第二話 デネブ 4
気がつくと、簡易灰皿を握りしめる金剛寺が目の前に居た。
「輝、色々分かる、お利口さんなんだから。今から、担任に自分の状況を説明出来るよなあ」
両目をとても細めた顔は笑んでいる様だが、威圧感しか感じない。
「行くぞ」と言われ、「洗濯が」と返すと、洗濯機をいじり「これで、乾燥まで出来る」と言われ一階に連れていかれた。
「せいちゃん、また、輝君をいじめてないよね。ダメだよ」
「俺がいついじめた。戸締まりちゃんとしとけよ、ベンチでの垂れてるのが男ならすぐに救急車呼んで乗せろ」
なでしこさんにあいさつする間もなく、僕は金剛寺に連れられ外に出た。
「こんちゃん、おはよう。その子、親戚の子?」
「違います、昨日なでしこが拾ったんです。しばらくここに居ますから、よろしくお願いします」
「えー、ついに、人間を拾ったか。なでしこちゃん」
「はい、至らない子供ですが、どうぞよろしくお願いします」
外に出てすぐ、金剛寺に話しかけてきたおばあさんとおじいさん。僕は、大きな手で頭をもたれ、深いおじぎをさせられた。
「じゃあ、また、今日も暑くなるので体調に気をつけてくださいね」
金剛寺は、さっきと違う笑みを浮かべて言い。僕を連れてその場をすたすたと去った。
「お前、あいさつはされる前にしろよ。目上の人には、きちんと敬語で話せよ」
歩いてすぐの駐車場着き、僕はシルバーの外車の助手席に乗せられた。
「……厳しい、お父さんかよ」
「なでしこが言ってたのか、あいつ、他に何か言ってたか」
小さく言ったのに、運転席に乗った金剛寺に聞こえていた。車が動き始めても、僕は答えず。
「言わないなら、このまま、西宮の家に強制送還してもいいんだぞ」
「……何で、そこまで知ってるんだよ」
「なでしこに、ベンチでの垂れてるのを助けてもいいが、家に入れた時はすぐに身分証を探して、スマホで撮って送れと言ってる」
「……弁護士が、プライバシーの侵害していいのかよ」
「緊急搬送時個人情報を調べるのは罪にならない。弁護士になりたいなら、もっと勉強しろ」
何で知ってるんだと思い、車が淀川通りの広い道路前で止まる。信号は赤、金剛寺が早口で言った。
「お前は未成年で学生で、なでしこと俺はお前と血縁のない他人だ。あの家に夏休み中居たいんなら、今から担任と話しをして、担任の目の前でお母さんに電話をかけろ。お前を見つけたのは俺で、お前は意識がなくて学生証もなく、一晩俺の家で寝かせていた。病院には念のため、学校に行ってから行く。進路の為になるから、この夏は俺の事務所で見学をし、俺の部屋でお世話になるとお母さんに自分の口で言って、説得しろ。それぐらい出来ねえと、弁護士にはなれねえぞ」
信号が青に変わり、車は学校の方向に曲がった。
*
学校のあと、金剛寺の指示どおりに訪れた病院で長い時間がかかり。僕がおばけ屋敷に戻れたのは、空が真っ赤になってからだった。
「おかえり。疲れてるねえ、先にお風呂入っておいで」
出迎えてくれたなでしこさんの優しい笑顔と声。僕は、目から水がこぼれそうになり、我慢した。
「これ、せいちゃんから。いらないから、あげるって」