カルフ泣くとき
ときにコメディ、ときにブラックコメディそして風刺、お笑いバカ話などのごちゃ混ぜの、一話読み切りの短編連載です。
元となった「カルフ」のシリアスなストーリーと、登場人物や彼らの関係は似ていますが、内容的には関係はありません。
「カルフ」を読んでいない方のために一言。
時代背景は磁気軸反転のためにほとんどの科学的知識を失った近未来、カルフは超レアもののカメムシ型擬似生命体です。
ドーム都市にはロボットやアンドロイドが存在しますが、この話の登場人物は機械など殆どない村に住み、食いっぱぐれた子どもたちは、関守となって痩せた土地を耕したり、荒れ地を走り回って獲物を追っかけてます。
第一回は、カルフ泣くとき
カルフ泣くとき の巻
「どうしたの、カルフ?どこか痛いの?それとも、何か悩んでるの?」
うぅ~、うぅ~と丸太の上でカルフがうなっているので、セリカは心配になって聞いた。
「悩んでなどおらんわ。自爆できるくらいのエネルギーを持っておるのだ。涙くらい出ないものかと集中しているだけである。ドーム都市のアルフ ネオなどにバカにされたくないのだ」
「あんまりキバるとさぁ~」
おっ、、、
「アァァ!」
テンマは、思わず叫んだ。
「カルフ、臭い!」とセリカも思わず鼻をつまんだ。
「力を入れすぎた。反対側から漏れてしまったぞ、、。困ったことだ。うる うる うる」
「くせぇ~!何がウルウルだ!泣けばすむと言うもんじゃない!どうにかしろ!」
「どうしろというのだ?出ちゃったものは仕方ないではないか」
「いじめっ子とは言われたくはないけど、だれでも臭いと言いたくなるような臭さだよ」
「セリカ姫様。カルフを嫌わないでくだされ。うる うる うる」
その時、突然人が現れ、ガラス瓶をカルフにかぶせた。
「あ、出た」
「俺は幽霊じゃない。どうだ、これで臭くないぞ」
と自慢げにライリ。
「可哀想なこと、しないでよ、隊長さん。カメムシって自分の匂いで死んじゃうんだよ」
「アタシはカメムシじゃない!」
ガラス瓶の中からくぐもったカルフの声が聞こえる。
「生きてもないんだから、死なないんじゃないか?」
「疑似生命体だから、死ぬんかもしれんな。疑似死」
く、くさいよ~、、という悲しげなカルフの声に、セリカは思わずガラス瓶を持ち上げた。
「く、臭い!こんな匂いをかがされる、俺たちはかわいそうじゃないのかっ!?」とテンマ。
「お湯で洗おう。石鹸、使った方がいいかな?」これはライリだ。
「虫って石鹸水かけると死んじゃうよ」
「ネガティブなことばかり言うな、コイツは虫じゃない」
「ショートするかも」
「アタシは機械じゃないと何度も言っておるだろうが!」
カルフは結局、石鹸で洗うことに同意した。
「もう少し、熱めのお湯にしてくれぬか?」とカルフ。
落ちていたプラスチックの蓋にお湯を注ぎ、カルフを入れてやったのだ。セリカは小さな筆に石鹸をつけて洗ってやる。
何を威張ってんだ、とテンマはブツブツ言ったが、お湯を少し加えてやるとカルフは気持ちよさそうに{あるかないかわからないような}手足を伸ばした。
「いい湯じゃ、いい湯じゃ」
「カルフはちっちゃくていいね。私もまたお風呂で温まりたい」
美咲荘園で入ったお風呂が恋しい。白狐隊のアジトでは、お湯を大量に使う風呂などには入れない。いつも水風呂だった。
「小さいことには利点もあるのだよ」
「お前、スパイになる気はないか?」
ライリはこれが目的で来たようだ。
「しのびがぁ~とおぉ~、、」{著作権法に触れると困るので、あとは読者各自の想像で補って下さい}
気持ちよさそうにカルフは歌い始めた。
「コード名はヘクサ」
「ヘクサなどは嫌じゃ。姫様のお役に立てるのなら、くノ一などもクールであるかもしれぬ。美しいコード名をつけくれるなら、一考してもかまわぬ」
「条件はそれだけか?」
「きれいなおべべもおくれ。いつも緑色ではつまらぬ。鋭い歯も欲しい」
「カメムシは噛む。噛まれると回復には長くかかる」
とテンマはしかめ面で言った。
寝床に紛れ込んだカメムシに、何箇所も噛まれた経験がある。赤いポチポチができて、いつまでも痛痒かった。
「アタシは噛メムシではないのだ。しかしカメムシとは色々な防衛手段を持った、たくましい生き物であるな。感心、感心」
「スパイなんて危ないことはさせない!」
とセリカはライリを睨みつけた。
「カルフもそんなこと考えないでよ」
「姫様のお心遣いはありがたいが、カルフは自由意志を持ったのだ。クールだとは思わぬか、テンマ?」
「自由意志を持ったのはカルフ1だ。お前はカルフ2じゃないのか?」
「カルフ2ならなおさら!私が悲しむことはしないと言ったじゃないの?」
「細かいことは言わんでおくれ。重箱の隅をつつくような真似は、ディストピア ユーモアには無用である。元の話とは何の関係もない小話なのである」
「自分の都合で勝手なことを言うな!」
「それこそが自由意志である」
とカルフは平気だった。
「そんじゃ、まあ、スパイの件、考えておいてくれ」
仲間内の争いに関わりたくないのか、そう言ってライリは去って行った。