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stars  作者: 二皿くも
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第七話 アステリズム 15

 そう思ったとき、金剛寺が平たい声で言った。


「じゃあ、俺とあいつが恋人になって、結婚しても。お前はいいのか」


「いいよ、金剛寺になら」


「じゃあ、俺じゃなくて所長なら」


 「それは、やだ」と言うと、金剛寺は大きく息を吐き。顔を下に向けて言った。


「お前、あいつのこと好きなんだろ。ひでえとこ見ても引かなくて、忘れようなんて全然思わなくて、あいつのこと幸せに出来そうなヤツ選ぶならいいと思うぐらい」


 「お前もだろ」と返すと、金剛寺は顔を上げぎこちない笑みを浮かべた。


 そのあと言葉はなく、僕たちは閑散とした商店街に入り。金剛寺は閉まっていた仏壇屋さんを全て周り、コンビニに入った。


「これでもいいだろ。そういや、淀川の花火見たがってた」


 線香花火とお互いの飲み物を買い、外に出るとすっかり日が暮れていた。

 金剛寺はビール、僕はスポーツ飲料を飲みながら、おばけ屋敷に戻る。


 家の前に置かれた、夏休み初日僕が意識をなくしたベンチ。ふたりで座り、水をはったバケツの上で花火に火を点けた。


 目の前、ぱちぱちと小さな火花が散り、水に吸い込まれていく。


「ルミ子さんの店、『だいあんさす』って、なでしこの花の英語名なんだ」


 新しい花火に火を点け、金剛寺が僕に渡してくれる。


「ルミ子さん、戦中に大阪に生まれて。鳥取の親戚に預けられて、十五で見合い結婚させられそうになって大阪に逃げ戻ったんだと」


 初めて聞くルミ子さんの話。教科書の中の様な出来事を、花火をしながら聞く。


「両親は探したけど見つからず、色んな仕事をして生きて。外国に奥さんと子供が居るひとと恋に落ちて、国に一度戻って帰ってくるって言葉を信じて、色んな男や所長の求婚を断って。待って、待って、恋人が好きな花を屋号にした店で待ってた」


 火花を散らす玉が落ちて、辺りが暗くなる。


「遺品整理でルミ子さんの日記を読んで、恋人はもう亡いと、知っていたのを知った。彩映や俺と会ったときは、知っていたのに、恋人ともうすぐ会えると語っていた。それは、自分の死期を知っていたからと、いなくなってから知った。ルミ子さんは、自分の悲しさを見せずにひとの悲しさを奪う、とても優しいひとだった」


 新しい花火を渡してくれた金剛寺に、僕は言った。


「……ルミ子さんと、彩映さんは。似てたんだ」


「だから、真似してることにして、やめさせようとしてたんだ。そんなの、本人は、絶対に幸せになれないだろ。まあ、元から彩映は、幸せになることなんか考えてないけどな」


「自己評価低すぎるよね、卑屈すぎるし」


「それ、お前もだからな」


 「お前もだよ」と返し、説教されるかと思ったのに、


「輝と俺は似てるようで似てない。俺は、好きなヤツには優しくすることしか出来ない。自分の言いたいことは言えない」


 金剛寺は、頼りなく見える笑みを浮かべて言った。


「僕には、言いたいこと言ってるだろ」


「自意識過剰だな。お前は、手のかかる弟みたいなもんだから」


「僕に言うみたいに、彩映さんに思ってること言えばいいのに」


 金剛寺は下を向き、「嫌われるのが、怖い」ととても小さく言った。


「僕は金剛寺が好きだ。彩映さんも金剛寺が好きだと思う。大人って、みんな、心配し過ぎだと思う」


 少しして、金剛寺は柔らかい声で言った。


「大人は子供の倍傷つきやすい生き物なんだ、優しくしろ。そう、八十近いルミ子さんがいつも言ってた」


 「覚えとけ」と言われて、僕は緩んでいるだろう顔で花火を受け取る。

 パチパチと頼りない火を落とすバケツの水に、ぼんやりとおばけ屋敷が映っている。振り向くと、怖さなんか感じない温かそうな家。


「輝、今、流れ星見えたぞ」


 金剛寺に言われて、空に向く。コバルトブルーの空に、ぽつぽつと小さな星たち。僕は、流れ星が見えたらお礼を言おうと思った。


 ……僕は、今、とても幸せだから。


「輝、ちゃんと三回願ったか」


「金剛寺は、何か、願ったの」


 花火が終わり薄い闇に包まれてから。笑みを浮かべている金剛寺と、僕は緩んでいる頬で同じ答えを言った。


『stars』了


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