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日が暮れても、二人の乗った自動車は走りつづけていた。
「どうして、わたしが追われなきゃいけないの」
クシナタは真剣に疑問を投げかけた。
「わからない。政府が何を考えているのか、まったくわからない。だけど、なんでか、トキノマに行こうとする者は、みんな殺されるんだ。ここはそういう世界なんだ」
ムラクモが答える。
「わたしはトキノマから来たわけじゃないんだよ。地球の日本っていうところから来たの。トキノマとは関係ないんだけど」
「わからない。おれはトキノマのことはまだあまり詳しくは知らないんだ。ただ、政府はトキノマに関わった者をすべて殺そうとしている。なぜだか、わからないが、あんたが家に帰るには、トキノマの謎を解かなければ、帰れないだ」
「そんなあ。それで、あなたはトキノマのことをどれくらい知っているの」
「いや、まったく」
ムラクモは率直に答えた。
「まったくって、全然ってこと」
「そう。全然」
がっくしとクシナタは肩を落とした。
「おれはまだトキノマのことを創世神話くらいしか知らない。だけど、トキノマに関わるとされている六大陸世界の秘密を書いた六枚の粘土板が存在するらしい。その粘土板を見てまわれば、トキノマが何なのか、わかるようにできているらしいんだ」
「六枚の粘土板ねえ」
クシナタには何が何やら完全にわからなかった。
そもそも、クシナタは地球の日本から来たのであり、トキノマから来たわけじゃないのだ。そのことを勘違いしているムラクモたちの努力で、たどり着ける場所は故郷ではない気がしていた。
わたしって、どうなっちゃうんだろう。クシナタはそう思った。
「このまま、一枚目の粘土板のある位置に向かう。政府の追っ手より急がないといけないからな。急ぐぞ」
一枚目の粘土板は、森の大陸の一番大きな巨木のうろにあった。
樹齢何年になるのだろう。
その大きな木は森の大陸の象徴を思わせた。
とても大きな巨木の根元のうろに森の大陸の粘土板が置いてあった。
粘土板の元には、政府の監視役がいて、粘土板を監視していた。
誰か良からぬ者が見に来ないか、見張っているのだ。
そこへ、まさに良からぬ者であるムラクモとクシナタがやってきたのだった。
「止まれ。この粘土板は、政府に定められた者しか見ることができない。政府の許可証はもっているのか」
監視役に止められて、ムラクモは直感で思った。
強行突破しかないと。
ここで粘土板を見なければ、一生、この粘土板を見ることができない気がする。
見る機会は今しかないのだ。
「走れ、クシナタ」
クシナタはまたかと思った。
言われるがままに、クシナタは警備線を乗り越えて、粘土板のもとへ走った。
警備は比較的簡素で、突破は容易だった。
クシナタは全力で走って、粘土板に書いてある文字を見た。
ムラクモも警備員を振り払って、粘土板をのぞき見た。
『我々の住む六つの大陸は、』
粘土板にはそれだけが書いてあった。
いったいなんだ、これは。
なぜ、こんなことばが重要なのだ。
いったい、六大陸政府はなぜ、こんな文字を大切に保管しているのだ。
いったい、なぜ。
意味がわからない。
しかし、それでも、一応はそのことばをムラクモはノートに書き写すことにした。
我々の住む六つの大陸は。その先は何なのだろう。
いったい、我々の住む六つの大陸がどうしたというのだろう。
ムラクモにもクシナタにも、さっぱり意味がわからなかった。
「しまった。おれも粘土板を見てしまった」
警備員がいった。
「我々も粘土板を読むことは許されていないのだ。これで、おれもトキノマ探しの容疑者の一人にされてしまう。なんてことだ」
警備員は慌てていたので、二人はとりおさえられずにすんだ。
六枚の粘土板をすべて見れば、このことばの意味もわかるのだろう。
「どう、思う。クシナタから見て、トキノマとはいったい何だ」
ムラクモがトキノマから来た少女クシナタに尋ねた。
「どう、思うって、さっぱりわからない。我々の住む六つの大陸はって、一行が完成してないじゃない。これだけで意味なんてわかるわけないじゃない」
「そうだよな。わかるわけないよな」
「わたしって、いつ頃、家に帰れそうかな」
クシナタの問いにムラクモは素直に答えた。
「当分、無理」
「みたいだね」
クシナタは再び肩を落とした。
六大陸世界に来て、初めての夜を迎えた。
家に帰れる当てのない絶望的な夜だった。
二人は自動車の中で眠った。




