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トキノマから来た少女がいるというので、六大陸世界は大騒ぎになった。
ついにトキノマが見つかったのか。
気の早い者たちはトキノマ発見の知らせだと勝手に勘違いしていた。
つづいて、政府の決定が広報されていった。
トキノマに関わるものには死を。
それが政府の決定だと広報された。
ムラクモは走った。全速力で走った。急がなければならない。政府よりも早くその科学者と少女に会わなければ、とりかえしのつかないことになる。
ムラクモは走った。
ムラクモには勘でわかっていた。このまま放っておけば、科学者と少女は殺されると。そんなことをさせるわけにはいかない。
ムラクモはまだトキノマが何なのかわからないでいる。
しかし、それでも、トキノマの真実を知った者たちが、みんな、トキノマに関わるものには死を、と決断していくことが理解できないでいた。
トキノマ伝説の真相がどんなものであろうと、おれはトキノマへ行こう、とムラクモは考えていた。
だから、トキノマへの道を開いたとされる科学者を救出して、トキノマへの行き方を教えてもらわなければならない。
科学者の研究所は森の大陸の端にあった。ムラクモは乗り物を乗り継いで、研究所までやってきた。
研究所の周りには、ズサとクシナタを拘束するための兵隊が結集しているところだった。全員がそろい次第、研究所に突撃するつもりだった。
ムラクモは科学者と少女がまだ研究所の中にいるのを見た。
間に合った。
まだ、二人は連行されてもいないし、殺されてもいない。
ムラクモは特製の超合金の金属バットを一本持ってきていた。
ムラクモは金属バット一本で兵隊たちの張っている警備線を突破しようとしたのだった。
じゃじゃじゃじゃーんっと、ムラクモの登場だった。
ムラクモは金属バット一本を持って、兵隊たちの警備線を乗り越えようとした。ムラクモは兵隊たちを踏みつけて、兵隊たちの警備線を突破した。
「不審人物が、標的に接近。突撃しますか。指示を」
兵隊が上官に命令を仰ぐ。
命令が出るまもなく、ムラクモをとりおさえようと、大勢の兵隊たちがムラクモに襲いかかってきていた。
「急げ。逃げるんだ。このままじゃ、あんたたちは一生、閉じこめられてしまうぞ」
ムラクモが叫んだ。
「なぜ、わたしらを助けてくれるのかね」
「そんなことよりも、どうしてわたしが殺されかけてるのよ。いったい、わたしがこの世界で何をしたわけ」
「おれも行ってみたいんだ。トキノマへ」
ムラクモは大声で答えた。
「トキノマ探しは死刑に値する重罪だぞ」
「わたしはトキノマから来たんじゃない」
「それでも行く。この世界の本当の姿を何も知らされずに生きるよりは、トキノマの謎を解いてみたい」
ムラクモは答えた。
「あんた、粘土板を何枚見た」
「一枚も見ていない」
ムラクモがズサの質問に答える。
「わたしは三枚見た。だが、三枚では意味がわからない。トキノマを目指すのなら、粘土板を六枚見るのだ」
「ああ」
ズサの意見にムラクモが同意する。
「あんた、名前は」
「ムラクモだ」
「わたしは、ズサという」
「そうか」
二人はお互いの名前を確認した。
「そして、千年前の書類をもとに実験器具をつくれ。それ以外にトキノマへ行く方法はない」
「それは、本当か」
ズサの意見にムラクモが懐疑の意思を示す。
「絶対にだ。先人の知恵を無駄にするな。千年前の書類が存在することはまちがいない」
「わかった」
ムラクモが二人を研究所の外へ連れ出した。
「ちょっと待ってよ。わたしの意見はどうなるのよ」
トキノマから来たという少女クシナタのことばに、ムラクモが振り返る。
「わたしは、家に帰りたいんだけど。帰れるのかなあって。あはははっ」
クシナタが力弱く笑ってみせる。
「本当にトキノマから来たんだな」
「ああ、まちがいない。トキノマから来た女だ」
ムラクモの問いにズサが答える。
「だったら、帰してやるよ。絶対にトキノマへ」
そのムラクモのことばに、クシナタは激しく不安になった。
なぜ、ズサとムラクモの二人は、クシナタがトキノマから来たことにしているのだろう。クシナタはトキノマではなく、地球の日本から来たのだが。
この六つの平らな大地でできた六大陸世界とは、クシナタは縁もゆかりもないはずなのだが。
本当に無事に家に帰れるのだろうか。
クシナタは激しい不安の中で、まわりの兵隊たちを見た。
「逃がすな。逃げるようなら殺してもかまわん。射殺しろ」
兵隊の隊長が叫んでいる。
「トキノマに関わるものは皆殺しにしろ。命令だ」
やばい。いつの間にか、クシナタまで射殺されそうになっている。
クシナタには、自分になぜこんな状況に陥ってしまったのか、見当もつかないでいたのだ。
死ぬかも。クシナタは本気でそう思った。
「突破するぞ」
ムラクモがクシナタの手を握って、引っ張った。クシナタは引っ張られるがままに走った。
だが、危ない。
兵隊の銃口がクシナタに向けられた。
撃たれる。
危険だ。
もう駄目か。
救出は失敗か。
バンッ。
銃声が響いた。
弾丸は時速九百キロほどでクシナタに向かって飛んだ。
カキンッ。
ホームランだあ。
ムラクモの金属バットが弾丸を正確に打ち返していた。
第一打席から、ムラクモは絶好調だあ。
「危ない。あいつら、本気であんたらを殺す気だぞ。急いで逃げろ。時間がない」
ムラクモが二人をせかす。
三人とも、兵隊の人数の少なそうな場所へ向かって全力で走った。
再び、銃口が今度はズサに向かって向けられた。
撃たれる。
危険だ。
バンッ。
銃声が響いた。
弾丸は時速九百キロでズサに向かって飛んだ。
カキンッ。
ホームランだあ。二打席連続でホームランだあ。
ムラクモの金属バットが弾丸をまたもや正確に打ち返す。
「突破するぞ」
兵隊の警備線を乗り越えようとする三人。
「捕まえろ」
と兵隊たちの声が轟く。
「わたしのことは気にするな。お前たちで先に行け」
と、突然、ズサが言い出した。
「わたしが囮になろう。お前たち二人は逃げるんだ。この子を必ずトキノマへ帰してやってくれ」
ズサが兵隊たちの前に立ちふさがる。
「くっ」
反論して話し合っている時間もない。
警備線を突破した二人は、ズサを置いて、必死になって走った。
ズサはわざと捕えられて、暴れた。
もう、何が何だかわからなかった。
クシナタは死にそうになるぐらい本気で走ったし、慌てて自動車に跳び乗った。
ムラクモがすぐ前で手を引っ張っていた。
自動車の形は、クシナタが見たこともないような斬新な形の自動車だった。横幅より高さが長い、奇妙な形の自動車だった。
自動車に乗ると、ムラクモが運転して、道をかっ飛ばした。
どうやら、兵隊たちからは逃げきったようだった。




