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養女?

 たしかに、『まさかあの名前を言うのもはばかられる伯爵を呪うつもりなのかい? それなら僕が魔女に弟子入りしてかわりに呪うから、ヘレナは手を汚してはいけないよ』と青い顔で言われかねない。


「お気遣い感謝するわ」


 手元の分厚いエチケットブックをめくっていく。


 エチケットブックは中流上位階級の女性たちへ向けた指南書だ。読んだことはないが、そのくらいは知っている。ざっと確認していくと、手紙の書き方、訪問の仕方、女主人となったときの晩餐会のメニュー例、コルセットの効果的な締め方まで書かれていた。最近の本なら胸に関する情報も書かれているかもしれない。


 発行年を見ると二十年前で、これでは古すぎると書架に戻そうと再び背伸びした。ヴィンセントが本を取って戻してくれる。


「ありがとう。でもいちいち気を遣わなくて結構よ」


「何の気も遣ってないよ。困っている人を放っておくのは人としてどうかと思うよ」


 柔らかい微笑みを向けられる。『はあ』と冷めた声で言いそうになってしまうが、人として失礼なので口には出さなかった。他人行儀をやめようと言われたので、作り笑いもせず、わたくしはなるべく背表紙があせていない本を目で探す。


「ヘレナ。本当は君を傷付けたくはないんだけど、いいかな? ロード・デイルは以前からあんなに非常識だったの?」


「ただいらいらするだけだから、ご心配は無用よ。非常識というか……見ていてこちらが不安になるくらい頼りなかったから、やることが非常識といえば非常識なのかしら。ミス・ドロシーもサイラスのどこがよかったのか……家柄? ……嫉妬ではないわよ」


 念のため付け加えて隣のヴィンセントを見ると、おかしそうに笑われた。


「分かってるよ。それにしても婚約破棄とは急すぎない? 僕もそんなに事情に明るいわけじゃないけど、君たちは不仲というわけでもなさそうだったし、もっと即物的に言ってしまえば、ロード・デイルは君と結婚したほうが得るものが多い。だからなぜかなと思って」


「ミス・ドロシーの体型が好きなんでしょう? あのばか息子にとって、家柄や持参金より体型のほうが重要だった。それだけよ」


「ううん、でもはっきり言ってしまうとデイル伯爵家は資金難のはずだから、ロード・デイルのお父上、当主がミス・ドロシーとの結婚を許すとは考えにくいんだよね。アスター男爵家は突出して財産が多いわけでもないし、ミス・ドロシーは平民から男爵家の養女になったばかりだし」


「養女? それは知らなかったわ。詳しいのね」


 わたくしは書架からエチケットブックを抜き取って、ざっと見てから戻すという動作を繰り返しながらヴィンセントの話に付き合っていた。何となくこれがヴィンセントの仕事に対する利というやつなのだろうと思ったが、ヴィンセントの事情に深く関わりたくないので、拒否も質問もしないでおく。



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