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この復讐は、正義だ  作者: 安達ちなお
3章 狩人への復讐

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戦いの前 ―アイセン―

 アイセンの執務室には、いつものように悠々とした雰囲気が漂っていた。

 盟王アイセン・カアンの前である。決して弛緩しているわけではない。だが、毛織物の絨毯を贅沢に敷き詰めた床に車座となって話していると、不要な隔意は自然と解けて無くなっていく。


(やはりこれが良い。皆が落ち着ける)


 内心で満足しながら、アイセンは悪い顔で口を開いた。


「さて、今のところ我々の悪事は成功しているようだな」


 アイセンの戯れに、対面に座るゼ・ノパスが太い腹を揺すって笑う。


「ええ、全くそのとおりで。大悪党アイセン・カアンの暗躍ここに極まれりですな」

「暗躍というが、別に隠していない。気付かぬ帝国が間抜けなんだ」


 アイセンがこともなげに言うと、今度はゼ・ノパスの右に座るサーキが、清涼な笑顔で応じる。


「はい。実際に交渉した帝国の文官も、東方五氏族同盟が復活して手間が省けたといった風でした」


 整った顔立ちに心配りの行き届いた性格の彼は、その表裏の無い振る舞いから、既にアイセンの信頼を得ていた。そして、もともと既に幼さの抜けた青年だったが、死闘を生き抜いた男として精悍さを増している。


「盟主がいなければ、東方平原の諸氏族と個別に交渉しなければなりませんので、それは確かに骨の折れる事でありますが……。同盟の維持が我々の独立の布石であるとは、判断していないようです。気付いていないのであれば論外ですが、仮に気付いていたとしてもそこに手を打たないとは、帝国といえども存外に抜けているのですね」


 アイセンらは、近い将来、帝国の従属からの脱出を構想している。それには、帝国がお仕着せる藩王という地位だけでは足りないのだ。藩王国が消滅し藩王という地位が失われたとき、東方平原に号令をかけることのできる者は誰か。それは東方五氏族同盟の盟主に他ならない。

 だからこそアイセンは、東方五氏族同盟の再結成を宣言し、あらためて盟主の地位を確認した。そのうえで、同盟主でありながら、帝国の設置する東方藩王国の藩王ともなったのだ。のちに藩王の地位を返上したとしても、盟主として権限を持ち続ける。

 そこまでを見据えての行動であった。


「気が付いたとしても、どうしようもないでしょうけどな。アイセン様が盟主としておらねば、東方平原はまとまらない。逆に言えば、アイセン様さえいれば、帝国などというものも、東方藩王国などという括りも不要だという事だ」


 ゼ・ノパスが大言を吐くが、サーキは浮かぬ顔でいる。


「……ゼ・ノパス様はそうおっしゃりますが、これからの道筋は険しいものです。近いうちに帝国から、政治顧問という名目で役人が送り込まれるでしょう。そのを受けつつも、将来の独立に支障をきたさぬ様な藩王国の運営が求められます」


 銀月帝国の属領統治は絶妙だ。例えばサツマ藩王国などは、精強な兵と豊富な食糧生産力を持っているが、軍人の定員設定や大規模工事の労役負担などを課すことで、巧みに生かさず殺さずの扱いをされている。その国庫は、破綻せぬように管理されつつも、常に火の車だという噂もある。


「帝国との交渉は、ゼ・ノパスに一任するつもりだ。腹芸は、腹黒に任せてしまえばいい。法の整備と制度の構築においては、ジュチ族が頼もしい。その点、サーキには期待している」


 サーキの家系は古典や儀礼に精通しているし、その出自であるジュチ族は内治に抜群の能力がある。今回のカ・エル討伐に手柄も有り、人柄に安心できるサーキを重く用いる算段でいた。

 ジュチ族長ラーナールーなどは、藩都ジンドゥでの権益や官職を欲していたようなので、いずれ正絹査官などをジュチ族から登用する事を約して領地へ返した。大軍を動かせば、兵の食事だけでも莫大な費用が掛かる。高位官職の約束を取り付けたうえに、早々の帰還を許されたラーナールーは、満足げに帰っていった。きっと今回の戦の費えを補填する算盤を弾いているのだろう。


 アイセンの眼前ではゼ・ノパスが「は、腹黒……」と少し悲しそうにつぶやいているが、それを無視して次にサンサを見た。ゼ・ノパスの左に座るサンサは、沈着とした様子で黙している。


「クスサスクには無理を言ったが、お前を貰えて本当に良かった。サンサがいるといないとでは、天と地ほども違う」


 実はクスサクスにも藩都ジンドゥに残る様に、それとなく頼んだのだが、やんわりと断られていた。功績の大きいクスサスクがいてはアイセン以外の派閥が出来ると危惧したようで、ジンドゥが落ち着いたと見るや、軍勢をまとめてフラグ族の領地に帰っていった。

 そこでアイセンは、クスサスクの去り際に、サンサを残して欲しいと無理を言ったのだ。


「もったいないお言葉で……。粉骨砕身、お仕え申し上げます」


 アイセンが手放しで褒めると、サンサは恐縮したように日に焼けた頬を赤らめ、頭を下げた。色の薄い髪の毛が上下する様を見て、アイセンは安堵する。

 ここにいる者達であれば、心を預けられる。

 最後にアイセンは、自分の隣を見た。


「クロカゲも、勇者ユユを相手に、上手に振る舞ってくれた。ありがとう」


 黒髪の少年は、照れたように笑った。


「アイセンさんの言うとおりにしただけですから」


 そこに座っていたのは、王太子クロカゲではない。盗賊の勇者として知られたクォン族のクロカゲだった。


「勇者ユユや皇帝ガイウスの眼をも欺くとは、盗賊の勇者の本領発揮だな」


 アイセンの称賛にクロカゲは照れたように頭をかく。


「いえ、前にもやったことがあったので知ってたんです。狩人の技と盗賊の技とを組み合わせれば、他の勇者にも気付かれないって」


 魔王討伐の旅の中で、狩人のスキルである“隠蔽”の力を借りることで、クロカゲの気配を完全に消し、“偽装”で他人になりきることもあった。あるいは、神官の強化バフを受けることもあった。勇者級の技を重ね合わせれば、ユユやガイウスの眼を以てしても見抜けず、魔王軍の幹部を奇襲する事にも成功したものだった。


「狩人の勇者の全てを奪った。今の僕は、勇者二人分の力があります」


 さらりと言うクロカゲを、ゼ・ノパスは胡乱うろんなものでも見るような目で睨んだ。


「魔王の不滅も……だろう?」

「さあ、どうだろうね」


 クロカゲの返答は、冷たく乾いたものだった。アイセンに向ける柔らかな雰囲気はない。

 それを見たアイセンは、苦笑するしかなかった。そして、クロカゲの言葉が嘘ではないことも知っていた。


 クロカゲは、自分が不滅という魔王職固有のスキルを宿していることを知らなかったらしい。狩人の勇者カ・エルから奪った神弓は、クロカゲ自身に弓術の素養があったから、直感的に使えると悟ったのだという。

 アイセンは、それが最大の要因だと考えている。古い文献を探せば、盗賊の勇者が他者のスキルを奪取したと思われる記録は出てくる。だが奪った技を使ったという記録や言い伝えは見つけられなかった。


 おそらく、盗賊の勇者自身に適性のようなものがなければ、奪取した技を使いこなすことは出来ないのだろう。今回は、たまたま槍だけでなく弓馬にも優れたクォン族のクロカゲであったから、神弓が使えることに気付けただけなのだ。

 事実、クロカゲは不滅の力で死から蘇ったにも関わらず、自分でもそれに気づいていなかった。不滅がどこまで効力を発するのか。クロカゲがどれほどに使いこなせるのか。未知の部分が大きい。


「クロカゲの命に関わることだ。無闇に試すことなど出来ない。当面は不滅をあてにせず、その身を大事にしてほしい」

「はい、ありがとうございます」


 アイセンがクロカゲを真っ直ぐに見て言うと、クロカゲは素直に頷き、微笑んだ。それを見たゼ・ノパスは、不機嫌そうに唸る。


「お前……他人は信じないんじゃなかったのか?」

「僕は他人を信じない。それは今でも変わらないよ。でもアイセンさんは他人じゃない。僕のために涙を流し、血を流してくれた。そして僕のことを信頼してくれた。僕は、アイセンさんだけは信じられる」


 クロカゲの瞳は、曇りない信頼に満ちている。


「アイセンさんは、僕を信頼してくれた。僕にとって、それはとても大きなものです。だからいつか、それ以上のものをお返したいです」


 アイセンは、嬉しさとむず痒さから、自然と口の端が持ち上がる。


「そう言ってくれるだけで嬉しく思う。だが、そう気負わないでくれ。信頼とは、そう……愛のようなものだ。見返りを求めて与えるものではない。私は、君から見返りが欲しくて信頼しているわけではないからな」


 するとクロカゲは、きょとんとした後に悪戯っぽく笑った。そして居住まいを正して背筋を伸ばした。


「信頼は愛……ですか。では僕は、貴女に愛を捧げます。何があろうとも変わることの無い、不滅の愛を」


 クロカゲの言葉に、アイセンは内心で眉をひそめた。


(まったくこの子は、こういう場でこういう冗談を言ってしまう。困ったものだ)


 案の定、ゼ・ノパスが憤りをあらわにクロカゲに食って掛かった。


「お前、まさかアイセン様に懸想しているわけじゃあるまいな?!」

「落ち着け、ゼ・ノパス。愛と信頼とかけた言葉遊びを始めたのは私だ。お前にもクロカゲの冗談が分かるだろう」


 余裕たっぷりに言ったつもりだった。だが、皆がアイセンを妙な目で見ている。巌のような表情でサンサが膝行してくると、耳元で囁いた。


「アイセン様、お顔が真っ赤です」

 言われてみれば、妙に顔が熱い。


「今日は暖かいからな。頬が上気したかな」

「いえ、耳たぶから首もとまで、紅をひいたように染まっています」

 言われてみれば、少しのぼせたような気配がある。


「少し空気を入れ替えるか。帝国風の建物は寒いからと、絨毯を使いすぎたかな」

 それでも知らぬ振りをしようとするアイセンに、サンサが懐紙を差し出してくる。


「鼻血も垂れております」

 言われてみれば、鼻に違和感がある。

 黙って懐紙を受けとると、鼻を拭う。そして余った懐紙をこよりにして鼻に詰めた。


「さあ、茶番はここまでにしよう。銀月帝国及び七勇者に対する復讐の算段に入る。これを成すには、お前たちの力が不可欠だ。皆の知恵と力を貸してくれ」


 例え鼻に詰め物をしていようとも、アイセン・カアンが号令をかければ場が締まる。


「俺の命の全てを、アイセン様と東方平原に捧げます」

 ゼ・ノパスが、武骨な拳で分厚い胸を叩く。


「この身の全ては、アイセン様のために」

 サンサが微動だにすることなく冷静に誓う。


「非才の身ですが、全身全霊でお仕え致します」

 サーキが背筋を伸ばして快活に応える。


 そして三人に遅れてクロカゲもおずおずと口を開いた。


「僕も……いや、僕は……ただ復讐するだけだ。あいつらは、許せない。絶対に許さない」

「うん、それで構わない」


 アイセンは爽やかに言った。


「銀月帝国と七勇者たちの行いは、東方平原に住む我々にとって許せるものではない。許してはならないとも思う。もはや共存できる限界を越えた凶行だ。奴らとしては、帝国と自身の安寧のために許される行為だと考えているのだろう。それならば、その理屈を我々が用いても、文句は言うまい」

「アイセン様のおっしゃるとおり。我らが生きるためには、帝国と七勇者を討たねばならん。クロカゲ、ここからはお前だけの戦いと思うなよ」


 ゼ・ノパスがアイセンに追従するように言うと、他の二人も黙って頷く。全てを背負ったアイセンは、きっぱりと言った。


「君の復讐を、私が正義としよう」

これで狩人への復讐は終わります。分かり易くするため、第三章のタイトルを「復讐」から「狩人への復讐」へ変えてみようと思います。第四章は、別の勇者へ復讐する話を考えています。


もしかするとその前に幕間として登場人物やスキルなどを整理して記載するかもです。ご質問をいただいたところなどをもう少し明確に書いておこうか、どうしようかと迷ってますので、説明なしで次章に入るかもしれないです。


ちなみに当初は、なろうテンプレ&チート&ハーレム&ハッピーエンドを謳っていたのですが、なろうテンプレではなさそうなので、そちらの看板は外しておきました。

チートは大丈夫ですよね???

奪取と神弓と不滅を持つクロカゲはチートだと思うんですけど、もしかするとまだ足らないですか?

ハーレムについては、ハーレム要員が既に四人登場しているし四章でも追加登場するので、看板に偽りない感じで行ければいいなと思ってます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] クロカゲ生き返りましたね。ひと段落っていう感じで安心して読めました。 そしてアイセンさんかわいいです。 [一言] クロカゲはチートだと思います! そもそも盗賊の勇者のスキルがチートだなって…
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