愛の女神は婚約破棄された公爵令嬢をいただきます
「スカーレット! 俺は貴様との婚約を破棄する!」
金髪碧眼のフレデリック王太子が私に向かって婚約破棄を叩きつけた。
彼にはピンクの髪色の小柄な女がすがりついている。
絵に描いたような婚約破棄だった。
「俺とここにいるマリィ男爵令嬢は真実の愛で結ばれている! それなのにお前はマリィに陰湿な嫌がらせばかりしていたな! そんな女は国母にはふさわしくない!」
私はコナリー王国の公爵令嬢のスカーレット・ブランシェです。
子供の頃からフレデリック王太子殿下の婚約者だったのですが、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄されているところです。
(こんなことが国王陛下やお父様に知られたら叱られてしまうわ……)
私は青い顔をしてフレデリック王太子殿下の言葉を聞いていました。
その後は、フレデリック殿下の取り巻きである宰相の息子や騎士団長の息子たちが現れて、私の罪状を告発していきました。
マリィ男爵令嬢の教科書を破ったとかドレスにワインをかけたとか階段から突き落としたとか……。
覚えのない濡れ衣ばかりでしたが、どこかで聞いたような断罪の言葉を虚ろになった頭で聞いていました。
「黙っているということは、言い逃れできないということだな! スカーレット、お前は公爵令嬢としての身分を剥奪して国外追放にする!」
「スカーレット様、罪を認めて謝罪すれば罰を軽くしてもらえますわ!」
フレデリック殿下が私に指を突きつけて国外追放を宣言した。
マリィ男爵令嬢はそんな殿下にすがりついて私のことを嘲るような笑みを浮かべている。
騎士団長の息子が私に近づいてきてグイッと腕を掴んできた。
「お前はもう公爵令嬢じゃない! 国外追放だ! 俺が自ら北の魔の森に捨てに行ってやるよ!」
私はあまりのことに何も言い返せずにいました。
「お待ちなさい……」
鈴の鳴るような美しい声で引き止めるものがいました。
人垣がわれて青銀色のドレスを着た美しい女性が私に歩み寄ってきました。
私はその姿に見覚えがありました。
ミーテル神殿の女神像にそっくりだったのです。
「まさか……ミーテルさま?」
私が呆然としてうわ言のようにつぶやくと美しい女性は微笑みました。
それだけで周囲の人達の緊張の糸がほぐれて行くのがわかりました。
「スカーレット嬢は女神ミーテルがもらっていきますわ。よろしいですわね?」
ミーテル様が微笑みながら言うと、みんなうっとりとした表情になります。
それもそうです。
ミーテル様は美と愛と癒しの女神として崇められているのですから。
パーティー会場にいる誰もがミーテル様に対して恋をしているような表情になりました。
でも、フレデリック殿下は言い募りました。
「ですがミーテル様、その女は心根の卑しい悪女です。女神様のそばに置くのにはふさわしくありません!」
「ふふふふ……何を言っているのですか。私は美しいのにそれを活かせず不幸な目にあっている美少女を放っておけないのです。なんと言おうともスカーレットはもらっていきますよ」
「はい、ミーテル様。私は女神様についていきます」
ミーテル様は優しく微笑むと指をパチンと鳴らした。
足元に魔法陣が浮かび上がって私とミーテル様を光で包む。
次の瞬間には空中に浮遊する感覚があって気がついたときには雲の上の天空界にいた。
「ここは私が地上を眺めながら休憩するために作った神域なのよ。ここにいればあなたを傷つけるものは誰もいないわ」
「ありがとうございます。ミーテル様」
ミーテル様に案内されて神域の中にあるミーテル神殿にたどり着いた。
侍女服を着た天使たちに取り囲まれて色々とお世話をされる。
お風呂に入れられてから全身を香油を塗ってマッサージされて、気持ちよくなってウトウトしていると扇情的なネグリジェを着せられてミーテル様のいる寝所へ連れて行かれた。
ミーテル様に手招きされてベッドに腰を下ろす。
ミーテル様も私と同じようなスケスケの扇情的なネグリジェを着ていた。
「あなた……本当に可愛いわね。まずは神酒で乾杯しましょう」
グラスに神酒が注がれて手渡される。
勧められるままにコクコクと飲み干した。
「神酒を飲むと身体の中の悪いものが消えていくのよ」
私の身体から黒い靄のようなものがにじみ出てミーテル様の神気に当てられて霧散した。
頭の中が白く瞬いてふわふわして良い気分になった。
それからはミーテル様に口づけられてベッドに押し倒されると、体の芯から蕩けていくような甘美な時間を過ごした。
「スカーレット、あなたは女神の愛子になったのだからずっとここにいなさいね」
「はい、ミーテル様……」
私とミーテル様は天使の侍女たちに世話をされながら甘美な時間を過ごしていきました。
それからどれほど時間が流れたのかわからないままでしたが、ミーテル様に促されて地上の様子を覗いてみました。
コナリー王国は北の軍事大国のブルータス帝国に滅ぼされて、フレデリック王太子は身分を剥奪されて鉱山奴隷として強制労働させられていました。
マリィ男爵令嬢はその鉱山で労働者の慰め物になる性奴隷として鎖に繋がれているようでした。
「女神の加護が消えたらあっけなく滅びてしまうものなのね……」
私はミーテル様の寵愛を失わないようにしようと決心するのでした。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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