第七話 アステリズム 13
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「……お前な、これ、よく俺に読ませたな」
彼女の手紙から顔を上げ、眉間にシワを寄せた金剛寺が言った。
「衣笠さんも読んでるし、抜け駆けしたくないし」
ちゃぶ台の前、隣に座るのがとても久しぶりに感じて。くやしいけれど、少し嬉しく思ってしまった。
そんな僕とは違うのだろう、不機嫌そうな顔をした金剛寺は大きく息を吐き、ちゃぶ台の上持ってきたドーナツの箱に手を伸ばす。
金剛寺はふかふかした定番の丸いドーナツを手にし、がぶがぶと平らげ、低い声を上げる。
「おい、何で、俺にこんなの買ってくんだ。嫌がらせか」
僕が渡したタピオカ抹茶ミルクティーに、金剛寺は失礼なことを言う。
「衣笠さんからだ。金剛寺にも手紙読ませたいって言ったら、欲しくなるだろうから持っていってやれって」
「何で、よりにもよって抹茶なんだ。おっさん、俺が苦手なの知ってんだろうが」
「あいつは、新しい食べ物を頑固な老人みたいに拒否するし、食わず嫌いが多いから。いい機会だって」
「クソが」とつぶやき、眉間にシワを寄せて飲んだあと、金剛寺はシワをなくす。
「てか、もうすぐ六時だぞ、家に連絡してんのか」
太いストローとふたをとり、ごくごく飲む。見た目は正反対だけど、衣笠さんと似ている仕草に頬が緩む。
「衣笠さんが、九時までにはお家に帰しますからって連絡してくれた」
「クソが」と、少し会わない間に、口が悪くとてもやさぐれている金剛寺がつぶやく。
僕は、今、久しぶりにおばけ屋敷に居る。ドーナツ店を出てひとり向い、着いたときは少し感動して。インターフォンを鳴らすと返事はなく、衣笠さんに返してもらった鍵で入ると、ちゃぶ台の部屋で金剛寺は倒れていた。
慌てて起こすと、「寝ているだけだ」と言われ、「何で居るんだ」と強く言われた。ここに来たワケを話すと、金剛寺は「クソが」と言っていた。
「……金剛寺、クソって、口癖になってないか」
「仕方ねえだろ、クソ芸能事務所のことで、ここ数日まともに寝てねえんだよ」
そう言われ、仕事のシャツとパンツ姿で、顔がとても疲れているのに気づく。
「……大丈夫じゃ、なかったのか?」
「大丈夫にする為に、寝ずに動いてただけだ。そんな情けない声出すな」
僕が返す前に、「タバコ、すまん」と立ち上がり、金剛寺は台所に向う。換気扇を点けた下で銀色のライターで火を点け、細く煙を吐く。とても久しぶりに感じる光景と匂い。金剛寺は背中を向けたまま言った。
「輝、あの、もうクソじゃない妹な、他の所属アイドルと一緒に事務所を訴えることにしたんだ」
「えっ」と大きく言うと、「背中向けろ」と言われ、言うとおりにすると金剛寺は続けた。
「お前が実家に戻って、妹は田畑さんのところでお世話になって、盆に入った頃だ。あいつを拉致したこと共謀だと思われてもいいから、事務所を訴えたいって。俺に頭下げてきた。所長は俺の代わりに舞鶴に行って、あいつの了承とって、ここ三日本格的に動いてた」
「なのにだ!」と大きく言い、携帯灰皿でタバコの火を消して金剛寺は言った。
「今朝、事務所社長と、この間のヤツ含めた従業員が捕まって、事務所がなくなることになった」




