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お前も蝋人形にしてやろうか!

『ロード・ブラッドローに近付いてはいけないよ。絶対にだ。万が一、彼がヘレナから歩いて十歩以内に立ち入った場合、ああ、僕は彼と刺し違えてしまうかもしれない……!』


 このようにわたくしも兄から三日に一度は聞かされていた。


 ごめんなさい、お兄様。今、確実に歩いて二歩ぶんくらいのところに立たれているけど、不可抗力というやつなので刺し違えるのはおやめになってくださいね。


「風に当たろうとして迷ってしまいまして。引き返そうとしていたところですわ」


「それは大変だったね。お手をどうぞ」


 笑顔で取り繕ったら、眩しい笑みとともに白い手袋に包まれた右手を差し出された。戻るならエスコートして一緒に戻るというのが当たり前だろう。そもそも男性側から声をかけてきたというのがマナー違反なのだが、こんなひとけのないところに娘がひとりきりというほうが非常識なので文句は言えない。


 仮にも侯爵、断るのもぶしつけすぎるので、白い手袋の上に同じく白い子山羊革の手袋をつけた手を乗せた。慣れたように、手を腕にかけさせられる。正直怖いが、変なことをされそうになったら叫んで扇子で喉を狙うしかない。そう思って扇子を閉じる。


「時にレディ・ヘレナ」


 心を読まれたのかと思って体がこわばったが、ヴィンセントは眉尻を下げて困った顔をしていた。いちいち演技くささを感じるが、目鼻立ちが整っているので見ごたえがある。


「はい」


「気を悪くしないで聞いてほしいんだけど。さっきロード・デイルとすれ違って、『ようやく婚約破棄だ! 胸なし女からの自由だ!』と言っていたんだけど」


 一瞬、思考が止まった。


 あのばか息子、蝋人形にしてやろうか?


「そんなまさか。ロードの聞き間違いでは?」


「そうかな? そうだね。失礼。ミス・ドロシー・アスターも『ええ、あんな胸なし女、早く忘れてわたくしと結婚しましょう?』と言っていたものだから勘違いしてしまったよ」


 お前も蝋人形にしてやろうか!


 ヴィンセントとわたくしは完全に作り笑いをし合っていた。これはもうダンス室に戻ったら言いふらされているパターンかもしれない。最悪だ。けれどどうせ遅かれ早かれ広まることだ。


 わたくしは作り笑いをやめて、毅然としつつ微笑みを浮かべた。


「失礼しました。わたくしの胸が小さいという理由で婚約破棄したいそうです。ミス・ドロシーに乗り換えたいと」


「はあ。ううん。僕だったら選択を誤ったりしないけどね。君はあのふたりより頭がよさそうだし」


 ヴィンセントは困り顔からさわやかな笑顔に表情を変える。


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