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わたくし、実質この方と婚約します!

「そうですの。赤き浮き名の魔王と婚約とは寛大ですわね。まあ結婚したら愛人を作ろうが作られようが自由ですものね」


 ドロシーが無邪気に首を傾ける。貴族の結婚は後継者さえ作れば愛人がいようが自由なので、ドロシーの言うとおりだ。本当にヴィンセントと結婚したら目も当てられないことになるだろうが、完全なるうそなのでわたくしには何の損害もない。


「ええそうね。でもわたくしは家柄と財産があればいいわ。ど貧乏貴族とお幸せに。ミス・ドロシー・アスター」


「デイル伯爵家はあなたが思っているほど貧乏じゃないのよ。そのうち分かるわ。また胸で婚約破棄されないようにお気を付けてね。レディ・ヘレナ・ロビンソン」


 ドロシーがサイラスを引っ張るようにしてきびすを返す。広場の芝生の枯草色に、ふたりの後ろ姿が小さくなっていった。


 災難は去った。と、ヴィンセントと密着して手を握ったままなことに気付き、飛びのいた。密着していたことも気まずいが、高らかに『わたくし、実質この方と婚約します!』宣言をしてしまったのも気まずい。


「ええと、ごめんなさいね。勢いであなたの気遣いを台なしにしてしまって」


「いや? 嬉しかったよ。この際、事実にしてしまおうか」


「ちょっと冗談でしょう冗談! あのままあなたの言うとおりにしたら何だかあのふたりに対して面白くないからあなたの演技に乗ったのよ!」


「冗談だよ。事実にしてしまったほうが会いやすくなるけど、君まで僕の悪評に巻きこんでしまうし、兄上に闇討ちされたくないからね」


「それならよかったわ。わたくしも何人いるか分からないあなたの本命に闇討ちされたくないもの」


 ヴィンセントがあいまいに笑う。その顔付きがどことなく物悲しさを伴っていたのは気のせいだろう。


 わたくしは気恥ずかしいながらもあらためてヴィンセントを見上げる。


「まあ、あなたの心遣いはありがたく受け取っておくわ。ひとりより心強かったのはたしかよ……もちろんひとりでも言い返していたけれど」


 何だか素直ではない言い方になってしまったが、ヴィンセントはいつもどおりににこやかな表情を見せる。


「役に立てたならよかったよ。お礼に、また会ってくれる?」


 のぞきこむように白っぽい髪と顔と血の色の瞳が近付いてきて、わたくしは慌てて後ろへ下がった。


「あなた勝手にうちへ来ているでしょ。今さら聞いてどうするのよ」


「そうだね。じゃあこのまま今後も会いにいくよ」


 何だかうまく丸めこまれたが、結局言っても言わなくても来るので諦めた。


 もしかして悪評よりもまともなのかもしれないけど……はっ、優しいのと女癖が悪いのは同種だわ! 悪名高いのに実はまとも? と思わせて令嬢を落とす作戦ね? 油断大敵!


 というか、万が一に天地がひっくり返ってヴィンセントと仲良くなっても、先ほどのうそのように婚約が本当になることはありえない。なぜならわたくしには最終的にシスターになるという目標があるのだから。


 絶対に! 胸を大きくして! シスターに! なる!


 じりじりと挑むようなわたくしの視線に、ヴィンセントはわたくしの心を知ってか知らずか、いつものように何を考えているのか分からない微笑みで応じた。

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