あなたの帰り道 ~夏のホラー2023参加作品~
本作は家紋さま主催『あの一作企画』と、蜜柑さま主催『ミカンコン11』の参加作品です。拙作ですが、ヒヤッとして頂ければ幸いです。
※両企画のバーナはこのページの最下部に記載しています。よければ、ご覧下さい。
時刻は深夜一時のことです。
あなたは会社の勝手口から出て来ました。
仕事終わりですね。いつもなら定時を過ぎてちょっとしてから帰るのですが、今日は部下が早退したので、彼女の仕事も肩代わりしなければいけなかったのです。
あなたは最後の一人ですから、外から電気が消えていることを確認し、勝手口をきちんと施錠しました。
あなたは鞄から携帯を取り出すと、時刻を確認します。時刻は一時五分です。今から走っても、終電は逃してしまうでしょう。あなたは落胆の溜息をつきました。
あなたの家は電車で二十分のところ。つまり、徒歩でだいたい一時間は掛かってしまいます。
ネカフェへ泊って始発で帰ろうか、とあなたは考えたかもしれません。しかし、あなたには愛する妻と我が子がいて、明日は三人で帝京ネズミーランドへ行く約束しているのでしょう。今日も短い昼休みにネズミーランドの攻略ガイド本を開いていました。
あなたは来る明日のために、家へ帰ることを口頭で誓いました。
時刻は深夜一時三十分のことです。
あなたは一人で歩いています。
普段は活気がありそうな住宅街は、まるで寝ているかのように静寂で、どこか寂しさを感じさせます。
急にあなたはとても怖くなりましたね。幽霊も妖怪もあなたは信じていませんが、あなたの背中に広がる闇には『ナニカ』がいるような予感がして、あなたは両手をさすりました。
寂しさを紛らわせるために、あなたは鼻歌を歌い出しました。戦場のメリークリスマスですね。なぜそんな選曲をしたのでしょうか。
あなたは急に元気を取り戻し、スキップをしそうな勢いで歩みます。軽やかに住宅街の間を歩いていきます。
しかし、その元気さも束の間。ガサゴソっと近くの草むらが揺れました。あなたはビクッと肩を震わせました。おっかなびっくり草むらを見ます。怪しげに光る『ナニカ』と目が合いました。
――――ニャオン
猫でした。あなたは安堵の深呼吸をしました。
あなたは歩みを再開させました。
時刻は深夜二時のことです。
あなたは一人で歩いています。
もう家はすぐそこです。走れば五分で着くかもしれません。でも、あなたは歩きます。せっかくですから最後まで歩き通したいのでしょう。
一時間も歩き続けて、あなたはついに近所の商店街へ辿り着きました。安い商品が並ぶそこは、あなたの一番のお気に入りです。ごちゃごちゃとした色合いと猥雑な雰囲気があなたの興味をくすぐるのかもしれませんね。
ですが、現在の時刻は深夜二時なのですから、全ての店はシャッターを降ろし、高い天井の照明がチカチカと瞬くばかりです。昼間とは一変して、とても落ち着いていますね。
あなたは疑似的なシャッター通りを眺めながら歩きます。地面がタイル張りだからか、足音がよく響きます。反響する音は心地よくて、まるで観客が一人だけのオーケストラですね。
ふと、あなたは立ち止まりました。
どうしたのでしょう。何か違和感がしたのでしょうか。
あなたは慎重に振り返ります。
猫の影も姿もないでしょう。
あなたは、また歩みを再開させました。しかし、すぐに止まります。そして、何かを確かめるように、歩いて止まるという動作を何度か繰り返します。
ロボットのような狂った動作をしていると、急にあなたは本当に狂ったように駆け出しました。ここまで歩いて来たのに、ラストダッシュですかね。
ああ、わかりました。足音がズレていたんですね。
どこにそんな体力があるのか、あなたは叫びながら全力で走っていきます。猪のように、なりふり構わず走ります。
すぐに家の前へ辿り着きましたが、それでも焦ったまま鞄の中をガサガサ掻きまわします。やっと見つけた鍵を鍵穴にねじ込みます。扉が開きました。
あなたは念願の自宅へ入る前に、ほっとした顔で振り向きました。
ああ、やっと見てくれましたね。高木せんぱい。
この作品は二度読み推奨します。二周目でないと気付かないこともあるんですよ。ちなみに、この作品は投稿時刻と文字数にも拘っています。確認してみてね。
今回応募させて頂いた家紋さま主催『あの一作企画』と、蜜柑さま主催『ミカンコン11』のバナーは少し下へ行った場所にあります。ぜひ確認してみて下さい。
同時に、筆者『沿海いさで』のファンタジー小説も下からご覧できます。ホラーだけ読んで、俺の代表作を読まない奴なんていねえよなあぁぁぁ、
ここで一つ、お願いがあります。この作品が面白い、続きが読みたい、と感じたら、↓↓広告下↓↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にして頂けたら、今後の励みになります。また、感想や誤字報告もお待ちしています。よろしくお願いします!!