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トキノマ  作者: 木島別弥
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 翌日の朝、予想外の来訪者があった。

 森の政府の役人がムラクモたちのもとを訪ねてきたのである。

 サクヤだった。

 サクヤは、滝の大陸の政府から、ムラクモたちの目撃情報をもらっていた。

 その目撃情報により、ムラクモたちを追跡する部隊を新しく新設していた。

 そして、フヅキやタケルに内緒で、ムラクモたちがどの宿泊所に泊まったのかを調べ出したのだった。

 調査は迅速にかつ正確に行われた。

 その日のうちに、ムラクモの泊まった宿泊所の位置が報告されていた。

 新設した追跡部隊はすぐに解散させた。

 誰かに知られたらまずいからだ。

 サクヤが直接、標的を訪問することを、上司には絶対に知られるわけにはいかない。

 サクヤは一人で、ムラクモたちの部屋へやってきた。

「開けてくれないか。トキノマのことで話がある」

 サクヤは単刀直入に話を切り出した。

 トキノマと聞いては、ムラクモも追い返すわけにはいかない。

「誰だ」

 ムラクモは相手を怪しがって、部屋の扉を開ける前に質問した。

「悪いが、こちらの身元を明かすわけにはいかない。これは極秘での面会だ。お互いに情報交換をしないかと思ってやってきた。トキノマについて、情報交換をしないか」

 ムラクモは困って、クシナタを見た。

 クシナタはうなずいた。

「いいんじゃない。トキノマ探しの仲間だよ」

 確かに、一緒にトキノマを探そうというのなら、ムラクモも仲間を増やすことに賛成だ。

 しかし、それにしても時期がよすぎる。

 六枚の粘土板がそろった日の翌日に訪問者が来るとは。

 誰かがムラクモたちを見張っていたとしか考えられない。

「よし、入れ」

 ムラクモが部屋の扉を開けた。

 入ってきたのは、女だった。

「まず、聞くけど、あんたは誰だ」

「それには答えられない。トキノマ探しの隠れた協力者だといっておこう」

 サクヤは自分の名を伏せた。

 隠密の訪問だ。

 本来なら、ここでサクヤは二人を射殺しなければならないのだ。

 しかし、サクヤは今日は銃を持ってこなかった。

 丸腰だ。

 あくまでも目的は情報交換にあるのだから。

「トキノマ探しの協力者か。あんたがおれたちにいったいどんな情報をくれるんだ」

「それはわからない。だが、知っていることであるならば、できるかぎり答えよう。その代わり、あなたたちが手に入れたといわれる六枚の粘土板の情報が欲しい。協力してくれ」

 サクヤは落ち着いていった。

 怪しい。

 やってくる時機がうますぎる。

 ムラクモたちが六つのことばを集め終わった次の日にやってくるとは。

 しかし、ムラクモたちは別に自分たちが手に入れた粘土板の情報を隠そうというつもりはまったくないのだ。

 たまたま政府が禁止しているから、あまり大騒ぎしないだけで、本当は、自分たちが手に入れた粘土板のことばを大宣伝してまわりたい気分なのだった。

 トキノマ伝説の真相を何も自分たちだけで独占している必要はない。

 知りたいものがいるのならば、どんどん教えてもかまわないのだった。

 ムラクモは考えた。

 まだ、ぜひ知っておきたいことがひとつだけあった。

 それを教えてもらえれば、非常に助かる。

「千年前の書類がどこにあるのかを知りたい。教えてくれないか」

 ムラクモがいった。

 サクヤはびっくりした。

 いきなり、政府の上層部しか読むことを許されないもののありかを聞いてきたからだ。

 質問が的確だ。

 ムラクモはトキノマ探しをするのに必要な情報を、余計なものに惑わされることなく追いかけている。

「教えよう。その代わりに、六つの粘土板のことばを教えてくれ」

 サクヤは答えた。

「わかった。それでいい」

 ムラクモが承諾する。

「千年前の書類は、森の政府が保管している。時空実験保存館の研究室に保管してあるはずだ」

「森の大陸の時空実験保存館だな。わかった。じゃあ、代わりに粘土板のことばを教えてやるよ。これだ」

 ムラクモは自分のノートをサクヤに見せた。

 サクヤはそれを見て、その内容が本物らしいので、満足した。

「すまないが、書き写させてもらう」

 サクヤは持っていた紙にペンで粘土板の六つのことばを書き写した。

「それで、あなたたちはこのことばの意味がわかったのか」

 サクヤが聞いた。

「いいや、まだこのことばの意味が理解できずに悩んでいるんだ」

 ムラクモが答えた。

 わからないのか。

 意味がわからないのならば、わざわざこの二人を殺す必要はないのではないか。

 ははははははっ。

 サクヤは心の中で笑った。

 二人がこのまま愚かなままであれば、本当に射殺命令を撤回してもよいのではないか。

「この謎が解けるまでは、我々は仲良しだな」

 サクヤがいった。

「どういう意味だ」

「なあに、気にすることはない。なんでも、すべてがわかったものから見れば、人類の存在そのものが悪なのだそうだ。トキノマに関わらずとも、人類など絶滅させてもよいのだそうだ。なぜだか、わかるか」

「いいや」

「わたしにもわからないのだ。わたしは、それがなぜだか知るために今日、ここへ来たのだ。充分に収穫はあった。協力に感謝する」

 サクヤは手を出して、握手を求めた。

「こちらこそ」

 ムラクモも手を出して握手に答えた。

 お互いにそっと手を握った。

「あなたたちは命を狙われている。わたしはあなたたちの無事を祈っている」

 サクヤがいった。

「そんな。いっておくけど、この粘土板のことばを知ったら、あなただって命を狙われるよ。気をつけてくれよ。なぜか、政府はトキノマ探しをする者たちを殺そうとするんだ」

「ああ、気をつける。わたしも、なぜ、政府があそこまで頑固にトキノマ探しを根絶しようとするのかを知りたかったのだ。それだけだ。今日はありがとう。非常に助かった。それでは、これで失礼することにするよ」

 サクヤは握っていた手を離し、部屋から出ていった。

 ムラクモとクシナタは、サクヤの無事を祈って見送った。

 まさか、サクヤが二人を抹殺しようとしている責任者なのだとは知るよしもなかった。

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