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その政府の方はどうなっているのかというと、六大陸世界の最高会議である六人会議の場で、クシナタの拘束を阻害したムラクモは公務執行妨害の罰金刑になるだろうと相談していたところだった。
最初は、ムラクモの罪はただの罰金刑にすぎなかったのだ。
しかし、ムラクモが森の大陸の粘土板を見たという情報が入ってから、状況は一変した。
ムラクモはただの公務執行妨害ではない。
トキノマ探しの凶悪犯に認定されたのだ。
ムラクモには、トキノマ探しに相応の罰を与えることとなった。
六人会議の森の大陸の代表の直属の部下ヤマヒコがそれを担当することとなった。
ヤマヒコは部下のサクヤに、ムラクモ暗殺部隊を組織するように命令を出した。
「ムラクモ及び、クシナタを暗殺せよ」
「はい」
このようにして、腕利きの狙撃手が選抜されることとなった。
目的は、ムラクモとクシナタの射殺。
森の政府の部隊から選出されたのは、フヅキとタケルという二人組みの狙撃兵だった。
フヅキは女だ。凄腕の狙撃手でもあった。
タケルはフヅキの補助役だ。フヅキが狙撃に集中している間に、周囲の警戒や上官との通信役を請け負っている。フヅキとタケルは二人組みの狙撃手なのだ。
嫌な仕事がまわってきた、とフヅキは思った。フヅキはトキノマが何なのかをまったく知らない。フヅキも創世神話に出てくる楽園伝説くらいの知識しか、トキノマについて知ってはいない。楽園を目指すことがなぜ罪なのか。フヅキはわからないでいる。だから、思った。嫌な仕事がまわってきたと。あからさまな悪人を射殺するならいい。無差別殺人犯の狙撃だというのなら、それほどためらうつもりはない。胸を張って堂々と威張れる任務だと思う。しかし、狙撃の理由がトキノマ探しでは、いまいち自信が持てないでいる。
仕事だから撃つ。それに間違いはない。だが、狙撃手であるフヅキは時々、思うのだ。自分の仕事は正しいことなのだろうかと。政府のいいなりで、標的を狙撃している自分は、はたして正しいことをしているのだろうかと。
トキノマ探しか。
「ふう」
と、ため息を吐き出して、フヅキは上官との通信を切った。
自分に狙われることになったムラクモとクシナタの二人は、ほとほと可哀相なやつらだな、とフヅキは思ったのだった。
「それで、トキノマとは何なのかは、我々も教えてもらうことはできないんだな」
フヅキがタケルに毒づいた。
「仕方ない。これは六大陸世界に生まれたものの宿命だ。標的の二人には、運が悪かったのだとあきらめてもらうしかない」
「撃つよ。それに、間違いはない。だけど、せめてトキノマ探しがなぜ罪なのかを我々も教えてもらえればいいんだが」
「我々は兵隊だ。命令があれば、撃つしかない。トキノマの真相を知れば、我々だって、政府に狙われかねないんだぞ。トキノマに思いをはせるのはやめろ。それが長生きのコツだ。間違いない」
「命令をただ実行するだけか。そんな兵隊にはなりたくないと思っていたのだが。これが現実というものか。わたしは理由もわからずに引き金を引くのだろうな」
憂鬱なフヅキを気にもかけずに、タケルは少しだけはめを外したことをいってみたくなった。
タケルはいった。
「ひょっとしたら、これは運がよかったのかもしれないぞ。状況の転がり方次第では、おれたちがトキノマへ行けるかもしれない」
タケルとフヅキが楽園トキノマへ行くか。
フヅキは笑ってしまった。
そんな夢物語がありえる可能性は百分の一より小さそうに思えた。
「タケル。反逆罪の一歩手前だぞ。トキノマに関わるものには死を、だ。そんなことばを上に知られたら、タケルだって標的にされかねないぞ。お前が目の前で射殺されたら、わたしは泣くぞ」
「はははっ、例え話だよ、例え話。だが、考えてみろよ。わざと標的を見逃し、トキノマの道を開かせれば、おれたちだって便乗してトキノマへ行くことができるかもしれないぞ。それこそ、上には内緒の話だがな」
「くだらないことをいうな。標的は撃つ。それが仕事だからな。わたしは楽園伝説にうつつを抜かすほど、楽観的な考え方はしてはいない。理由が納得できない罪だろうと、命令があれば撃つさ。わたしはただの狙撃手だ」
「無欲だな」
「それ以上言うな。告発するぞ」
「わかったよ。万が一さ、おれたちがトキノマへ行けたらと、そんな野望をちょっとだけ考えてみただけさ。今の話はなかったことにしてくれ。命令には従う。それはおれも同じだ」
フヅキとタケルは軍用車に乗りこんだ。
標的は、ムラクモとクシナタだ。
クシナタはトキノマから来た少女なのだという。
トキノマがどんなところだったのか、聞いてみたい気がする。
だが、フヅキたちがクシナタに直接会うことはないだろう。
会う時は、狙撃銃の照準を通してだ。




