17
ムラクモとクシナタは、海の大陸の空港へ行った。
そして、飛行機に乗って、海の大陸から山脈の大陸に移動した。
山脈の大陸は、山しかない大陸だ。
大陸に何十という数の山がそびえ立っている。
山脈の住人に聞いたところによると、粘土板はいちばん高い山の頂上に置いてあるそうだ。
今度は、山登りをしなければならないようだ。
二人は防寒具を買い、山登りの装備を整えた。
山の頂上とは、また面倒くさいところに粘土板を置いたものである。
次で、五枚目の粘土板になる。
政府の追っ手をまきながら、よくここまで来たものである。
「準備ができたなら、早く登るぞ。また、いつ追っ手がやってくるかわからないからな」
ムラクモがのんびりしているクシナタをせかした。
ぶ厚い防寒具に身を包みながらも、金属バットを右手に持ったムラクモの姿はちょっと異様だ。
ムラクモは、どこへ行くにも金属バットを持ち歩くおかしな男である。
しかし、その金属バットが今まで二人の命を救ってきたのだと思うと、抱きしめたいぐらい大事なバットのような気がしてくる。
二人は山脈の大陸に着いた早々、六大陸一高い山を歩いて登り始めた。
「頂上まで送ってくれるヘリとかがあればいいんだけどなあ」
ムラクモが山登りに文句をつける。
「六枚の粘土板を見ることができたら、わたし、ちゃんと家に帰れるのかなあ」
クシナタが普段から思っている不安を口に出した。
「帰るさ。まかせとけよ」
ムラクモが根拠のない返答をする。
正直、今までの四枚の粘土板だけでは、トキノマ伝説の謎はほとんど解けないでいるのだ。
どうやら、誰かが時空実験を行ったことは確かなようなのだが、いったいどんな実験で、どんな結果に終わったのかがわからない。
それがわからないかぎり、トキノマの謎は解けない。
ムラクモたちの心配を寄せつけないかのように、六つの平らな大地は悠然と宇宙に浮かびつづけるだけである。
登山は困難を極めた。
一日では登りきることができなかったのである。
まさかの事態に陥った。
こんなこともあろうかと寝袋は持ってきているのだ。
二人は寝袋の中に入り、凍える中で寒さに必死に耐えながら、眠れない夜を過ごした。
夜の間、ずっと、がたがたと寒くて震えていた。
登山の装備があまかったようだ。
もっと暖かく眠れるような寝袋を用意するべきだった。
それでも、二人とも、いつの間にか眠りに入ってしまった。
普段の緊張した雰囲気で、気持ちが疲れているのだろう。
二人は寝袋の中で眠りにつき、次の日、目を覚ました。
「登ろう。時間がもったいない。急がないと、政府の追っ手が来るかもしれない」
ムラクモはいった。
二人はえんえんと山を登りつづけ、ついに頂上付近にまでやってきた。
頂上のそばに、政府の監視小屋があった。
政府は、頂上のそばに監視小屋を設立しており、粘土板を見に来るものを監視していたのだった。
ムラクモはまた思った。
強行突破しかないと。
「走れるか」
ムラクモがクシナタに聞いた。
「大丈夫」
クシナタが答えた。
二人は疲労のたまった足で、頑張って走った。
「止まれ。ここは立ち入り禁止地区だ」
警備員が二人の前に立ちふさがる。
「どいてもらうよ」
ムラクモが警備員を押し倒し、粘土板に向かって突進する。
「止まれ。止まらないと撃つぞ」
警備員たちが銃を抜き始めた。
いくつもの銃がムラクモとクシナタに狙いを定めている。
「粘土板だ」
ムラクモが大声を出した。
何よりも先に粘土板を見なければならない。
ムラクモが銃を警戒しているため、粘土板を見る隙をつくれないでいる。
それで、クシナタが先に粘土板を見た。
書いてあったことばは次のとおりだ。
『地球という惑星が壊れた。』
そのあまりにも衝撃的な内容にクシナタは意識がとぶかと思うくらいめまいがした。
どういうことだろう。
地球が壊れたとは、どういうことだ。
クシナタは地球からやってきたのだ。
クシナタの気づかないうちに、地球が壊れていたとは。
探そう。
早く探そう。
もう一枚の粘土板を。
そして、帰ろう。
地球へ。
地球へ帰れば、この文章の意味がわかるかもしれない。
この六大陸世界は、クシナタの知らないうちに、地球を破壊していたのだ。
許せない。
この六大陸世界が憎い。
バンッ。
警備員が粘土板を見ているクシナタに向かって発砲した。
カキンッ。
と、いつものようにムラクモが弾丸を打ち返す。
バンッ、バンッ、バンッ。
弾丸が次々と発射される。
カキンッ。カキンッ。カキンッ。
とムラクモが次々と打ち返す。
隙を見て、ムラクモは粘土板に向かって振り向いた。
『地球という惑星が壊れた。』
と書いてあった。
ムラクモには、何のことだかさっぱり意味がわからない。
「逃げるぞ」
ムラクモが小さくいった。
それを聞くクシナタ。
逃げよう。
クシナタも思った。
四つの銃が二人に狙いを定めている。
また、いつ撃ってくるかわからない。
非常に危険な状態だ。
急いで逃げなければ。
少しづつ、帰り道に向かって移動するクシナタ。
じっと、警備員たちと向かい合ったままのムラクモ。
クシナタがさっと走った。
帰り道に向かっていっきに走ったのだ。
バンッ。
と銃声が響いた。
カキンッ。
ムラクモが弾丸を打ち落とす。
キャッチャー前のゴロだ。
クシナタは転びながらも、帰り道を全力で走りつづけていた。
後ろを一回、振り向いた。
「ムラクモ」
クシナタがムラクモを呼ぶ。
ムラクモはクシナタの後を追って、警備員の方を向いたまま、帰り道をじりじりと後退し始めた。
油断すると、撃たれてしまいそうだ。
油断できない。
「先にいってろ」
ムラクモがクシナタに向かって叫ぶ。
バンッ。
警備員がムラクモに向かって銃を撃った。
カキンッ。
ホームランだあ。
ムラクモは飛んできた弾丸を大きく打ち返したあ。
ムラクモは隙を見て、帰り道を全力疾走で走り始めた。
急げ。
急がないと、警備員に撃たれてしまう。
ムラクモは何度も警備員の方を見て、銃を撃つか確認しながら、転がりながら、帰り道を進んでいった。
ひざを何ヶ所かすりむいて、痛かった。
クシナタもムラクモも、足に怪我をしていた。
だが、無事、警備員から逃げのびたようだ。
「走れ。走れ」
警備員に追いつかれるかもしれないから、二人は帰りの下り道を駆け足で走りながら、進んでいった。
クシナタは走りながら、涙が出てきた。
地球が壊れたって、どういうことだろう。
自分はもう二度と、家には帰れないんじゃないのか。
そんなことを考えながら、クシナタは走った。
走りに走った。
下り坂なので、全力で走るとかなりの速度が出た。
そして、曲がり道で転ぶ。
足をすりむいて痛かった。
ムラクモが追いかけてくる。
遠くに警備員が見える。
どうやら、警備員は監視小屋を離れて追いかけてくることはないようだった。
それは、警備員が侵入者について上官に報告したところ、その二人を始末する部隊はすでに派遣されているから、対処はその部隊に任せればよいとのことだからだった。
その部隊とは、二人を狙って森の大陸からはるばる追跡してきているフヅキとタケルの二人組みのことだった。
クシナタは安心して、ムラクモが来るのを待った。
そして、急ぎ足で、山道を下りていったのだった。




