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バンッ。
ある日、ムラクモはクシナタに向かって飛んでくる弾丸に気づいた。
カキンッ。
手に持っていた金属バットで、その弾丸を打ち返した。
ヒットだあ。ヒット。
弾丸は鋭い低い弾道で打ち返された。
「まずい。ついに、敵に気づかれたみたいだ」
ムラクモはうめいた。
「どうしよう。今日は逃げるわけにはいかないよ」
クシナタが不安気に答えた。
せっかくつくりかけた実験装置を見捨てて逃げるわけにはいかない。
狙撃部隊と長期戦で向かい合うことになった。
まずい。
ムラクモは焦った。
狙撃しているのは、フヅキだった。
そばにタケルも控えている。
フヅキはフヅキで焦っていた。
ようやく標的を発見したと思ったら、再び、第一発目を打ち返されたのだから。
これが最終決戦だ。
フヅキとムラクモは、一キロの距離を隔てて、向かい合ったのだった。
ムラクモはいつでも打ち返せるように、バットを構えて立った。
ムラクモに護衛される形で、実験器具はクシナタ一人で組み立てていった。
フヅキとムラクモの対決だ。
勝つのはどっちか。
政府の命令を受け、トキノマへ行こうとする者を抹殺するべく派遣された狙撃兵フヅキか。
それとも、トキノマへ行くという夢を追いかけて、六大陸世界をめぐって真実の断片を集めてきたムラクモか。
勝負は、張りつめたように緊張した空気のなかで展開された。
いつもどおりに狙撃銃を構えるフヅキ。
一方、いつもとはちがって、ぶらぶらとバットを揺らすかのように弾丸を待ちかまえるムラクモ。
勝負の行く末は、どっちだ。
バンッ。
フヅキはクシナタに照準を定めて、撃った。
カキンッ。
打ったあ。ホームランだあ。
ムラクモが飛んできた弾丸を真芯で捕えて打ち返した。
打った弾丸は大きく周りの建物を飛び越えて、飛んでいったあ。
一球目の勝負は、ムラクモの完勝だ。
確実に、弾丸を打ち返していた。
ムラクモ側に二点入った。
しかし、今日のムラクモは気を抜くことができない。
なぜなら、ここから逃げることができないからだ。
実験器具を見捨てて逃げるわけにはいかない。
追いつめられたムラクモ。
さあ、どうする。
悩むムラクモ。
一方、フヅキは狙撃銃の照準をムラクモに合わせる。
バンッ。
撃った。
カキンッ。
打ち返したあ。
またしても、ホームランだあ。
二打席連続のホームランが飛び出したあ。
これが野球なら、ムラクモの圧勝だが、しかし、勝負はまだ決まらない。
フヅキは相変わらず、照準を二人に合わせつづける。
次の狙いは、クシナタだ。
焦るムラクモ。
戦いは長期戦に入った。
バンッ。
四発目の弾丸がクシナタに向かって飛んだ。
カキンッ。
再び、途中に立ちふさがるムラクモが弾丸を打ち返した。
ファールだ。
打球は大きく弧を描いて、右側に曲がっていった。
クシナタはああでもない、こうでもないと、実験器具を組み立てるのに四苦八苦していた。
まだ完成までにはだいぶかかる。
このままでは、いつか撃たれる。
夜になった。
暗闇のなか、作業場だけが電灯で明るくなっている。
ムラクモはバットを構えて、ずっと立ちつづけた。
いつ弾丸が飛んでくるかわからない。
クシナタは、丁寧に設計図どおりに実験器具を組み立てていく。
作りまちがいは許されない。
慎重で確実な作業をしなければならない。
作業がその日のうちに完成するわけがなかった。
ムラクモは眠ることもできずに、立ちつづけていた。
バンッ。
と、隙を突いて、時々、弾丸が飛んでくる。
カキンッ、とムラクモはそれを打ち返すだけだ。
ムラクモは眠ることができない。
一晩中、立ちつづけていた。
一方、夜がふけると、フヅキは寝袋で眠りについた。
目が覚めてから、撃ち殺せばいい。
タケルと見張りを交代することにして、睡眠をとることにした。
ムラクモは状況がかなり危険なことに気づいていた。
ムラクモが睡魔に負けて眠った時が、二人の最後のような気がした。
実験装置は一日や二日で完成するものではない。
クシナタが熟睡するなか、ムラクモはひとり、狙撃を恐れて周りを見張りつづけていたのだった。
ムラクモはひとり、一睡もできなかった。
クシナタ、フヅキ、タケルはそれぞれが充分に睡眠をとることができた。
夜、試しにフヅキがムラクモを狙撃してみた。
バンッ。
昼間と違い、暗いため、弾丸が見えづらい。
しかし、ムラクモの動体視力は電灯の灯りだけで充分に弾丸を発見していた。
カキンッ。
大きなホームランをムラクモは打ち返した。
朝になった。
さすがに眠い。
ムラクモは二晩目はもうもたないだろうと予想していた。
「クシナタ。こっちから攻めるぞ。ついてきてくれ」
ムラクモは作業であまっている紐をポケットに入れた。
朝、ムラクモたちの方から、狙撃部隊を襲撃することにした。
実験装置を作るのを一時中止して、建物の陰に隠れた。
そして、ムラクモたちは、狙撃部隊のいる位置を目指して、移動を開始した。
ムラクモが眠ったら殺されてしまう。
ムラクモは自分が眠るより前に狙撃部隊を拘束する作戦に出た。
ムラクモたちが狙撃部隊に近づいた。
狙撃部隊の二人は、標的がこちらに向かって移動しているのを見た。
好都合だ。
近くに来るなら、そのまま撃ち殺してしまおう。
フヅキはムラクモたちに照準を合わせて、狙い、弾丸を撃った。
バンッ。
カキンッ。
ホームランだ。
ムラクモは一晩徹夜だったにも関わらず、集中力を乱さずに、確実に弾丸を打ち返した。
ムラクモはそのまま、十打席連続ホームランをかっとばした。
フヅキの額に汗が流れた。
ムラクモたち二人は、今や、フヅキの目の前、二十メートルの位置にまで近づいてきていた。
四人の二度目の対面だ。
今まで照準越しには何度も向かい合った四人ではあったが、直接、向かい合うのはこれが二回目だった。
ビル群の大陸で遭遇して以来だ。
「やっと見つけた。今までさんざん、撃ちたい放題、撃ってくれちゃって、今日という今日は許さないからな」
ムラクモがいきりたった。
「ふっ、わざわざ、そっちから撃たれにやってくるとは、おめでたいやつらだ。この距離でわたしの弾丸を打ち返せるかな」
フヅキが照準をクシナタに合わせた。
「うおりゃあ」
ムラクモがかけ声とともに突撃を開始した。
バンッ。
弾丸がクシナタに向かって飛んだ。
カキンッ。
打ったあ。
またもや、ホームランだあ。
ムラクモは弾丸を打ち返しながら、二十メートルを全力で走った。
そして、フヅキの狙撃銃をつかんでとりあげた。
「ちいっ」
フヅキが舌打ちをする。
慌てて、タケルがムラクモを射殺しようとする。
バンッ。
カキンッ。
三メートルの距離で撃たれた弾丸をムラクモは打ち返した。
「おりゃあ」
ムラクモは金属バットでタケルを小突いて、タケルの銃もとりあげた。
そして、フヅキとタケルの二人を紐で拘束した。
これで、安心して時空実験装置を組み立てられる。
「標的に拘束された。応援を頼む」
タケルが通信機で上層部に通信をとった。
タケルの通信を聞いているのは、サクヤだ。




