表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この復讐は、正義だ  作者: 安達ちなお
5章 魔法使いへの復讐、魔王からの復讐

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

105/152

アウトレイジ

「ペイライエウスの再興を阻止するため、協力を願う」


 要約すればそんな内容の手紙を受け取ったメイプルは、闇夜に宿舎を抜け出した。手触りの良い植物紙パピルスには高度な魔法鍵が施されており、一見すると艶書ラブレターにしか読めなかった。これにマルジンの法則を当てはめ、その後にメルリヌス公式を用いると本文が見える仕組みだ。これほど手の込んだことをする以上、送り主が抱く本気の度合いは高いだろう。


 もし良い取引であれば買うし、利が少なければ陰謀を破壊して手柄とすればいい。そんな算段だ。

 指定されたのは大墳墓だった。その手前には倒壊した墳墓がある。大昔に魔王が破壊したという伝承がある瓦礫の山を素通りして、大墳墓を取り巻く防壁の脇に立った。煉瓦を積み重ねた石壁で、メイプルの頭よりわずかに高い。


「まあ、この程度ならね」


 魔法使いとはいえ勇者級のメイプルは、一般より身体能力が高い。加えて飛行や滞空の魔法も少しなら使える。衛兵の目を逃れて、難なく塀を越えて敷地内に降り立った。

 巨大な魔法的構成物からは、呪術と魔術と魔素の気配が猛烈に感じられる。肌がびりびりと震えるような刺激を受けながら墳墓内を歩き、階段を上り、その部屋にたどり着いた。


 魔法使いの書斎のようだった。棚には隙間の無いほど本棚が並び、それでもあふれた書籍が床に山積みになっている。隅には錬金術台があり、木の実や野草などの素材が無造作に置かれている。そして中央には大きな木製の安楽椅子があり、一つの影が座っていた。

 既にいた手紙の主は、全身を包帯で覆っていた。


「誰だ?」


 メイプルが魔力を込めて目を凝らしても、その正体が分からない。高度な魔道具を用いているのか。強力な幻惑系の魔法を発しているのか。それとも、そもそも存在自体の位階が異なるのか。

 だが敵意は感じない。


「ようこそ、魔法使いの勇者殿。まずはお越しいただいたことに感謝しよう」


 洞窟に響く声のように、漠として正体がつかめない。だが明確な理知を感じる。


「お前は誰だ?」


 鋭く問うと、笑みの漏れる気配があった。


「一言でいえば、イオス王国に巣食う化け物……と言ったところか。もちろんそちらの……人間の基準で言うならば、だ」


 魔法使いの勇者たるメイプルの前で、人にあらざるものと白状した。それでも悠々としている。自らの力に圧倒的な自信を持っているのだろう。メイプルが討滅を決めたとしても、容易く勝つことが出来る。そう判断しているのだ。


 だがメイプルは怯まない。

 これまでだってそうだった。勝利を確信している相手を屠ってきた。齢百を数える老獪な悪魔すら倒してきた。不死などと自称する魔王すら、討滅した。

 己を侮るなら、それで結構。だが、勝つのは自分だ。その自負がある。


「化け物ならば、殺さなくちゃいけないわね」


 魔法杖を構える。だが、包帯の化け物はのんびりと手を振った。


「まあ、待て。確かに人ではないのだが、人に危害を加えるつもりはあまりない。積極的に害をなそうという相手は、イオス王とかペイライエウスとか、一部だけなのだけれど、とりあえず話を聞いてくれるか」


 話すなら勝手に話せ。そんな思惑を示すように、黙って待った。打算としては話を聞きたいが、催促しては反逆者として地歩を固めるようなものだ。だから勝手に話させる。

 そんな保身まで読まれたのか、また、包帯から笑みがこぼれた。


「うん、その態度は助かる」


 そして「さて……」と言いながら包帯の手が、資料の山から一枚の大きな紙を取り出した。広げれば、世界地図だった。大内海を中心に、銀月帝国やイオス王国、ロムレス王国が描かれている。


「イオス王国にとって最大の敵が何かといえば、帝国だ。ロムレス王国はやや距離があるし、東方平原とは伝統的な友好関係を築くことが出来たからね。そして帝国が内包する脅威といえば、ペイライエウスだ」


 地図では、帝国の南部が赤く塗られている。ペイライエウスの全盛期の版図だ。


「ペイライエウスとは、異常な一族だ。文武に優れ、人に好かれ、天に愛される。何故かそういう者ばかりが生まれる。アレクサンドラの父も兄もそうだった。すべてに愛され、すべてが上手くいく……そんな存在だった」


「あら? 少なくともあの娘の兄は、違うのじゃないかしら?」


 メイプルの聞いた話では、短慮で放蕩な男で、残った遺産を食いつぶして自らも自滅した。そんなことだったはずだ。


「いや、少なくとも20年前にイオス王国を訪れたときには、優れた男児だった。だから呪いをかけた」


「あら……それは」


 明確な敵対行為だ。特に変性系の魔法を統治者級の者に使うなど、どのような反撃を受けても文句を言えないほどの、悪逆非道の行いだろう。

 目を細めて包帯のつらを見る。が、やはり泰然としたものだった。


「もう百年くらいになるかな、ペイライエウス家の者が訪れるたびに、変性系の魔法を使ってその精神を堕落させていた。本来は一流であるはずの当主が阿呆になるような魔法を。とはいえ、毎回上手くいくわけでもないので、時折は失敗していた。20年前も、当時の当主へは失敗したが、その長男には成功した」


 納得できる。

 ペイライエウス家は、帝国臣下の首座だった。その財産も権益も、他の追随を許さない。それが内側から崩れるように、長い時をかけて零落していった。普通は、そんなことにはならない。凡庸な当主が続いたとしても、崩れぬほどの牙城だったはずだ。破滅的な家長が破滅的な行為を何代にもわたって繰り返さねば、こうはならないはずだった。


 だが、なった。何故か。

 ペイライエウスを恐れたイオス王国による長年の陰謀だとすれば、説明はつく。


「ならば帝国貴族としては、そのような野望は打ち砕かないとならないわね」


 杖の先に指先程の炎を灯す。そこへどんどんと魔力を送り込み、灼熱へと育て上げる。指の先ほどの大きさながら、白熱する炎球を組み上げた。

 それでも包帯は椅子に座って足を組んでいる。


「当代はやはりペイライエウスだった。彼女をそのままにしては、あの異常な一族が復活してしまう。それを避けたいという利害は一致していると思うのだが、さて、これを見てほしい」


 おもむろにポロンと取り出したのは、白く輝く宝石が付いた指輪だ。


「これは書簡官から渡された指輪?」


「そう、そのとおり」


 外交使節としての身分を保証するためとして、アレクサンドラの指にはまるものと同じに見える。


「変性系の魔法を宿した魔道具で、これを指に通すと、精神が堕落し退廃と放蕩に傾く。ペイライエウス家が近年抱えた阿呆当主のように、周囲から人の財も、幸運もが遠ざかる」


 変性系魔法は難易度が高い。幻惑系の魔法などは、いわば目くらましなので簡単に誰にでも効果を発揮する一方で、一時的なものだし看破も容易い。

 しかし変性系はその物のあり様を変質させるものなので、永続する。だが難度は上がる。呪文を一つ唱えてお終いとはならない。その点では、常に身に着けるものにまじないを施すというのは、効果的である。


 差し出された指輪を凝視する。

 一見すると何の変哲もない指輪だ。だがそれと分かって見れば隠蔽の魔法が施されている。それを看破しても、さらに偽装の魔法が守っている。外装を解きほぐしていくと、魔道具本体が内包する魔法の構成が見えて来る。


「こんなものを用意できるなんて、いったいお前は何者なのかしら」


 指輪を用意するだけなら、書簡官のセネンセが第一の容疑者だ。だが、指輪に細工があると露見すれば、真っ先に疑われることになる。そんなことをするだろうかという疑問が生じる。


 魔道具と言えば、宰相が多く所持していた。高度な付呪が施された希少な宝具ばかりだった。そのあたりには一日の長がありそうだ。


 他に候補と言えば、アレクサンドラと親しく対話をしたラディア将軍なども挙がるだろう。この包帯の言葉は、彼女と近い距離で接した者の質感だ。


 が、そのあたりはどうでもいい。

 目の前の魔道具がメイプルにとっては有用であると分かれば、それで足りる。これを使えば、アレクサンドラを追い落とせる。復讐を果たし、雪辱を果たし、プルケラ家の将来を安泰させる。それも変性系魔法であれば、外傷は残らないので護衛の任が失敗したとは見なされないだろう。そして痕跡を見出すのは困難である。なにせ、これまで歴代のペイライエウス家の当主を、それと悟られずに破壊してきたものだというのだから。

 まさに魔法のような道具だ。


「このけしからぬ道具は、私が没収しておこうかしら」


 そう言ってメイプルが指輪を受け取ると、包帯の隙間から愉快そうな笑みが漏れた。 

 腹黒い契約が、成立した。




 イオス王国の強い朝日を浴びて、サンは目を覚ました。


「おふぁようごじゃます……」


 広い宿舎でも特に広い一室が割り当てられ、清々しく快適だった。物置で寝起きしていたころが懐かしくさえある。

 隣で「うぅん……」とつぶやいている朝寝坊のロクサーヌを置いて、ひょいと起き上がった。大きな窓からは強い日差しだけでなく爽やかな風が入り、なんとも居心地が良い。

 そして素早く着替えると、毎日着けている指輪を取り出した。


「うん?」


 何となく、違和感があった。なんだろう。重さかな。色合いかな。それとも手触り?

 サン自身にも正体のつかめぬものであったが、それでも、セネンセが用意した指輪が二つもあるはずがないと、思い直した。それに、あの魔法使いの勇者メイプルが、異常なしと判断した指輪なのだ。


 いつもどおり、右の人差し指にしっかりとはめた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ