仲のいい家族
三題噺もどき―さんびゃくにじゅうに。
記録的猛暑と、記録的豪雨に襲われる日々。
毎日どこかで人が倒れて運ばれて、毎日どこかで川が増水したりしてる。
「……」
そのうちの、豪雨が去った今日。
猛暑の方はもう、この時期どうにもできないので。
気をつけろと言われたって、全部が無駄な足掻きになりかねない。
外に出ないのが一番だと思うが、そうもいかないわけで。
「……」
ただまぁ、今日のこれは。
別に義務で行っているわけではなく。
珍しく、家族の休みが重なって、そろそろ外出でもしないとどうにかなる、という学生の妹②にせがまれて出かけているだけだ。
別に今日でなくでもよくないかと思うが……どこか行くだけなら私が連れていくのだけど。
ま、いい機会だし気にしない。
「……」
そんなこんなで車の中。
クーラーの効いたひんやりとした車内。
ファミリーカーというかワンボックスカーというか。広い車内は十分にゆっくりとくつろげる。
まぁ。どちらにせよ、私は車内で完全に気を抜いて眠りこけることは出来ないので、たいして意味はないんだけど。
「……」
シンと、静まり返った車内。
幽かにラジオの声が聞こえるけれど、クーラーの音で掻き消えている。
母はもう寝たのかもしれない。
助手席に座っているはずだが、見た感じ船を漕いでいそうだ。
「……」
運転席には父。
赤信号で止まっている今、軽く道の確認をしている。
まぁ、せずともアナウンスが鳴るのでいらないと思うが。
というか、運転中によそ見をするな。
「……」
運転席含め、3列ある席の2列目。
隣の席には、今日の外出をねだった妹②。
携帯をいじることに夢中になっている。
ゲームか漫画か、SNSか。知ったことはないが。
指の動きからして、漫画かSNSあたりだろう。
「……」
3列目。
一番後ろの席に座っているのが、妹①。
こちらもスマホをいじっている。
コイツに至っては、イヤホンもつけているので、果たして声を掛けて気づくかどうか。
常につけているイヤホンは、最近接続の調子が悪いらしい。
「……」
妹②の隣にいるのが、私。
やることもないので、ぼうっと外を眺めている。
車酔いをしてしまうので、携帯をいじることは出来ないのだ。
今は、酔い止めを飲んでいるから、ある程度は平気だと思うが……。
基本的に、乗り物の中では、携帯は鞄の中だ。
「……」
ぼうっとして、やることがないので、1人思考に沈んで行ったりする。
外の景色がきれいだとか、あの建物はどのあたりにあるんだろうとか、アレは見たことある看板だとか、田舎だなぁとか。
そんな、胴もいいようなことの思考の隙間をぬって。
いろんなことが脳内を巡る。
いいことも悪いことも。
「……」
昔はこんなに、シンとした車内じゃなかったのになぁ……とか。
「……」
それぞれ、バラバラではあったけど。
確かに会話をしていたはずだ。
両親は2人前で話をして。私たち3人は後ろで。
たまに両親を巻き込んで、5人で会話して。
―確かに、声であふれていた。
「……」
それがいつの間にか変わってしまった。
別に仲が悪いとかではないのだ。
これは別に強がりでも何でもなく。
それなりに仲のいい家族なのだ。
そうでなければ、こんな休みの日に全員そろって、外出なんて、そうそうしないだろう。
「……」
この状況が、おかしいとか、悲しいとか、そんなことを思わないわけでもない。
だって、昔は……。そう思うことが多々ある。
「……」
声は聞こえなくなって。
モーターの音だけが車内に響いて。
視線は合わなくなって。
それぞれ別の方向を向いて。
「……」
なんだかなぁ……と。
1人取り残されたような、置いていかれたような。
疎外感のようなものを、覚えてしまって。
「……」
動く景色の中で、たまに親子が飛び込んできては。
楽しそうな雰囲気が見てとれて、
いいなぁ…なんて思ってしまって。
尚更、1人な気がしてしまって。
家にいても、たまにこうだから……。
果たして、仲が良い家族というのも、なんだか強がりなんじゃないかと思い始めてしまう。
認めたくない自分が、どこかにいるから、そんなことを思ってしまうだけなのかもしれない。
「……」
外に出れば、それなりに見える、見せる。
それだけ。
それは、果たして、仲が良い家族なのか。
ただ世間体を気にしているだけではないのか。
「……」
いやだいやだ。
今から色々と回るってのに。
目的地に着いても、この訳の分からないもやもやに。
憑かれたままになりそうだ。
お題:変わってしまった・声・強がり