表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/35

わたくしと結婚できないなんてお気の毒さま

 歌の息継ぎのような、一拍の()。ヴィンセントの瞳の赤に飲まれる。


「どう?」


 わたくしは子山羊の手袋の下で汗をかいているのを感じた。


 本当にまずい人に目をつけられてしまったかもしれない。けれど貴族で複数の顔を持っているなどよく聞く話だし、自分が突拍子もないことをやろうとしているのだから、怪しい話に乗るくらいの度胸が必要なのかもしれない。


 わたくしはヴィンセントを飲みこみ返す気持ちで、本心から微笑んだ。


「分かりました。協力関係を結びましょう。ただし、わたくしの家族を害することだけは絶対にしないでください。破られた場合はダンス室の真ん中で叫びます。『今、ロード・ブラッドローの手がわたくしの胸に触れました! 赤き浮き名の魔王は小さな胸のほうがお好きでいらっしゃるのね!』と」


 ヴィンセントは間近にあった目をまたたかせて、思いきり吹き出した。


「ああ。構わないよ。約束しよう。やっぱり僕の目に狂いはなかったな」


 吹き出したのは演技ではなかったのか、おかしそうに口元を押さえる。近かった顔がようやく離れていって、正味三歩ほどあいた適切な距離に戻った。


「けど困っている人と女性を助けたいというのはふだんから本当に僕の主義なんだ。心の片隅にでもいいからとどめておいてくれると嬉しいな」


「頭の片隅にでしたら善処します」


「つれないね」


 ヴィンセントの表情は、もう今まで見てきた『赤き浮き名の魔王』にふさわしい軽薄な笑いに戻っていた。


 変な人を引っかけてしまったが、わたくしのやることは変わらない。絶対に胸を大きくして社交界に見せつけてからシスターになって引退してやるのだ。わたくしと結婚できないなんてお気の毒さま。悔しがれ! 悔しがれ! と。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ