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ムラクモとクシナタは森の大陸で、自動車の中でもう一泊した。
明日には、砂漠の大陸に移動するつもりだ。何が起こるかわからないから、常に体力は温存しておきたい。
しかし、いきなりたくさんのことが起こりすぎて、ムラクモもクシナタもすごく疲れていた。
ムラクモは必死にトキノマがどんなところだったか聞こうとしたが、クシナタのいうことは要領を得ず、わかりにくかった。
まず第一に、クシナタは自分がトキノマから来たことを認めようとしない。クシナタは自分が地球から来たのだということをしきりに説明しようとした。大地は球体だったのだと、そのことをムラクモにわからせようと必死だった。
ムラクモは地球というものを知らない。生まれた時からずっと平らな大地で暮らしてきたのだ。大地が球体であるということをあまり理解できない。
そして、世界の歴史が千年しかないことも、クシナタにとっては驚きだった。
六大陸世界は、誕生してから今年でちょうど千年になる。
短い。
クシナタのいた世界は何十億年の過去を持っていた。それに比べて、六大陸の歴史は短すぎる。たった千年しかない。
何なのだろう、この世界は。
クシナタはこの世界を非常に不思議がった。
一見、文明が遅れているように見えて、その実はクシナタのいた地球より遥かに進んだ技術を持っているようなのだった。
全自動工場などが、当たり前のように存在するのだった。
凄い。
この世界では、自動車や飛行機を全自動で製造しているのだ。クシナタのいた世界より進んでいる。
そのことをクシナタが口にすると、ムラクモはたいそうショックを受けて驚いた。
「そんなバカな。この六大陸の文明が、トキノマの文明よりも進んでいるだと」
ムラクモは激しい怒りにも似た驚愕の気分を味わった。
トキノマ楽園伝説はやはり嘘なのか。
ムラクモは子供の頃からの夢を砕かれそうになって、ひどくショックを受けた。
だが、この程度のことでへこたれてはいけない。
ムラクモは心に誓ったのだ。
何があろうと、トキノマへ行こうと。
ムラクモは自動車を運転しながら、混乱していた。クシナタの話を聞いても、トキノマとは何なのか、まるでわからないのだ。トキノマは、六つの大陸と同時につくられた七番目の大陸ではないのか。ムラクモの予想では、トキノマも平らな大地だとばかり思っていたのだが。
大地が丸かったというのだ。ムラクモにはまるで理解できなかった。
二人は、一日かけて森の大陸の端にまでやってきた。ここから飛行機に乗って、砂漠の大陸へ移動する予定だ。
六大陸では、大陸と大陸の間を飛行機が飛んでいて、お互いに行きかっている。
二人が自動車を降りて、空港を歩いていた時だった。
バンッ。
見えないぐらい遠くから、弾丸が飛んできた。
不意打ちだった。
油断していた。
だが、ムラクモは確実に弾丸の軌道をとらえていた。
カキンッ。
打ったあ。
これはヒット。ヒットだあ。
惜しくも、ホームランにはならなかったが、低い軌道を描いて、ムラクモに打ち返された弾丸は飛んでいった。
「何だと」
一キロ遠くで、ムラクモを狙撃しようとしたフヅキが驚いていた。
「何が起こった」
フヅキはむちゃくちゃ激しく動揺した。
まさかっ、あの男はフヅキの撃った弾丸をバットで打ち返したというのか。
そんなバカな。
そんなバカなことがあっていいのか。
いや、むしろ、これは相手を褒め称えるべきだろう。
弾丸を打ち返すほどの強打者が、この六大陸にいたとは。
標的の打力を褒め称えるべきだろう。
「強敵だ」
フヅキは呟いた。
「ムラクモか。覚えておかなければならない名前のようだな」
狙撃手フヅキは、今回の任務が容易には終了しないことに確信をもつに至ったのだった。
「失敗か。外したようだな」
タケルが望遠鏡をのぞきながらいった。
「違う。外したんじゃない。打ち返されたんだ」
フヅキがタケルの間違いを指摘した。
「打ち返した? あのバットでか?」
「そのようだ。どうやら、今回の任務は長期戦になりそうだ」
「なんだよ、それは」
仕事が長引きそうなので、タケルは落胆したのだった。




