
「今あるスポンジの多くは人造物だが、アイデアの元となったスポンジ、つまり海綿は生き物である」
「じゃあ、超能力で全てができるようになるドーム都市の人間は、海綿型になっちゃうの?」
「ドーム都市ではファンシーな食生活を好む人間も増えた。
動物を食べては可哀想だとベジタリアンも増え、植物を死なせるのも可哀想だと葉っぱ以外は食べない人間もいる。植物性食品は繊維が多い。繊維質ばかり食べていれば、いずれ腸は長くなりそれを収める必要性から胴も長くなる。草食性動物を見てみろ。どれも胴が長い。牛などは四つも胃がある。そして消化の過程で大量のガスを出す。牛や豚が環境に悪いガスを発生させるから肉を食べないベジタリアンになる、というのは無意味だ。牛の代わりに人間がガスを発生させるだけだ。
機械やアルフに仕事をさせて、自分は動かないから手足は退化し、植物を食べるのは、狩りをするのと違って脳が発達する必要はない。必要がない上に低カロリー食では脳が退化するに決まっておる。海綿とは言わなくとも、ドームの人間の未来は胴長短足で頭も退化するイモムシ型である」
「つまり逆に言えば、自分たちの未来の姿を知っいるドームの連中が、脳を直接ネットにつなげる必要に迫られているとも気付いたということだ」
「テンマ、お前はなかなか鋭いな。卵が先か鶏が先か卵が先か、本末転倒、人間の思考は矛盾の連続である」
「でも人類はネットを通じて一つになれるんじゃないか?人類の知恵を結集して、全ての矛盾は解決される。世界の絶対者!そうなればヒトは神だ!超クール!」とテンマ。
「神様ってイモムシ型のスポンジってこと?」
神様がイモムシでは威厳がない、とセリカには思えた。
「その神は、さぞや自分の中の矛盾にもがき苦しむことであろう。知恵が集結するということは、矛盾も集結して倍増されるのじゃ」
「そんな事あるもんか!」
「唯一無二で知恵があるからと言って、それが神だというお前の思考に問題があるのだ。世界の絶対者を神という考えに反対する訳では無いが、絶対者が万能と言う保証はない」
「じゃあ、神様って何?どこにもいないの?」
「昔、ソラXス(伏せ字)という水に覆われた惑星があった。その水は実は水ではなく、惑星全てを包む一つの生命体なのであった。唯一無二の絶対者。その水のようなものを、その惑星の神だということはできるかもしれない」
「水の惑星の神様のほうが、スポンジの神様よりステキよね」
「セリカ姫は随分スポンジにこだわっておるな」
「私には、スポンジが生物だということが信じられないの」
「生き物である、という定義は曖昧である。繁殖、つまり子孫を増やせるということを生命体の定義の一つとすることもある。そこから考えるとスポンジは生物なのだ。だが、そうすると他の生物の細胞なしに増殖できないウィルスは、生命体ではない、ただのタンパク質ということになる。
逆に、ウィルスが生物であるという立場からいうなら、鉱物や水でさえ条件によっては結晶を作って増える。つまり水も生命だということじゃ」
「タンパク質でできていることが生命体の条件なんじゃないのか?」
「炭素化合物でできているということが生命体の条件の一つと考えるものもおるが、それとて人間の狭い知識が作った定義でしかない。人間の体の半分以上が水分である。石人間の伝説もあるし、ガス人間も鉱物人間も存在してもおかしくないではないか?
お前らが知っていると思うことが正しいとは言えないのだ、と覚えておくと良い。勉強をして知れば知るほど知らないことがわかる、というのは矛盾と言えるのかもしれん」
「じゃあ、なんで勉強するの?」
「言ったばかりだろうが。知らないということを知るためである」
「何も知らなければ、知らないことくらいわかるよ」とテンマ。
「否。知識のないものは、ものを知らないことさえわからぬのじゃ。生半可な知識のあるものは特に、自分は絶対に正しいと思っておる。科学的根拠がある、などという言葉に惑わされてはならぬ。科学者といえども人、人は自分に都合の良いものを発見するものなのだ」
「科学的根拠というのは、数々の実験を繰り返して得られる事実のはずだ」とテンマ。
「魚心に水心、と言うのじゃ。人は見たいものを見る。見たいものが見たいと願う者の前に姿を表す。学者は自分に都合の良い証拠を見つけ、そぐわぬものをただの例外と屁理屈でごまかすものなのじゃ。
結果、絶対真理は闇に葬り去られ、科学的根拠などという言葉も形骸化する。現実は真実ではなく、真実は個人によって違うものなのだ」
「見たいものが見えるのなら、俺が皆の欲しがる機械を作りたいと思っているのにその設計図が俺の前に現れないのはどういうわけだ?」
「それは、お前には他人の欲しがっているものがわからないからだ。いや、他人が欲しがるものを作る必要はない。誰もが欲しがっている、と他人に思わせることが必要なのだ。人の心を掴むインフルエンサーになれば、お前がどんな機械を作ろうと、それは売れるのじゃ」
「流行の仕掛け人か」
「どうすればいいの?具体的に教えてよ」とセリカ。
「幸か不幸かこの磁気軸反転後の世界にはソーシャルメディアはない。この世界でセリカ様の作るお菓子を売るとして、、、。まず、ターゲットを絞る。ドーム都市に住む裕福層だ。なんの不自由もないドームの人間にアピールする謳い文句を考えてみるに、、、。
富土山の清水と大地がはぐくんだ植物を、さらに厳選して作られた健康に良い美味しいサプリメント!程よい甘さと酸味が腸内フローラを活性化させ、毎朝快調、お肌イキイキ、髪ツヤツヤ!若返りの秘薬をついに発見!美と健康のためのぷるるんデザート!新登場!という宣伝から始めると良い」
「それから?」
「ドームのマーケットに行き、軽快な音楽とリズムに乗ったダンスで人をおびき寄せ、無料でお菓子、、いやサプリメントを配る」
「無料!?」
「続けて第二弾は、一時間で完売!次回は予約のみ!と大々的に宣伝する」
「そんなの売ってもないのに、なんで完売なのさ?」
「宣伝とはそういうものだ。事実である必要はない」
「そんなのインチキだ!」
「それはテンマのインチキと言う言葉の概念による。お前らは、目隠しをして象に触れた者たちの話を知っておるか?
胴に触った者はザラザラの壁のようだといい、尻尾に触ったものは紐のようだと言った。それらはそれぞれに事実ではあるが、象の全体像ではない。事実は客観的、真実は主観的というが、事実の一部は、真実と同様、主観的なものである、という逸話である。
だから勉強するのである。真実と嘘でできたこの世界を有利に渡り歩くためには、その違いを知らなければならないのだ。世の中の流行に惑わされるな!流行を作れ!!」
「私、チョコレートのタコになりたい」とセリカ。テンマも、
「俺は水型の神様で満足だ」とげんなりした様子で言った。
子供たちは、世の中の深みの崖に沿って歩いているような気がしてきたのだ。勉強などして賢くならないほうが幸せなのではないか、と。
馬鹿だちょんだと人から蔑まれたくはないが、己の賢さ故に自分が何も知らないと気づきたくもなかった。
磁気軸反転後の世界を生きる、セリカとテンマの冒険を描いた「カルフ」も合わせてお読みください!
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