第七話 アステリズム 14
「えっ」と大きく言い振り向こうとした僕に、「背中向けとけ」と言ってから金剛寺は続ける。
「その様子だと、ネットもテレビも見てなかったのか。まあ、賢いな。強い外的刺激を受けたときは、情報を遮断して、ルーチンをこなすのが一番らしいから。でも、スマホの電源は入れとけ。なくしたか落としたのかもしれないと、お母さんが心配していたぞ」
「……僕が戻ってからも、連絡とってたのかよ。てか、何で、ここに居るとき毎日連絡取ってたんだ」
「お母さんに少しでも安心してもらう為だ。毎日、お前のこと心配してたぞ」
僕は口を開くことが出来ず、金剛寺は続けた。
「妹の件は、事務所消滅で裁判する必要がなくなって、あいつのことを表沙汰にせず解決した。妹は、田畑さんの指導の元、ここにあいつが戻ってくるまでにまっとうに独り立ちさせる」
金剛寺も関わってるんだろうと思ったとき。
「……あっ! おい! 輝! お盆って、もしかしてもう終わったのか?」
携帯灰皿を握りしめる金剛寺が、僕のそばに立った。
珍しく焦ってる顔に、笑いたいのを我慢し「とっくに」と返すと、その場に崩れる。
「……まじかよ、仏壇も盆も必要ないって言ってたけど、まじかよ」
ぶつぶつ言う金剛寺が顔を上げ、「盆て、何するんだった」と言った。
「……えっと、お墓参りして、迎え火して送り火たいて」
「それだ」と立ち上がり、「行くぞ」と僕は外に連れて行かれる。もう日が暮れかけている道を歩き、蝉が鳴いてないのに気づく。
「あのな、自慢じゃねえけど、俺はそれなりにモテてきたんだ」
隣で少しふらつきながら歩く金剛寺が、僕を見ず、前を見て続ける。
「向こうから告白されて付き合ってきて。全員に、フラれてきたんだ」
何て言ったらいいか分からず、公園沿いの歩道を一緒に歩く。
「俺が優しすぎて、自分のことを好きかどうか分からない。みんな、そう言ってフってくる」
公園の茂る緑の匂いをかぎながら考え、僕は返した。
「……好きって、金剛寺が言ってなかったんじゃ」
「聞かれたら、言ってたよ。てか、好きじゃないのに付き合うかよ」
「……聞かれなくても、言って欲しかったんじゃ」
「フラれ続けて、俺もそう思ったよ。だから、初めて、言われなくても彩映に言った」
金剛寺から聞く彼女の名前を、言葉とともにどきりとした。
「気持ち悪いから、二度と言わないでって言われて。俺のが消えたくなったが、それでもそばに居た」
力ない笑い声を上げた金剛寺に、僕は思ったままを言った。
「……まじ、尊敬する。僕なら、彩映さんのそばから消える」
「さんづけしなくても、いいんじゃねえの。あれだけ、熱烈なラブレターもらったんだ」
初めて言った彼女の名にドキドキして、金剛寺の言葉に治まる。
「ラブレターじゃない。そういうこと言うなよ。僕、まだ子供なんだから」
「子供じゃないだろ。衣笠さんが、俺と彩映は輝を見習うべきなんだと」
「言い過ぎだよ。早く、歳取りたい」
「そう思っているうち、あっという間に、俺みたいな情けないおっさんになるぞ」
「金剛寺は情けないおっさんじゃない、イケメン弁護士だろ」
「そうだ、俺はイケメン弁護士で、彩映以外を見つけられる。だから、お前は気にせず文通してやれ」
「そんな嘘言うな。僕は、金剛寺もあの家にいないと嫌だ」
金剛寺が止まり、僕の顔をじっと見て、吹き出す。
「お前、それは、同情し過ぎだと思うぞ」
「同情って、優しくしたいことだろ。僕は、お前に優しくしてもらったぶん、まだ返せてない」
「じゃあ、彩映を俺にくれるのか」
「彩映さんは、モノじゃないだろ」
「じゃあ、フラれた俺に優しくしたいのか」
「フラれてないだろ。あれは、ラブレターじゃない」
夏休み前日の僕、ルミ子さんと出会ったときの金剛寺。ひとりだった僕らのように、今、ひとりの彼女からの手紙。
あの手紙は、金剛寺が言うようなものではなく。
……今、一生懸命がんばって、ちゃんと生きようとしている彼女そのものだろう。




