第七話 アステリズム 12
私は、ずっと私から逃げていました。そのせいで、輝君にとても迷惑をかけることになってしまった。
だから、君への気持ちに、君のことを考える前に、私はもっと自分をなんとかしなければと思っています。
練習方法の前に書いたことと矛盾してますね。輝君のことを想うと、いつもふたつの気持ちが出てきます。
君のことを想うと胸が温かくなって、そんな自分が気持ち悪くてすぐに冷たくなる。
一緒に居たときからですが、今は離れている君のことを考えると、私の中にどんどん感情が増えていきます。
お医者さんはすごくいいことだって言ってくれます。そうやって感情がたくさん出てくる様になれば、「自我を自己修復」することが出来て、ひとの気持ちを 考えられるひとになれるそうです。
自分とひとは違う、それでも、ひとに何かしてあげたい。そう思うことが社会で生きていくには必要で、それがひとたらしめるものなのだそうです。そんな自分になれたらと、今強く思っています。
そんな自分になりたいと思い始めて、物語でお金を稼いでいた頃を思い返しました。
物語をたくさん書いて、たくさんの人間を書いた。なのに、私は全然ひとが分かってなくて、物語をお金もうけの道具にしか思っていなかった。
作家さんや編集さんに物語に心がないと言われて、意味が分からなかったけれど、今はなんとなく分かります。
私の物語を読者さんが好んで読んでくれたのは、物語を読んでいるときだけでも心がないものになりたかったのではと思いました。
現実の辛いや悲しいから逃げたくて物語に没頭する。ふり返ると、私は学生時代に図書館でそうしていました。そんな自分と読者さんは同じだったのかなと勝手に思いました。
話が戻るのだけれど、君のお陰で産まれた感情は、もともと私の中にあったものの様です。
自分自身が作った壁を、感情が乗り越えてしまっていたものだと、お医者さんが教えてくれました。
そうやって乗り越えてきた感情、君と居ると、嫌なものも感じました。
最近、一番嫌いな感情と気づいた、寂しいです。
私は、寂しくなりたくないから、妹の言うことを聞き続けていたんだと気づきました。
妹は、私のたったひとりの友達だった。妹が小学生になってから、他の友達を作るのを禁止されて、私が中学生になると男の子と付き合うのを禁止された。
私にはちょうど良かった。妹だけなのが、だけでいいのが、とても安心出来たからです。
産まれた時から知っているあの子は、とても分かりやすく、扱いやすかった。妹と同じぐらい他人に深く関わって、裏切られてしまうのが怖かったし、妹だけなら何でも耐えられると思っていた。
お医者さんに、妹との関係は「共依存」と教えてもらいました。
私は誠志郎君に対して、妹と同じ「共依存」の関係を強要していたと思います。
大嫌いな男だけれど、私のことが大嫌いだから、安心して接することが出来た。なのに、過去の話をしてからすごく優しくなった。
誠志郎君が自分のことを話し始めて、私と同じ、ひとりだったのが分かった。ふたりで居るととてもひとりで、それに誠志郎君は気づいてなくて。かわいそうで、私は何度も離れようと言って、逃げようとしたけど無理だった。
どうしたら言うことを聞いてくれるのか。物理的に自分を傷つけた。それでも、誠志郎君は離れてくれなかった。
今は、無自覚に「共依存関係」を強要していたからと分かります。妹より、私のほうがタチが悪い。
自傷行為を見せて言うことを聞かすのは、ひととして最悪の行為。衣笠さんに怒られて、本当にそうで、私は最低最悪だと思いました。
誠志郎君にどう償ったらと聞いたら、衣笠さんに言われました。
ひとの好意を素直に受け取れないぐらい、私は傷ついている。傷つき過ぎて分からなくなっている痛みを、もう一度思い出しなさい。
そう言われて思い出した感情は、怒りでした。
私は傷ついていた。傷つきたくなんてなかったのに、衣笠さんの言うとおり、痛みが分からなくなるぐらい。
そんな自分がくやしくて、思い出したくありませんでした。でも、必要なことだったと、衣笠さんに感謝しています。
私は、今まで自分の傷に気がつかずに生きてきた。だから、今まで、気がつかずに色んなひとを傷つけてきたと思います。
後悔をしても仕方がなくて、これから何とかしていきたいと思うのは、自分に都合良すぎだと分かっています。
ルミ子さんと出会って、誠志郎君と出会って、衣笠さんや近所のひとと関わって、輝君と過ごしてひどい思いをさせて。自分がひとの気持ちが分からない、傷ついたひとだと気づけました。
お医者さんから慌てるのはよくないと言われたけれど、私は、早く、ひとの気持ちが分かる様になりたい。それで、私がしてもったことを、みんなに少しでも返したい。
せいちゃんと、「共依存」の関係じゃなくて、これまでのことを許してくれるなら友達になりたい。
輝君に、どうしてでも償って、もしも許してくれるなら、もう一度、プラネタリウムを見に行きたい。
あの日は、ルミ子さんがいなくなって一年経った日で、本当に寂しかった。
輝君がプラネタリウムで手をつないでくれて、温かくて、自分の温度が一緒になってすごく嬉しいと思いました。
私、君と一緒に居られるなら、まだ消えたくないって思った。こんな風に思えるなら、もう、消えてもいいよねって思った。
ふたつの感情に戸惑って、君にとってとても気持ち悪い妄想に逃げました。
君と私は同じ歳で、同じ高校の同じクラスで、私は授業中に君の横顔をこっそり眺める。そんな、普通でどこにでもあって、とても幸せなこと。
輝君と別れたあと、私はふたつの感情にぐるぐるになって、電話をかけてしまいました。
そのときの気持ちは手紙ではなく、会って伝えたいです。
なんだか、長くなり過ぎててごめんなさい。もうそろそろ終わりますね。
衣笠さんに、輝君が許してくれるなら、また手紙を書いていいと言われました。
手紙を渡されたら破って捨てて構わないので、許してくれませんか。読んでくれなくても、君に手紙を書けるだけで私はがんばれるんです。
最後まで勝手なことばかりでごめんなさい。長く訳の分からない事ばかり書いて、ごめんなさい。いくら言っても足りません、ごめんなさい、ありがとう。
星に、もう、私は願うことはありません。
私は、今、とても幸せです。
二○二×年 八月十七日 森彩映】




