18
二人は、山を降りる途中、再び寝袋で一泊した。
六大陸一高い山というだけあって、そう簡単に降りれる山ではなかった。
クシナタは新しく見つかった粘土板のことばにひどく衝撃を受けていた。
『地球という惑星が壊れた。』
粘土板にはそう書いてあった。
「わたしの故郷は地球なんだよ。その地球が壊れただなんて、嘘だよね。地球が壊れたんじゃ、わたし、家に帰れないじゃない」
クシナタの頬を一粒の涙がつたって落ちていった。
「おれには、いまいち地球っていうのが何なのかわからないから。だから、答えようがないなあ」
ムラクモがいう。
「人は平らな大地にしか住めないものだぞ。球体の大地に人が住んでいるなんて話は聞いたことがないよ」
ムラクモのことばにますます衝撃を受けるクシナタ。
自分と同じ境遇のものがこの六大陸世界にはひとりもいないという孤独感に襲われた。
なぜ、わたしはここにいるのだろう。
とても不思議だ。
わたしをここへ連れてきた男の名は、ズサといっただろうか。
生きているのなら、政府に捕えられて、どこかに監禁されているはずだ。
なぜ、わたしだけがこの世界に連れてこられたのだろう。
地球を壊したのは、いったい誰だ。
地球が壊れた後、いったいどうなったのだろう。
わたし以外の人々は無事なのだろうか。
ひょっとして、みんな死んでしまったんじゃないだろうか。
わたし一人だけが助かったのだろうか。
そんなことをクシナタは思い描いた。
楽園伝説など、もうどうでもいい。
壊れた地球がどうなったのかだけが知りたい。
地球は無事なんだろうか。
それとも、粘土板に書いてあるとおりに、本当に壊れてしまったのだろうか。
「しかし、粘土板にはトキノマってことばはひとことも出てこないなあ。こんなことで、本当にトキノマへ行けるのかなあ」
ムラクモがいう。
今はそんなことばは聞いていたくない。
地球が壊れたんだ。
誰かが地球を壊してしまったんだ。
地球が壊れたというのに、何が楽園へ行きたいだ。
地球を放っておいて、楽園なんかに行きたいわけがない。
「念を押しておくけど、わたしは家に帰りたいんであって、トキノマに行きたいわけじゃないんだからね。そのことはよく覚えておいてよ」
クシナタは機嫌が悪くなった。
「おれたちは政府にトキノマ探しの罪で追われているんだから、六大陸世界には安住の地なんてないんだけどなあ。地球でもトキノマでもどっちでもいいから、この六大陸世界から出る以外に、自由で安全に暮らしていける場所なんてないよ」
ムラクモがいう。
「もう、のんびりとはしてられない。早く、六枚目の粘土板を探そう。わたしには不思議。地球が壊れたことを知っているこの世界っていったい何なの。すっごく不思議」
クシナタがいう。
「トキノマへ行くのはおれの夢なんだ。あと、一枚。あと一枚の粘土板で、トキノマ伝説の謎が解けるんだ。あと一枚だ。やっと来たって感じだなあ」
ムラクモはクシナタの落胆とはちがい、もう少しで六枚の粘土板をすべて見てまわれることを喜んでいた。うきうきしているムラクモと、いらいらしているクシナタ。二人の気分は両極端だった。
だが、求めるものは一緒だ。
早く、六枚目の粘土板が見たい。
今までに見てまわった粘土板は五枚。
その内容は、
『我々の住む六つの大陸は、』
『人類の行った時空実験によって、』
『西暦2099年、』
『その時空実験で砕けた』
『地球という惑星が壊れた。』
の五つだ。
粘土板にはトキノマということばは直接は出てこないが、何やらその存在をにおわせるようなところがある。
六つの粘土板を見てまわれば、政府が隠している六大陸世界の真実の歴史が解明されるのだ。
今年は六大陸歴1000年である。
いったい、トキノマ伝説の真実とは何なのか。
そして、政府がトキノマ探しをする者たちの命を狙う理由とは何なのか。
多くの謎を残したまま、二人は最後の粘土板を求めて、滝の大陸に行く飛行機に乗った。
山脈の大陸から、滝の大陸へ飛行機で移動する二人。
六つの平らな大地が飛行機の窓から見える。
宇宙に浮かぶ六つの平らな大地が神秘的で美しい。
何としてでも、家に帰らなければ。
クシナタの心は望郷の思いでいっぱいになる。
地球が壊れたと知らされての、動揺が激しい。
そして、数時間後には、二人は最後の大陸である滝の大陸に到着したのだった。




