20
ムラクモとクシナタは、滝の大陸に到着した。
二人はその大陸のあまりの絶景に魅せられていた。
地平線の彼方まで、滝がつづいている。
大陸全体が二つに割れており、その上側の水が下側に落ちつづけていた。
六大陸が誕生してから、千年たっても、上側の水が尽きることはなかった。
千年かけて、上側の水が下側に落ちつづけている。
巨大な滝の景色に二人はしばし呆然となる。
「きれいなところ」
クシナタが感想をもらす。
「さあ、早いところ、滝の大陸の粘土板を見に行くぞ。どうやら、粘土板は滝の裏側にあるらしい」
ムラクモは有頂天だった。
もうすぐ六枚の粘土板を見ることができる。
政府の関係者以外で、六枚の粘土板を見るのは、ムラクモたちが初めてなのかもしれない。
ムラクモはひょっとしたら、六大陸一、トキノマに近づいた人になるかもしれないのだ。
嬉しくてしかたがない。
もうすぐ、ただの伝説として伝え聞くだけだったトキノマの正体が、現実のものとなって、ムラクモの前に姿を現すのだ。
ムラクモとクシナタは落下しつづける滝の水を見た。
この滝を越えて、滝の裏側にいかなければならない。
「大丈夫かな。この水量だぞ。滝の重さに押し流されるかもしれない」
ムラクモがいう。
「行くしかないよ」
クシナタがいう。
「そうだな。行くしかないな」
そう答えて、ムラクモが滝に向かって足を踏み出した。
ざばっとムラクモの体に水が落ちてくる。
ムラクモはなんとかこらえようとした。
ムラクモが滝の向こう側へ行ってから、また帰ってくる。
「大丈夫。踏ん張れば、なんとか越えられるぐらいの水の量だ」
ムラクモがいう。
クシナタもそれを聞いて、思い切って、滝の裏側へ抜けようとした。
ざばあっと水が肩の上にのしかかってくる。
そのまま足をこらえて、滝の向こう側に抜けた。
滝の裏側に来ると、景色が水越しに見えた。
またしても、絶景だ。
落ちてくる滝の水が光を反射して、光って見える。
二人はそのまま、手をつないで、粘土板のある祠まで歩いた。
どどどどどどっと地響きのような滝の音がずっとしている。
半日ぐらい歩いただろうか。
警備員が護衛している粘土板のある場所までやってきた。
「やっと来たって感じだな。いよいよ最後の粘土板だ」
ムラクモが突撃の前に気合を入れる。
ムラクモは超合金の金属バットを構えて、クシナタの前に立って歩いた。
少しづつ粘土板に近づいていく二人。
警備員が二人に気づいて、警告を出した。
「止まれ。それ以上、近づくと発砲するぞ」
警備員が十人ぐらいいる。
うちの一人はすでに銃を抜いて構えていた。
ムラクモは、慎重に歩いて、粘土板に近づいていく。
クシナタは、そのすぐ後ろを、ムラクモの服をつかんでついていく。
「この二人、最近、他の大陸の粘土板を荒らしまわっているっていう例の二人組みじゃないんですかねえ」
警備員のひとりがいう。
粘土板の警備員たちの間で、ムラクモとクシナタは最近、話題になっていた。
「あの五ヶ所の粘土板を見たっていう二人組みか。だったら、ここが最後の砦じゃないか。お前ら、気を引き締めて防衛しろ」
警備員がムラクモの前に立ち並んで、壁をつくる。
五人の警備員が並んで、銃を抜いて構えた。
やばい。
五発同時に飛んできたら、さすがのムラクモでも打ち返せるかわからない。
クシナタは緊張して、ムラクモのすぐ後をついていく。
自分がムラクモの足を引っ張っているのを感じる。
自分が邪魔で、ムラクモは素直に突撃できないでいる気がした。
バンッ。バンッ。バンッ。
警備員たちが発砲し始めた。
カキンッ、カキンッ、カキンッ。
ムラクモが打ち返した。
ファール、ファール、ファール。
三球連続でファールだ。
ヒットは出ない。
弾くので精一杯だ。
「行っていいよ、ムラクモ」
クシナタが小声で突撃をうながした。
「ああ」
ムラクモも小声でそれを了承する。
「行くぞ」
ムラクモが小声でいって、走り出した。
「止まれ。止まらないと撃つぞ」
そう叫ぶ警備員に向かって、ムラクモは全力で走った。
これが最後の粘土板だ。
ここで負けるわけにはいかない。
バンッ。
ずっと前に立ちふさがっていた警備員が発砲した。
カキンッ。
鋭い打球だ。
右の崖に弾丸はめりこんだ。
走ってムラクモは粘土板を見る。
ゆっくり見ている時間がない。
バンッ。
よく見る前に弾丸を発砲された。
ムラクモは振り返りながら、ぎりぎりで弾丸を打ち返した。
カキンッ、と鋭い打球が滝を突き抜けて飛んでいく。
そして、急いで粘土板を見た。
『地球の欠片である。』
覚えた。
すぐに警備員たちの方へ振り返るムラクモ。
バンッ。バンッ。
と二発の弾丸がムラクモに向かって飛んでくる。
カキンッ。カキンッ。
と、ムラクモが打ち返した。
ファール、ファールだ。二球連続でファール。
打球が前に飛ばない。
「逃げろ。クシナタ」
ムラクモが叫んで、粘土板のもとから走り出した。
行く手をさえぎる警備員がムラクモに向かって発砲する。
バンッ。
銃声がした。
カキンッ。
大きい。
これは大きく打ち返した。
ひさしぶりのホームランかあ。
打球は滝を突き抜けて、遥か彼方へ飛んでいった。
ムラクモがクシナタの隣まで走ってくる。
「なんて書いてあったの」
クシナタが聞く。
地球のことが心配で一刻も早く内容が知りたい。
「地球の欠片だってさ」
「何?」
それから、二人で全力で走った。
ムラクモは後ろを向きながら走り、飛んでくる打球を打ち返す。
クシナタはムラクモの手を握って、後ろを向いたままのムラクモを前へ誘導する。
バンッ。バンッ。
警備員は粘土板から離れることなく、遠くから銃を撃ってくる。
トキノマを探すものには死を。
最近では、警備員でも知っている命令だった。
カキンッ。カキンッ。
ムラクモが転びそうな体勢で、弾丸を打ち返す。
再び、二球ともファールだ。
弾丸を前に打ち返せない。
だが、まだムラクモは打率十割を維持している。
まだ、ムラクモには空振りは一発もないのだ。
まあ、空振りが一発でもあったら、その時点でムラクモの命が無事ですむ可能性は低いのだが。
粘土板を離れるわけにいかない警備員たちを尻目に、ムラクモたちはだんだんと遠ざかっていった。
もう、警備員の腕では二人に命中させるのも難しいぐらい遠くまで、二人は逃げてしまった。
警備員たちは、できることはした。
あとは、二人の抹殺はもう警備員の仕事ではない。
政府が任命したという狙撃部隊の仕事だ。
確かに、警備していながらも粘土板を見られるという失態を演じてしまったが、これ以上の追跡は任務外だ。
「粘土板を目撃された上で、逃亡されました」
随分と情けない報告を、警備員は上層部に報告していた。
完敗だったと、つまりはそういうことだった。
何のために警備員を配置していたのかもわからない大失態であった。
滝の大陸の粘土板を目撃されたことがサクヤのもとへ報告されていた。
これで、六枚の粘土板すべてをムラクモたちに見られたことになる。
どうなるんだ。
あの二人はトキノマへ行くのか。
サクヤは報告を受けとりながら、そんなことを考えたのだった。




