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この復讐は、正義だ  作者: 安達ちなお
幕間

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七星神殿の殺人 一日目昼②

「あの、ビィル様、もう少し詳しくお話しいただけますか?」


 さすがのコルトも、気圧された様子だ。


「簡単な事かもです。魔法やスキルでその身を偽装しているのならば、死ねば解けます。殺して正体が露見すれば犯人かもですし、そうでなければ無実かもです」


「……なるほど、そして無実の方であれば、ビィル様が蘇生をする。これでもう一人分の真偽を確定できるわけですわね」


 コルトの理解は早かった。

 ラービットがまた拳を叩きつけた。


「待て、待つのじゃ。もしこの勇者が偽物であったならば、どうなるというのじゃ。蘇生が出来ぬぞ」


「それなら私が犯人と確定するかもです。一人の犠牲で、犯人が特定できるなら、それは神の思し召しかもです」


 そう言いながらビィルが笑うと、ラービットはしばし言葉を失ったのちに、今度はヨウゲンへと矛先を向けた。


「天占師の技で真偽が分かるというが、お主が偽物で、嘘の結果を言う可能性も捨てきれん。お主が本物であると、どう証明するのじゃ」


「なに、難しいことはござらん。もし小生が誰かを犯人だと言えば、その者か小生のどちらかが犯人ということでござろう。そこで二人に絞られる。そして同じ相手に勇者殿の手法を用いれば、真偽が分かる。如何か」


「な、なるほど……」


 ヨウゲンが占目により犯人を特定した場合、もしヨウゲンが本物であればその者が犯人である。その者が犯人でなければ、罪をなすりつけようと嘘を用いたヨウゲンこそが真犯人であると言える。


 簡単な理屈だ。

 難しいのはここからだ。誰を占い、誰を殺すのか。

 議論を主導するようにコルトが言った。


「まず誰に占目を使うのか、全員の投票で決めましょう」


 だがすぐに異論が飛び出る。ヨウゲンだ。


「いや、小生は双子のどちらかに使いたい。お二人の言葉が真正のものであるならば、どちらか一方の潔白さえ分かれば自動的にもうお一方も白となる。ひと手間で二人を判別できると愚考するが、如何に?」


 コルトは小さく息を吐いた。


「やはり、そうお考えになりますよね。ですが、私の立場で考えるなら、景色は違うのです。私たち姉妹の潔白は確信しています。ですので、容疑者は残る四人に絞られます」


「そうでござろうな」


「そしてヨウゲン様が、ラービット様かキリウド様のどちらかに占目を使い、そのヨウゲン様に対してビィル様が蘇生を使えば、犯人を特定できるのです」


 蘇生を使えるか否かで、ビィルを判別することが出来る。そしてヨウゲンの真偽はビィルによって確認される。そこでヨウゲンが本物となれば、占目の結果も信頼できる。


 それを踏まえて、ヨウゲンが残る二人のうち、仮にラービットを犯人であると言い当てれば、それが真実である。もしラービットが犯人でないとなれば、消去法でキリウドが犯人となる。


 コルトの説明は、ゆっくりとしたもので丁寧だった。が、ビィルの見る限り、反応は芳しくない。

 ラービットが詰問するように双子を睨んだ。


「それは公子様方が潔白である前提の話じゃ。はた目にはそれが分からん。いや、自分たちを確認されたくないがために、議論を誘導しているようにも見えるのじゃ」


「ええ、ですので私は投票を用いるべきと考えます。誰か一人の意見に従ってしまえば、犯人に誘導される可能性があるのです」


 コルトの言葉にかみついたのは、意外にもシルパだった。


「お姉さま、ちょっと待ってよ。あたしたちが潔白なのは知ってるでしょ。その前提で議論を進めれば、今ここで犯人が分かるのよ。なのになんで……」


「落ち着いて、シルパ。ここにいる全員が、自分自身の潔白を確信していると同時に、自分以外の全員を疑っているわ。ここで無理に持論を押しても、かえって疑われるだけ。皆が納得したうえで決めるべきではないかしら」


「いいえ、お姉さまが明確に間違ってるわ。だってあたしたちの理論が最適解だもの。確実に犯人が分かるんだから、何としてもこの方法を押し通すべきって、なぜ分からないの? そんな軟弱な考えじゃあ、この場を収まめることも、将来この国を治めることも出来やしないわ。それに……」


 さらに言い募ろうとするシルパを見て、ビィルは静かに言った。


「やかましいかもです。今ここであなたをしますか?」


「な、なによ。脅すつもり? そんなんじゃ、びっくりしないんだからね。だってあたしが正しい……」


 ビィルは、黒い甲虫を象った神杖を手に歩き出した。神鉄製の杖は、硬く重い。ビィルが振れば、一撃で容易く人体を破壊する。


「わ、分かったわよ。ひとまず投票すればいいんでしょ? ねえ、やめてよ、近寄らないで!」


「分かっていただけたなら、安心かもです」


 にこりと微笑んでから、ゆっくりと元の位置に戻った。小さく安堵の吐息を漏らしたコルトが、気を取り直したように言った。


「誰に占目を使うべきか……いえ、まずは誰を殺すべきかを先に決めましょう。もちろんその方が無実であれば、蘇生されます。では、どうぞ」


 コルトの合図で、全員が指を差した。結果は一目瞭然である。

 ヨウゲンがコルトを指し、それ以外の全員がヨウゲンへと指を向けている。ヨウゲンは観念したように首を振った。


「やはりこうなるか。小生からすれば、双子を蘇生で確認し、そこで潔白となれば残った神殿長官と神殿騎士の二人を占目で判別するだけなのだが……。皆からすれば、小生の潔白を確認しなければ占目の結果も信じられぬということか」


「……そういうことですわ」


 コルトが申し訳なさそうに応じながら、議論を次へと進めた。


「次に占目を使う相手を決めましょう」


 再び全員が一斉に指差した。今度は割れた。

 双子は揃ってラービットを指し、ラービットとヨウゲンはコルトを、キリウドとビィルがシルパを選んだ。


「三人に二票ずつですが、皆さまの意見は分かりました。私とシルパのどちらかを確認できればよろしいのでしょう。私が占目で判別していただきますが、よろしくて?」


 そのとおりだ。ビィルが黙って頷くと、キリウドもそれに倣った。


「ではまず小生が占目を使った方がよろしかろう。蘇生を受けた後では、技など使ってはいられんのだろう?」


「そうかもです。良くて寝たきり、悪ければ数日は昏睡するかもです」


 ビィルが説明すると、ヨウゲンは少し嫌そうな眼をした後に、諦めたように覆面を外した。意外にも中性的な美形だった。


「では占目を使いまする」


 ヨウゲンの顔に紋様が浮かび上がった。よく見れば、神聖文字で描かれた魔術的紋様だ。


「さて公子様、小生の問いにお答えいただきたい。そなたは帝国政務次官殿の死に関与されたか?」


「いいえ、まったく関わりのないことですわ」


「ふむ……嘘はないようですな」


 ヨウゲンが断言した直後、ビィルは神杖を振り抜いた。

 どちゃりと音がした。中身の詰まった西瓜を岩の上に落とした時のような、水気のある重い音だ。次いで、頭蓋をかち割られたヨウゲンが力なく倒れた。


「ひっ」


 血が飛び散り、ラービットが悲鳴を上げる。コルトも表情を硬くしている。

 しばらく五人でヨウゲンの死体を眺めていた。ビィルの持つ神杖の先から血が滴り、床に落ちてぽつ、ぽつと音を奏でている。


「変化はありませんわね。これでヨウゲン様も潔白と判断して……」


「ええ、問題ないかもです」


 コルトと目を合わせて確認してから、ビィルは蘇生を使った。ヨウゲンの体が瞬く間に修復されていく。猛烈な勢いで治癒しているようにも、時が遡っていくようにも見える。そうしてヨウゲンの肉体が蘇生したとき、床にも神杖にも血の跡は残っていなかった。

 コルトが駆け寄って抱き起すが、ヨウゲンは脱力したままだ。


「ヨウゲン様、いかがですか?」


「うっ……」


 揺すられて目を開けるも、その視線は茫洋として定まらず、わずかにうめき声が漏れただけだった。だが、確かに蘇生した。


「これで私も潔白かもです」


 ビィルが言うと、皆の視線がラービットとキリウドに集まった。

 劇的に反応したのは、ラービットだった。


「吾輩は違う。犯人はこの神殿騎士に間違いない。早く捕まえるのじゃ!」


 枯れた指でキリウドを示すが、皆は冷めた目で見つめている。困ったような顔でキリウドが口を開いた。


「それは僕も同じです。自身の潔白を知っていますので、容疑者はラービット神殿長官様以外にありえません」


「なんじゃと? この期に及んで嘘を吐くか。もうこんな場にいられるかっ。吾輩は自室に籠らせてもらう」


 言うなりラービットは、自らの担当する塔へと駆け出した。そして扉を閉めると、内側に物を積み上げる音が聞こえてきた。シルパが困惑したように言った。


「何よあの爺さん……。でもどうするの? 容疑者の二人をそのままにするのは不安よ」


「念を入れるなら二人とも殺すべきかもです。殺しを忌避するなら、手足を壊しておくだけでも違うかもです」


 ビィルの提案は双子のためを思ってのものだったが、コルトの反応は鈍い。


「いえ、止しましょう。罪が無いかもしれない方にそのような仕打ちは望みませんわ。それより儀式です。もうじき日没ですが、ショヤトン様とヨウゲン様の分は、いかがいたしましょう」


 ラービットはあれで敬虔な神官だ。儀式をおろそかにはしないだろう。だが亡くなったショヤトンと蘇生で前後不覚になっているヨウゲンは、神木に火を落とすなど不可能だ。ショヤトンの分は、昨晩こそ果たされていないが、だからと言って今晩も放っておいていいものではない。

 キリウドが控えめに手を挙げた。


「ではショヤトン殿の分は僕が引き受けましょう。夜間に扉は一度だけ開閉できます。自室の扉を開け、閉まる前に急いでショヤトン殿の塔にも出入りして、二つの火を落とします。あらかじめ火さえ焚いておけば、出来ないことはないでしょう」


「馬鹿を言わないで、信じられるわけないでしょ!」


 案の定、シルパが噛みつく。だがコルトはあくまで冷静だ。


「ではキリウド様にお願いします。ヨウゲン様の分は、ビィル様にお願いしても?」


「構わないかもです」


 ビィルが頷くと、コルトは皆を見回して言った。


「日没が近いです。急いで儀式の準備をしましょう」


 儀式は二回目の夜を迎えた。


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