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トキノマ  作者: 木島別弥
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 海の大陸は海ばかりの大陸で、海の中にたったひとつの島がある。

 人々は、そのたったひとつの島か、そうでないなら船の上に住んでいた。

「きれいなところ」

 クシナタが着くなり、感想をもらした。

「この大陸の人たちは、ほとんどが漁師をやって暮らしているはずだけど」

 ムラクモが海の大陸について知っているわずかばかりの知識を披露した。

 ムラクモも海の大陸に来るのは初めてなのだ。

 ムラクモから見ても、海の大陸はきれいなところだった。

 たった一つの島と、それを囲むターコイズブルーの海がきれいだ。

 海岸のそこら中で、人々が海水浴をして楽しんでいる。

 船に住んでいる人たちはというと、これがまた豪華な船で、透明な巨大な窓から、海に住む熱帯魚たちを観賞できるようになっているのだ。

「わたし、海の大陸に住む」

 と、クシナタが言い出した。

 ビル群の大陸でも聞いたようなことばだ。

「駄目だって。おれたちは命を狙われているんだぞ」

 ムラクモがクシナタの意見を一蹴する。

「トキノマっていったい何なの」

「それがわからないから、粘土板を見てまわってるんじゃないか。おれにはまださっぱりわからないよ」

 ムラクモが答える。

 誰もが幸せになれるといわれた伝説の楽園トキノマだが、粘土板を見てまわっている間に、その気持ちが揺らいできている。たしかに、トキノマは実在するのだろう。だが、始めに考えていたような単純な理想郷ではなさそうだ。

 海の大陸の粘土板について、必死になって聞きこみをしたところ、それは海底の神殿にあることがわかった。

 海の底の、透明な材質の壁でできた神殿に粘土板は保管してあるのだという。

 親切な潜水艦乗りさんが見つかって、二人をその海底神殿まで連れていってくれることになった。

 潜水艦乗りさんは三人いた。

 潜水艦は小型だが、五人ぐらいなら乗ることができるらしい。

 二人は喜んで潜水艦に乗った。

「クシナタはトキノマから来たんだ」

 ムラクモがクシナタを紹介する。

 おおっと潜水艦乗りさんたちが声をあげる。

「トキノマっていうと、創世神話に出てくる伝説のトキノマからかあ」

「そりゃまた、凄い客を乗っけてしまったなあ」

 素直に感嘆して驚く潜水艦乗りさんたち。

「だから、それはちがうって。わたしはトキノマじゃなくて、地球から来たんだって」

 クシナタがいつものように反論する。

「クシナタをもとの世界に帰すために、トキノマを探しているんだ。今のところ、最大の手がかりが粘土板なんで」

「ほう、そうか。海底神殿には行ってはいけないと政府からはいわれているが、まあ、今回は特別だな。内緒で送ってあげるよ」

 潜水艦乗りさんたちは気軽にいった。

「おれたちも海底神殿に入ったことはないんだ。近くへ行ったことがあるだけでな。だから、海底神殿に入るのはおれたちも今回が初めてってことになるんだ」

 潜水艦に乗って、数時間潜ると、目的の海底神殿に到着した。

 潜水艦乗りさんたちと一緒に、海底神殿に入る二人。

 海底神殿の床が発光していて、神殿の中を見ることができる。

 その光に誘われたのか、深海魚が海底神殿のまわりに時々、やってくる。

 海底神殿の中には空気が溜まっていて、普通に呼吸をすることができた。

 海底神殿には警備員はいなかった。

 だから、五人はのんびりと粘土板を見ることができた。

 粘土板に書いてあった文字は次のとおり。

 『その時空実験で砕けた』

 またしても意味がわからない。

 いったい何がどう砕けたというのだろうか。

 ムラクモが忘れないようにそのことばをノートに書き写す。

 これで粘土板のことばが四つ集まった。

 『我々の住む六つの大陸は、』

 『人類の行った時空実験によって、』

 『西暦2099年、』

 『その時空実験で砕けた』

 これだけではまだトキノマが何なのか、理解することはできない。

 まだ、六大陸世界の真実の歴史を知るためには、二枚の粘土板のことばが不足しているのだ。

「ふうん。これが粘土板かあ。こいつを政府は必死になって隠しているんだろ。なんかすごいことが書いてあるなあ。何かが時空実験で砕けたのかあ」

 潜水艦乗りさんたちが素直に感動している。

「なんか感激するなあ。今、おれたちは政府の秘密をのぞき見ているわけだろ。ぞくぞくしてくるなあ。このまま、本当にトキノマへ行けちゃったらどうしよう」

 潜水艦乗りさんたちがいう。

 潜水艦乗りさんたちはほんの軽いつもりでトキノマ探しに協力したのだった。

 だが、結果としてはそれが悪かった。

 政府の警備艇によって、海底神殿に入って粘土板を見たことを目撃されてしまったからだった。

 通信で、海の大陸から森の大陸にいるサクヤのもとへ報告が届く。

 粘土板を見たものが三人増えた。どうする。

 そんな内容の通信だった。

 ムラクモたちトキノマ探しの抹殺を担当しているサクヤは、判断を上官のヤマヒコに尋ねた。

「海の大陸で、新たに粘土板を見たものが三名、増えたようです。どうしましょう。三名の処置について指示をください」

 サクヤのことばに、ヤマヒコは一呼吸おいただけで答えた。

「抹殺しろ」

 サクヤはその指示に驚いた。

 いくらなんでも罰が重すぎはしないか。

「粘土板を見ただけで、抹殺するのですか」

「そうだ。速やかに抹殺しろ」

 サクヤはヤマヒコに判断を仰いだことを後悔した。

 三人のことはヤマヒコの耳に入れるべきではなかった。

 ヤマヒコの判断を聞かなければ、サクヤの裁量で見逃してやることもできた。

 しかし、もう命令が出てしまった。

 抹殺だ。

 また、トキノマ探しで無益な血が流れることになる。

 サクヤは部下のフヅキに連絡を入れた。

 任務の追加である。

 ムラクモたちと海底神殿に同行した潜水艦乗り三名を射殺せよ。

「理由は何ですか」

 フヅキがひとこと聞いた。

「トキノマ探しの罰だ」

 サクヤは間をおかずに答える。

 フヅキの心に痛みが再び突き刺さる。

「トキノマ探しは、本当にそれほどの重罪なのですか」

 フヅキは思わず質問する。

 納得できないのだ。

 無益な殺しはしたくない。

「そうだ。抹殺しろ。それが政府の決定だ」

 サクヤは断言した。

 しかし、心の中は揺れていた。

 フヅキと同じ疑問がサクヤの心にも芽生えていた。

 トキノマ探しがそれほど重い罪なのだろうかと。

 政府の判断は間違っているのではないか。

 仕事上、サクヤは自分が迷っていることを下に伝えるわけにはいかない。そんなことをしてしまったら、部下はどう行動していいのかわからなくなってしまう。部下の統率を乱してはいけない。

 だから、命令は常に断定口調だ。

 だが、サクヤはトキノマが何なのかを、本当に知らないのだ。

 自分の上層部は、トキノマが何なのかを知っているのだろうか。

 サクヤはその疑問を口にしてみた。

 ヤマヒコに質問したのだ。

「次官殿は、トキノマが何なのかを御存知なのですか」

 それはサクヤの最近のいちばんの疑問だった。

 何も知らない人に、抹殺指令を乱発されたのではたまらない。

 ヤマヒコは森の政府の次官の地位にあった。

 森の大陸でいちばん偉いのが、森の代表で、その次に偉いのが次官だ。

 一番偉い人の次に偉いから次官という。

「安心しろ。政府はトキノマの真相を知っている。すべてを知った上での判断だ」

「トキノマ探しは、何よりも重い重罪だと、そういう判断ですか」

「そうだ」

「その詳しい内容をわたしは聞くことができないのですか」

「駄目だ。トキノマについては、必要最小限の人員で対応することにしている。政府の判断に間違いはない。トキノマ探しをする五名を速やかに抹殺せよ」

「納得がいきません」

 サクヤは食い下がった。

「それだけの説明では、人命を失うことに納得がいきません」

 サクヤはそういった。

 返ってきた答えは意外なものだった。

「いいか。人類の存在そのものが悪なのだ。人類はこの宇宙に存在するべきではなかったのだよ。人類はかつてとんでもないあやまちを犯した。決して償いきれないだけの罪を犯したのだ。それを、人類は世界からわずかばかりの慈悲を授かって、ぎりぎりの状態で存続しているのだ。もし、わずかでも再び同じあやまちを犯す可能性があるのならば、人類など何人殺してもかまわないのだ。トキノマに関わるものすべてに死を与えろ。人類はそれだけの罪を犯して存続しているのだ」

 サクヤにはそのことばは承諾しかねた。

 ヤマヒコは危険思想の持ち主だ。そうサクヤには思えた。

 ヤマヒコの思想は過激すぎる。

 サクヤは迷った。

 だが、自分に何をすることができるだろうか。

 五名の抹殺命令はすでに部下に伝達してある。

 わたしがトキノマ探しの旅に出ようか。

 それ以外に、自分の心を納得させることはできないのではないか。

 そう考えると笑ってしまった。

 世界は皮肉なものだ。

 ムラクモやクシナタがトキノマの謎を解いた方が面白いな。

 そうすれば、とりしまりのドサクサにまぎれて、サクヤがトキノマの真相を知ることができるかもしれない。

 このまま、何も知らされずに抹殺指令を伝達しつづけるのは、心が痛すぎる。

 せめて、自分がトキノマの真相を知る者となって、今の仕事を行いたいものだ。と、そうサクヤは思ったのだった。

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