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トキノマ  作者: 木島別弥
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 ビル群の大陸は広かった。

 迷った。

 ひたすら下の階に下りつづけていた二人だったが、地下二十階で行き止まりになってしまい、それ以上、下に下りる道がなくなっていた。

 もう一度、上の階に戻って下りなおすしかない。

「ひょっとして、わたしたち迷子なんじゃないの」

 クシナタが痛いところをつく。

 図星だ。

 ムラクモはビル群の大陸の中で、いったい自分たちがどの階にいるのかもわからない迷子になってしまっていたのだ。

「まずいな」

 ムラクモはひとり思い悩む。

 政府の追っ手が迫っているのだ。

 無駄な時間をかけるわけにはいかない。

 しかし、迷子なのだ。

 政府の追っ手も、まさかムラクモたちがビル群の大陸で迷子になっているとは思うまい。

 恥ずかしい。

 ムラクモはかなり恥ずかしい状況に陥ってしまった。

 迷うことを許されない現状で、分かれ道をどっちへ進んだらいいのか、決めることができないのだ。

 旅をする者として、こんなことではいけない。

「下だ。ともかく下へ下りよう」

「なんで。さっき下からやってきたじゃない。この下は行き止まりだったよ」

 ムラクモの意見をクシナタが却下する。

 水と食料がタダなのだ。

 寝る場所だって、空き部屋がいくつもあるから、その中から適当に選んで勝手に眠ればいい。

 放浪するのに困ることは何ひとつないのがビル群の大陸だった。

 そんなわけで、ムラクモとクシナタは三十日ぐらい、ビル群の大陸で迷いさまよっていたのだ。

 そして、三十日目のある日、とうとう、地下二百階へ下りるエレベーターを発見したのだった。

「やっとか」

 ムラクモはエレベーターのボタンを押して、地下二百階に待機しているエレベーターを呼び出す。

 チンッと音がして、エレベーターの扉が開く。

 エレベーターの中に入り、操作盤を見ると、地下二百階のボタンが確かにある。

「ふう。ここまで長かったなあ」

 ムラクモがエレベーターの中でため息を吐く。

「いよいよ粘土板に会えるとなると緊張するなあ」

「また警備員がいるのかなあ」

 クシナタが心配を口にする。

 悩んでいても仕方がない。

 エレベーターはあらゆるためらいを無視して、どんどん下に下りていく。

 地上一階から、地下二百階まで、いっきに下りる。

 五分ぐらいかかった気がした。

 二人はやっと地下二百階に封印された粘土板のある部屋に辿りついたのだった。

 チンッと音がして、地下二百階で、エレベーターのドアが開く。

 地下二百階は、小さな小部屋だった。

 大きさ四メーターの真四角ぐらいの大きさの部屋だった。

 特に警備員もいない。

 ビル群の粘土板は、ただ、その小さな部屋に安置されていた。

 粘土板が透明のプラスチックケースのなかに保存されている。

 見学自由のようだった。

 誰にも邪魔されずに粘土板を見れるのは、これが初めてだ。

 発見するのに苦労しただけあって、発見してからの手間は簡単だった。

 二人は並んで歩いて、粘土板に近づく。

 粘土板にある文字が見える。

 そこに書いてあった文は、

 『西暦2099年、』

 だった。

 混乱するムラクモ。

 ことばの意味が何ひとつわからない。

 西暦って何だ。

 そんな暦は聞いたことがない。

 ムラクモが知っている暦は六大陸歴ただひとつだ。

 それ以外の暦が存在する意味がわからない。

 一方、クシナタはというと、その粘土板を見て感激して喜んでいた。

「わかるのか。書いてある意味が」

 ムラクモが聞いた。

「うん。わたしがいた場所では西暦を使っていたよ。うれしい。わたしの故郷のことを知っている人がこの世界にもいるんだ」

「西暦っていうのは、トキノマで使っている暦なのか」

「違う。何度いったらわかるの。わたしはトキノマから来たんじゃない。地球から来たの。地球では、西暦がいちばん多くの人に使われていた暦だよ」

 聞いても、意味がわからないが、ムラクモはともかくこの粘土板の文字をノートに書き写すことにした。

 これで集まったことばは三つ。

 『我々の住む六つの大陸は、』

 『人類の行った時空実験によって、』

 『西暦2099年、』

 これだけでは、ムラクモにはトキノマが何なのか、まったく理解することができない。

 やはり六枚の粘土板すべてを見てまわらなければ駄目か。

 ムラクモは力こぶしを握りしめる。

 トキノマ探しが半分に到達したのだ。

 残り三枚。

 確かに粘土板を見てまわるのは困難だが、不可能ではない。

 絶対に行ってみよう、トキノマへ。

 ムラクモはここで気分を新たに気合を入れなおしたのだった。

「なんか、やっと意味の通じることばが出てきて、家に帰れそうな気がした」

 クシナタがいう。

 クシナタは見知らぬ六大陸世界で、故郷の痕跡をやっと見つけることができて、少しほっと安心したのだ。

 ひょっとしたら、どこかにわたしと同じように地球からこの世界にやってきた人がいるかもしれない。いるなら、会ってみたいなあ。そうクシナタは思ったのだった。

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