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この復讐は、正義だ  作者: 安達ちなお
プロローグ
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魔王討伐2/3

「さあ勇者諸君、すぐに出番が来るぞ」


 ガイウスの言葉に、クロカゲの心臓が早鐘のように鼓動を打つ。落ち着こうと、右手首の腕輪に指を伸ばした。細かな彫刻が施された銀の腕輪は、先祖伝来の武運長久のお守りだ。

 二つと無い大切なお守りを、父はクロカゲ用に加工してくれた。腕にぴったりとはまっているので、壊さない限り外れない。「生きて持って帰れ」と言った父の顔を思いだし、胸に勇気が湧いてくる。


 ようやく落ち着いたクロカゲが前方へ視線を向けると、戦場が動き出していた。

 帝国軍に動きありと見たのか、魔王軍が戦列を横に伸ばしながら前進を始めた。これに対して、帝国軍は左翼と右翼を同時に動かして応じた。機動力の高い魔物が左右に広がり、これらに食いつく。


 両翼で戦端が開かれ、凄惨な戦いが始まった。

 魔獣たちの爪牙は、革鎧程度は易々と貫き、帝国兵の血肉へ食らいつく。

 帝国軍も負けてはいない。大盾で敵の進軍を防いで戦列を維持し、後方から長槍で突き崩していく。軽装歩兵は、矢を雨のように放っている。


 粉塵と血煙で両翼が煙っていく中、帝国軍の中央に動きがあった。

 騎兵の一隊が、帝国軍の陣地から飛び出し、魔王軍の中央へと突撃を始めた。そしてあわや魔王軍と衝突というところで、突然左へと向きを変え、魔王軍の右翼方向へと駆け抜けていく。これを追う形で、魔王軍の中央から魔獣らが疾駆していく。


 この瞬間、魔王軍の左翼と中央の間にぽっかりと間隙が生じた。だが戦場の誰もが気づいていない。盗賊の目を持つクロカゲを以ってしても、あちこちで土煙が立ち昇っているせいで、その先は見通せない。せいぜい、土埃の向こうで地鳴りや怒声、剣戟が響いていることが分かるくらいだ。


 戦場全体を上空から鳥瞰していればこの間隙に気付くのだが、そんなことをできる人間などいない。ただ一人を除いて。

 皇帝ガイウスが吼えた。


「七勇者の諸君、突撃だ、行くぞ!」


 覇王というクラスの勇者級スキル“王眼”で、ガイウスは戦場の全てを捉えている。魔王軍の両翼が釘付けにされ、中央も陽動に引き付けられている。今この瞬間、魔王の本陣へと、一本の細い道が出来ていると知り得たのだ。

 勇者級の勇者(クラス)であるユユを先頭に、七人の勇者級の戦士たちは、魔王目指して疾駆した。狩人と魔法使いが遠距離攻撃で近寄る魔獣を打ち落として、進路を確保する。それでもなお近づいてくる魔獣を戦士と勇者が切り捨てる。


 そうして魔王軍の中央を駆け抜けた先に、魔王はいた。

 不死の魔王と呼ばれ恐れられる、邪悪の権化だ。

 黒衣の魔王は、寝椅子に横たわっている。戦場には似つかわしくない様子でくつろぐ魔王には、七勇者を見ても焦る様子はない。


「よくぞ余の近くまで来た、勇者どもよ。その蛮勇と徒労を歓迎しよう。では、さらばだ」

 上体を起こすこともせずに魔王が指を動かすと、周囲の魔獣たちが一斉に跳躍した。


「あらあら、魔王陛下におわしましては、随分と間抜けでいらっしゃいますこと! わたくしが焼き尽くして差し上げますわよ!」

 “魔法使いの勇者”メイプル・ハニートーストが高慢に叫びつつ爆炎魔法を放った。都市一つをまるごと焼き尽くすほどの、極大の魔法だ。轟音と共に、七勇者も魔王も魔獣たちも、全てが炎に包まれる。


 黒煙が晴れると、そこには七勇者と魔王だけが残っていた。

 寝椅子が吹き飛ばされて面倒くさそうに立ち上がった魔王は、傷一つない。

 対する七勇者も、回復魔法を受けて同じく無傷だ。正確には、負傷したと感じる間も無いほど素早く治療されたのだ。


「このくらいの怪我なら、私の魔法で大丈夫かもです。皆さん、どんどんやっちゃっても良いかもです」

 皆の後ろに隠れながら“神官の勇者”ビィル・ビビルが神杖を構える。


「援軍を期待しても無駄ってもんだぜ。俺様の弓は、無敵だからな」

 “狩人の勇者”カ・エルが間髪入れずに矢を放つ。風を切る鋭利な音が聞こえた時には、魔王を護衛するためこちらへ向かっていた魔獣たちは、頭部を矢で射抜かれて倒れている。しかし、狩人が矢を補充するために矢筒を取り換えようと試みるや、再び魔獣が押し寄せる。


「後方に雷魔法を展開せよ」

「かしこまりましてよ、陛下!」

 “覇王の勇者”にして皇帝であるガイウスの指示を受けて魔法使いメイプルが雷魔法を飛ばし、魔獣を払っていく。

 覇王の“王眼”で戦場を把握し、狩人の弓矢と魔法使いの呪文で周囲の敵を近寄らせない。

 魔王軍の中央にあって、七勇者は魔王を孤立させることに成功した。


 “勇者の勇者”ユユと“戦士の勇者”ハヤトが距離を詰め、次々と斬撃を繰り出していく。魔王はゆらりとした不思議な動きで躱すが、人知を超えた二人の連撃が魔王の体に届き始める。だが一向に効いた様子はない。


「“不死の魔王”と呼ばれる余も、侮られたものだな。知っているであろう。余の……魔王職のスキルは“不滅”。その名のとおり、滅することはない。“無敵”のスキルを持つ“勇者の勇者”なら、分かるであろう?」

 魔王の視線を受けて、ユユはわずかに怯む。だが、覚悟を決め直すように大剣を構えた。


「私たちは、絶対に勝つよ! 魔王職の“不滅”を打ち破る手段だって、考えてきたんだ!」

 ユユが大剣を振り回しながら魔王に突進する。戦士が後ろに続く。


「それがこの浅知恵か? 実に下らぬ悪手よ。“無敵”スキルを持つ勇者が盾になり戦士が“必殺”スキルで余を斬ると?」

 ユユの斬撃で魔王が体勢を崩したとみるや否や、ハヤトが刀を頭上に構えて突撃する。“戦士の勇者”の“必殺”スキルが乗った必中の一撃が、魔王の肩から胸までを切り裂いた。濡れた布を引き裂くような音とともに、魔王の胸が裂け、血が吹き出る。


「戦士職の勇者級スキル“必殺”……相手を必ず殺すスキルだからこその名前だろう。だが、“不滅”のスキルを持つ余が、“不死の魔王”と恐れられる余が、心臓を切り裂かれて殺された程度で死ぬとでも思ったか?」


 魔王は血反吐を吐きながらも高らかに笑うと、土魔法を放った。硬化した土や氷結した水分が鋭い刃となって、戦士に襲い掛かる。スキル後硬直で動けないハヤトをかばったのは、ユユだ。

 大剣を縦横無尽に振り抜き、数百の魔法の刃を打ち払う。そして光のごとき速さで魔王へと間合いを詰める。


「私たちの作戦は、それだけじゃないよ!」

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