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この復讐は、正義だ  作者: 安達ちなお
4章 戦士への復讐

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六郎、高久に白状する

「……これにより御田平八郎が佐津間隼人の脇差にて刃傷を行った点について疑い無く、またその後の家探しにより黒手組を示す証である黒い手形付きの書状が見つかりました。黒手組の意思によって辻斬りが行われたことに間違いはございません。加えて、召し取った御田家の奉公人に二人の黒手組がおりました。今頃、町奉行がきつく問い詰めているところでしょう」


 桐生六郎が「以上が御田家での顛末にございます」と結ぶと、高久は幾度か小さく頷いた。


「六郎がその目で確かめたのならば、間違いはなかろう。辻斬り般若面の成敗に成功し、黒手組の根は断てずともその枝葉は落とせたということか。まず上出来と言える」


 聡明な君主の愚かな発言に、六郎は軽蔑の心が芽生えた。なのでそれをそのまま口にした。


「高久様、今のご発言は馬鹿を晒すようなものです。お控えいただいた方がよろしいでしょう」

「そうか、気を付けよう。して、その心は?」


 津間城の中奥にあるこの部屋には、六郎と高久しかいない。家臣からの侮りを気にする必要のない高久は、素直に質問する。これだから、このお方は良いのだ。六郎の口の悪さも直截さも、すべて受け入れて貪欲に善政を求める。このよき為政者を目指す怪物のような君主を、六郎は心から有難く思っている。これほど利用しがいのある人間はいない。

 だから惜しげもなく講釈を垂れる。


「黒手組の枝葉を落としたというのは、そのとおりです。ですが根を断つという発想はお捨てなさい。奴らに根などございません」

「根の無い組織などあるのか」


「結局のところ黒手組というものは、佐津間家に石を投げることでなにがしかの利益を得る者たちが、緩く曖昧に連帯しているに過ぎないのです。たった一人の悪しき黒幕を見つけて倒せば世に平和が訪れるのは、おとぎ話の中だけです」

「そんなことは分かっている」


「ならばご自覚なさいませ。高久様の戦いは永遠に終わることはありません。黒手組がこの世から消滅したとて、為政者を操ろうという者や不実な行いで私腹を肥やそうとする者は絶えません。死ぬまで戦い続けなさい」


 六郎が冷たく言い放つと、高久はわざとらしく唇を尖らせる。


「無理を言うな。人は老いるし心も頭も弱くなる。死より遥か手前で戦えなくなる。だから私は子細で体系的な掟を定め、それをもとに動く国にしようと考えている。亡き父や祖父であれば死んでも戦い抜きそうだが、この高久は弱虫なのだ。一人で国を治め支えるなど出来るわけがない」


 高久は爽やかに笑う。

 その姿に、六郎は堪らない愉悦を覚える。何という美味な果実だ。駒としてこれ以上の物はない。永遠に傀儡としていてもらいたいものだ。


「素晴らしき目標でございます。先代と先々代は、高久様とは違い愚物でございました。義理と人情で政を行う大馬鹿者です。なまじ剣の腕が立つだけに、それが通用してしまう。悪しき人治主義の極みでございます。彼らこそ、法に縛られるべきでした」


 父祖への雑言も、冷静に聞き入っている。六郎の言葉に善政の手掛かりが潜んでいるなら、残らずくみ取ってやろうという渇きにも似た願望が燃えているのだ。


「高久様は、公正で優れた判断力をお持ちでいらっしゃいます。あなたのような方が、形骸化した決まり事などに縛られず、先代のように専横を振るうことが出来れば、佐津間藩王国はさらに住みよい地になったでしょう。しかしそんなあなたが剣の腕には優れず、法を整備し政を行おうとしているのだから、世は矛盾と二律背反に満ちておりますねえ」

「仕方あるまい。今、手元にある材料だけで戦うしかあるまい。剣腕は子か孫に任せる」


「ならば早くご結婚なさいませ」

「いいのか?」

「この六郎の目に適う女人ならば」


 六郎がすっと細く目を開くと、高久はあきらめるように肩をすくめた。


「無理だな」


 今までも八衛門などが相手を見繕ってくることはあったが、軒並み六郎に追い返されている。家格や身分などは申し分ない。だが為人や資質を吟味されると、六郎の眼鏡に適う者がいないのだ。藩王の配偶者たるもの、高潔にして公明正大、慈しみの心を持ちいざとなれば迷わず決断をする。そういう人でなければならぬ。


 歴代の桐生家の当主は、虚偽を見抜く霊験をあらたかな“真眼”を持つ。他国ではスキルと呼ばれる技能だが、努力で獲得したのではなく、生まれながらの性質として身に着けている稀有な家系だ。

 その六郎が、良き政に資するか否かという基準で冷徹に審査するのだ。まず婚姻にまでこぎつけることが出来ない。


 ふてくされたように腕を組んだ高久だが、何かを思いついたのか、いたずら小僧のように悪い笑みを浮かべた。


「六郎は、良い相手はいないのか? この高久を待っているとは言わせないぞ?」

「先日、いなくなりました」

「……いたのか? 聞いてないぞ」

「ええ、お話しておりませんでしたので」


 六郎のつれない素振りに、高久は不機嫌そうに鼻を鳴らす。


「いなくなったとはどういうことだ」

「一人目です」

「……そうか」

「ですので、しばらくは祝言など考えられません。高久様、ぜひお先にどうぞ」


 六郎が無味乾燥に笑った。


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