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この復讐は、正義だ  作者: 安達ちなお
幕間

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22/152

幸福なララ

「お父様がワインを送ってくださいました。殿下のお好きなロムレス王国産の白ワインです」

 ララがガラスの瓶を手に歩み寄ると、夫はニコリと微笑んだ。


「それはありがたい。お義父上にはお礼の手紙を書こう。そのためには、味を見ておく必要があるな」

「まだ、公務がありますでしょう?」

「うん、まだ仕事がある。だから1杯だけにしないとね」

 そういうと、手元にグラスを引き寄せる。


「もう……」

 困ったような声を出しながらも、ララはいそいそとワインを注ぐ。

 美しく透き通った液体を口に含んだカ・エルが、ゆっくりと味わう。


「美味い。残念だが、続きは夜……だな」

 そう言ってグラスを置いたカ・エルは、ララを抱きしめ口づける。そして、するりと手を離すと書類の束を手に、歩いて行ってしまった。


「……もうっ」

 火照った頬を覚ますように、ララは息を吐く。


 ララは、心底からカ・エルに惚れていた。愛していた。

 カ・エルとの縁組を聞いたとき、最初はたじろいだものだった。

 もちろん皇帝の次女として生まれたからには、自由な婚姻など無いと割り切っていた。けれど、魔王討伐の報奨として狩人の勇者に嫁ぐというのは、まるで自分が出来の良い家畜に与えられる上等の肉にでもなったかのような気がして、嫌悪を覚えた。


 その狩人の勇者が、反逆者を討ち東方平原を統べて弓王として即位したと聞いた時には、驚きもした。

長年、帝国の懸案事項であった東方平原が臣従したということにも驚いたが、狩人の勇者に藩王として即位させ、ララを使った婚姻政策を行うところまで計算していた皇帝ちちの手腕にも驚嘆した。

 その経緯から、政治的な入籍であると明白だった。愛も情も存在しないものと悲しく割り切っていた。また、狩人の勇者が恋多き男である子とも知っていた。多くの愛人を抱えているのは、周知の事実だった。


 だが初めて顔を合わせたときカ・エルは言った。

「俺は貴女を一人の女性として迎えたい。俺の愛のすべてを貴女に捧げたいのだ」

 それは嘘ではなかった。


 カ・エルは、何かと理由をつけて足しげくララのもとへ通った。花を贈り、食事を共にした。遊牧民風の乳酒や干し肉の料理をやめ、ワインと魚醤の豚肉料理を多くした。

 それ以外にも、ララのためを思ってか、多くの費用をかけて様々に変えていった。

 かつての盟主の邸宅は、質実剛健でレンガや土で造られた飾り付けのない天幕の宮殿だった。カ・エルは、これを豪華絢爛な大宮殿に作り替えた。東方平原の首都であった大都ジンドゥも、闘技場や演劇舞台を新築し、帝国風へと作り替えた。全てはララが故郷に近い雰囲気で安心して暮らせるように手を配ったのだという。


 もちろんそれだけではない。子を成すという目的を超えて、毎晩のようにララの寝室を訪れた。そのたびに甘い愛のささやきを聞いた。

 心身ともに求められているという実感は、ララにこの上ない幸福を与えた。この人とならば、一生を充実の内に添い遂げられる。そう確信できた。


 ララは知らない。

 今この時、カ・エルが他の女のところにいることを。

 身ごもっている不倫相手が「私なんかのところへ来る暇があるのなら、奥様のところへ行かなくてよろしいのですか? 天秤にかけるまでもなく、皇女様の方が大切でいらっしゃるのでしょう?」などと問いかけると、カ・エルは笑顔で言うのだ。

 「君と彼女を天秤にかけるようなこと、するわけがないさ。もし俺の心の天秤の片一方に君が乗るのであれば、もう一方には何も乗らない。君は俺にとってかけがえのない人だ、比べるものではないんだ」と他の女に愛を囁いている。


 控えめな性格のララは、目の前の相手と自分が幸せに過ごせるのならば、多くを求める事はしない。戦いと求めて剣を修めることも、権力を求めて政争に手を出すこともしない。

 平穏な幸せを愛している。


 ララは知らない。

 今の生活は、血と欺瞞の末にカ・エルがつかみ取ったものであることを。

 カ・エルの野心と実力が、時世に偶々かみ合った末の、現在に過ぎない。多くの無理を重ねた結果、カ・エルは味方からは尊敬され崇拝すらされている。だが敵対した者達からは、恐れられもしているし、憎まれもしている。火種は今もくすぶる続けている。


 何も知らないララは、カ・エルのことを想って優しく微笑んでいた。

「お父様にお願いしてよかった。あの人があんなに喜んでくれるなんて」

 ララは幸せな気持ちのまま、「今夜は頑張って手料理でも挑戦してみようかしら」と楽しそうに呟き微笑んでいた。

次の話から復讐が始まります。

お待たせしました、やっとです。


それと、章立てを少し直しました。

分かりやすくなっていればいいなと思います。

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